23.魔物って?
その魔力が無い人間達と関わりのある騎士団長が居る国の方が良さそうだな、とアルジェントは決意しつつ、ようやく野営地の設営も終了した。
「それじゃあ貴様はここで待っていろ。俺達は中に進んで調査を始める。何人か見張りとして残して行くし、そこまで時間もかからないだろうから大人しくしていろよ」
まるで子供に言い聞かせるかの様なトーンだったが、もうこいつはその口調が当たり前だとアルジェントは思っているので、特にラニサヴに対しては何も感じなかった。
(慣れって怖いな)
何時の間にかこの異世界の雰囲気にも慣れて来ていた事もあってか、こうした自然環境が沢山存在している場所の様に、現代の地球の様なビルが沢山立ち並んでいる様な街並みから切り離された空間にずっと居るこの状況を、特に変だとも思わなくなって来ている自分にアルジェントは気がついていた。
だからと言って地球に帰りたく無くなった訳では無い。
むしろさっさと帰りたい。やっぱり自分の住み慣れた場所が1番だ。
その住み慣れた場所に早く帰りたいアルジェントは、魔石でも何でも良いからとっとと調査を済ませて公都に連れて行って欲しい気持ちで一杯だった。
アルジェントの見張り役として置かれている騎士団員も1人居るのだが、彼もまた本音を言えば調査に向かいたかったらしい。
「別に俺、ここから動いても行く場所も無いから動けねえし……だから調査行くなら行って来ても良いぜ。何分かかるか分からねーんだよな?」
と聞いてみたものの、騎士団員は首を横に振った。
「それはなりません。私達はここで貴方を見張るのが任務ですから」
職務に忠実らしいこの騎士団員だが、アルジェントにとっては絡み難い対象である事は間違い無さそうだ。
だったら……と暇潰しにこの世界の事をもっと色々聞いてみる事にする。
「真面目だね~。もっと軽く行こーぜ軽く。だったら話を変えるけど、魔物ってのは小さいのから大きいのまで居るのか?」
「はい。数々の種類があります」
「ああそうなんだ。って事はもしかして、国ごとに違う魔物が住んでいたりってのはあるのかよ?」
「はい。このエレデラム公国では余り大きな魔物は生息していません。大きな魔物でしたら他の国に行けば沢山目に出来る筈です」
「へえ、そうなのか」
だけどアルジェントの本音からしてみれば、そうした魔物には例えサイズがミドルクラスであっても遭いたくないのが正直な所である。
(例えば俺がハンドガンとかマシンガンとか持ってたら話は違うんだろうけど、今の俺は完璧に素手だしなー。それにここは地球じゃねーんだし、そう言う武器があの……ええと何だっけ、名前忘れたけど俺が最初にこの世界で出会ったあの魔物とかに効くのかすら分からねーんだよな。……あれっ、だったら結局不安な気持ちはそのままじゃねーか?)
もはや自分でも心の中で何を言っているのかすら分からなくなって来たが、とにかく魔物にはこの世界では出会いたく無いと言うのが自分の強い気持ちだとアルジェントは分かった。
他にもこの世界の話を色々と兵士について聞いてみたものの、気が付いてみればそれなりの時間が経っていた。
「……あれ、そう言えば気が付いたんだけどよ。中に入ったメンバー帰って来るの遅くねーか?」
「そう言えばそうですね」
「ここってそんなに広い洞窟なのか?」
「いえ、そこまで広い洞窟では無い気がするんですが……申し訳ありません、私もここに来たのは片手で数える程ですので」
「そうなのか。だったらちょっと時間掛かり過ぎかも知れねえな」
自分でも覚えている通り、ラニサヴからアルジェントは「ここで待っていろ」と言われている。
だけど時間が経つにつれて、こんなに遅くまで薄暗い洞窟の中であの騎士団員達が一体どんな事をしているのだろうかと心配になって来る。
もしかしたら洞窟の中で魔物に襲われてしまって戦っているのでは無いだろうか?
もしかしたら何かトラップがあってそれに引っかかってしまったのでは無いか?
この洞窟が思ったよりも広かった為、調査に時間が掛かっているんじゃ無いか? 等と色々な憶測がアルジェントの頭の中を過ぎる。
それにプラスして、アルジェントにはもう1つ気になる事があった。
「それとよー、向こうの出入り口は開いてないのか? あれ」
「えっ、出入り口……ですか?」
「そうそう、ほらあれだよ、あれ」
白い手袋をはめたアルジェントの指が指し示す先には、この離れた場所までも伝わって来そうな程の金属製で重厚感があるが、長い年月が経っているせいか表面はボロボロで金属部分もだいぶ錆びている長方形の扉があった。
「いやな、さっきから俺ずーっと気になってたんだよあのドア。あそこの方にも何かあるんじゃねーかなってこのキャンプの設営している時から思ってたんだけど、あそこって後で調べる予定なのか?」
指を差したまま騎士団員にそう聞いてみたアルジェントだったが、次の瞬間の騎士団員のリアクションはアルジェントを唖然とした表情にさせるには十分だった。




