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26.守護者

 そのラニサヴのセリフに対して、アルジェントは特に不思議には思わなかった。

 疑問に思っているポイントはアルジェントの中にもあるからだ。

(わざわざこんな所にこれだけの設備を造るとはやっぱりそれなりの理由があるだろうし、さっきの結界がどうのこうのって言う事からしてもただの地下施設にゃ思えねーけどな)

 考えるのが苦手な頭で考え出したのはそれだけ。

 最深部まで辿り着けばきっと何かがあるかも知れない。

「じゃあ先に進んでみよーぜ。何かすげーもんがあったりするかもよ?」

 ラニサヴ達を促す勢いでそうセリフを吐き出し、足音を通路に響かせながらこの先に何が待っているのかと言う期待と不安を胸にした。


 だが、通路はその先に30秒位歩いて行くとすぐに終わってしまったのだ。

「……あれ、まさかこれで終わりか?」

 通路の先には開けた大きな部屋があり、オブジェの様な像も左右にまるで守護者の如く鎮座している。

 天井もその場所だけいきなり高くなっているが、外から見ただけでは分からない位にこの森の中の岩山は高かった様である。

「結構広いなーここは。まー確かに森の中だったし、キャンプ張った場所からじゃこの岩山の洞窟の全貌は見えなかったし仕方ねーか……って、おいどうした?」

 ふとラニサヴの方をアルジェントが見てみると、そこにはポカンとした表情のままで一点に自分の視線を注いでいる彼の姿があった。


 その表情に思わずアルジェントもそっちの方向を見てみると、部屋の奥には木箱の山が乱雑ではあるものの置いてあった。

 そしてその木箱の山から溢れ出ている「それ」は間違い無く、先程ラニサヴがアルジェントに見せてくれた黒光りする鉱石……魔石だった。


「お、おいあれってまさか……」

「ああ間違い無い。魔石だ!!」

 ラニサヴがアルジェントの目の前で初めて見せる、その嬉しそうな表情。

 周りに生物の気配が無い事を確認してから、ラニサヴ達公国騎士団は木箱に向かって進んで行く。

 だが警戒は最後まで怠らない。

 何かトラップがあるかも知れないので、しっかりと用心しながら近づく辺りはやっぱり国の軍人なんだなーとその光景を見ながらアルジェントは思っていた。

(何に使うのかは分からねーけど、あれはこの国にとってよっぽど大切なもんらしいな)

 武術大会の話で出て来た帝国ではこの魔石が結構見つかっているらしいが、このエレデラム公国では逆に全然見つかっていないと前にラニサヴが言っていたのを思い出して、思わずアルジェントは苦笑いをこぼしていた。

(あの魔石ってのも俺が地球に帰る手掛かりになれば良いんだけどなー)

 せっせと魔石の回収に興じる公国騎士団を遠目に見ながらそう願うアルジェントの耳に、奇妙な音が聞こえて来たのはその時だった。


 カツン……。

「……?」

 何かが歩く、いや動く様な音が聞こえた気がした。

 耳をすませてその音がまた聞こえて来ないかと集中してみるが、アルジェントの耳がそんな音をキャッチする事は無かった。

(気のせいか)

 だったら別に良いけどさと思い、アルジェントは公国騎士団の面々が魔石の回収を終えるのを壁に寄りかかって腕を組んで待とうとした。


 だが、アルジェントの背中に細かい振動が断続的に伝わって来る。

「……!?」

 ビクッと驚いて壁から素早く離れたアルジェントは、その目に信じられないものを見てしまった。

「な、何だ…これ……ってそうじゃねえ!!」

 目の前の異常な光景を騎士団に伝えるべく、アルジェントは大声を上げた。

「おい、壁が動き出してるぞ!!」

 その叫び声が届き、公国騎士団の面々も魔石回収の途中で手を止めた。

 そしてアルジェントと同じく異変に気がつく。

「う、うわっ!?」

「総員戦闘準備!!」

 ラニサヴの指示を出す大声が部屋の中に響き、公国騎士団員達はそれぞれのロングソードやバトルアックス等と言った武器を構えた。


 しかし、その相手はラニサヴを含めた騎士団員達の武器では対抗出来るか怪しい。

 何故ならその相手と言うのは先程この最深部の部屋に辿り着いた時に目に入った、まるで守護者の如く鎮座している像。

 それが突然動き出して壁から離れ、騎士団員達に向かって来ていたからだった。

 まるで守護者、と言うよりもこれでは守護者そのものでは無いか。

 攻撃は大振りでスピードも非常にスローモーなものの、このままでは魔石回収を邪魔されてしまう事になる。


「おい、みんな逃げろっ!!」

 こんな状況で魔石回収なんかやっていたら、当然この守護者に殺されるだけだ。

 ここは無理に抵抗せずアルジェントの叫び声に従って、さっさと騎士団員達はそれぞれの武器を収めて入口の方向に向かって走り出した。

 それに続いてアルジェントも逃げるべく足を踏み出したのだが、そんな彼の目にとんでもない光景が映り込んだ。

「お、おいバカ何やってんだよ!?」

 この状況で真っ先に部下を率いてここから脱出するべきである筈のラニサヴが、その守護者の攻撃を避けつつまだ魔石回収を続けているでは無いか!!

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