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14.嘘くせー話

 その嘘くさい話を連発して来るラニサヴが、今度は逆にアルジェントにこんな事を言い出した。

「ところでだが、さっきのあの武器と防具の店の不可解な現象についてもう少し詳しく調べたい。あれは一体どの様にして起こったのだ?」

「え……ど、どんな風にって言われてもなぁ……」

 いきなりそう言われても、当の本人であるアルジェントにだってあの出来事は全く予想外の現象だったんだからまるで説明のしようが無い事だけは確かだった。

「俺だって良く分かんねーよ。だって俺、あの時はただ普通にあそこに置いてある売りもんの武器をただ手で掴んだだけだぜ。あんただって目の前で見てたよな?」

「それは……そうだが」

 確かにそう言われてみれば……とラニサヴも腕を組んで考え込む。


 だったらもう1度やって見た方が早いだろう。

 その考えがラニサヴの頭に浮かんでから、実際に試しに向かうまでは早かった。

「で、何でこんな状況になってんだよ俺は」

 今のアルジェントが居るのは、詰め所に設置されている小さな鍛錬場。

 その鍛錬場にやって来たアルジェントとラニサヴ、それから居合わせた騎士団員数名が地面に並べられている武器と防具を目の前にしている状況だった。

「もし貴様がこれ等の武器や防具を触ってみて、あの時と同じ事が起これば貴様の言い分を認めてやろう。まだあの時の事は全てを信じられないからな。だが今の状況であればこれだけの証人も居る上に、武器屋で売られていた武器や防具だけじゃ無い……この世界の武器も防具も貴様は使えないと言う事になるだろうからな。そうなったとすれば、こちらも色々と対策が取れるかもしれん」


「……まぁ、良いけどよ」

 この言い方に対して、なーんか偉そうな態度だなーと若干アルジェントは心の中でムッとしたものの、実際に騎士団長と言う立場なので軍人としても自分より偉い将軍の立場に居る人間なんだよなーと再確認して諦めざるを得なかった。

 確かにアルジェントは血の気の多い性格ではあるものの、いちいち構っていないでスルー出来る物事に対してはスルーしておかなければ、彼もまた人間なので神経が持たない。

 そのスルーした事よりも、アルジェントに取ってもっと大事な事にこれからチャレンジしなければならない。

 何故ならアルジェントの習得しているプンチャック・シラットでも、武器を使う事はカランビットナイフを始めとして当たり前だからだ。

 素手でも戦える様にトレーニングするのがプンチャック・シラットではあるものの、例えば大人数を相手にしてその相手全員が武器を持っているとすれば、それだけで一気に不利な状況になるのは間違い無い。

 武器を持っている相手に素手で立ち向かう事は、よほど実力に差がある状態でも無ければなかなか難しいものである。


 だからこそ、アルジェントもあの不可解な現象によって武器が「持てない」と言う事は不思議な事であるのと同時に不安要素でもある。

 周りに何か武器になる物があれば良いのだが、そんなシチュエーションがそうそう都合良くやって来るのもあり得ない。

 その時に自分も武器を持っているのと持っていないのとでは、そんな敵に襲われた状況を凌げる可能性が明らかに変わって来る。

 また、手合わせを申し込まれた時に武器を持っている相手に素手で戦えと言う事になれば勝てる確率が武器を持っている時より確実に低くなる。

 そんなあらゆるバトルシーンでの「しくじり」を出来るだけ回避するべく、今はとにかく自分がどの武器を使えてどの防具を身に着ける事が出来るのかをチェックするのが大切なのだ。

「それじゃあ、まずはこれから試させて貰うぜ」

 手袋を外した素手の状態で、アルジェントは足元に並べられた武器の中から自分が立っている位置に1番近い場所に置いてある、ファンタジーな世界ではオーソドックスなロングソードから手を付ける事にした。


 結論から言ってしまえば、今のアルジェントは茫然とした状態で鍛錬場の地面にへたり込んで休憩中である。

 その理由は、最初に触ったロングソードを始めとした全ての武器……ソード、スピア、アックス、ロングボウにショートボウ、そして魔法のロッドまでがアルジェントの身体を拒否する結果になったからであった。

「何で……どうして……」

 1番自分にとってふさわしくない……まさに最悪の結果で実験が終わってしまった事に対して、ポジティブ思考が自分の売りでもあった筈のアルジェントでもこの結果に対しては気持ちの整理がなかなかついてくれそうに無かった。

 この結果から言える事は1つ。

「自分はこの世界では武器を使う事が出来ない」と言う、余りにも残酷な事実だけだった。

 その事実に対して落ち込むアルジェントに向かって、ラニサヴは声のトーンを実験前と変えずにこう促した。

「まだ防具の方が残っているから実験は終わっていない。何時までもそこでそうされていても困るからな。さっさと立て」

 だったらせめて防具だけでも使える様にしてくれよ、とアルジェントはこの世界の神に心の中で祈りをささげてから次の防具のテストに向かった。

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