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13.幸運の国

 ラニサヴが言うには、このエレデラム公国は昔から妙に幸運が味方してくれる国なのだとか。

 と言うのも今の大公が先祖代々から物凄い強運の持ち主の連続で、だからこそ長年その大公の座に君臨して居るらしく、しかもその強運が国民全体にまで影響があるので争い事が起きても大した被害も無く今までやって来たと言う。

「そーだなー……単純に凄い強運って言われてもイメージ全然湧かねーよ。何かさ、こう……具体的なエピソードってねーのか?」

 凄いと口で言うのは簡単だが、実際に話を聞いてみるとあんまり凄いものでも無かったりした経験はアルジェントにも結構あるからこそ、きちんとしたエピソードがあればあるだけ納得出来る。


 アルジェントにそう聞かれて、それならば……とラニサヴは幾つかの幸運な国の由来となったエピソードを話し始める。

「例えば、か。まずは魔物が大量発生した時があったんだが、魔物の大元の巣は大きな洞窟の中にあった。その魔物の洞窟に討伐の為に騎士団が向かった所、到着の3日前から大雨が降っていた事とその洞窟周辺の地盤が緩かった事も重なって、騎士団が洞窟に入る前にその洞窟が全て崩落。当然魔物も全て生き埋めになって全滅したと言う事があった」

「うーん、それだけじゃまだ弱いな……。俺は地学にはからっきしなんだが、素人の考えからしてもそう言うのはその条件下ならありえそうな事だからなぁ」


 もしかしたらあり得ない事かも知れないので、アルジェントは適当にリアクションを濁しつつ次のエピソードをラニサヴに求める。

「前に……と言っても300年以上前の話になるのだが、今でも伝説としてこの国のみならず他の国でも語り継がれている話だ。その他の国がこのエレデラム公国に領土拡大の為に侵攻して来た時があった。その国が12万もの大軍をこのエレデラム公国に進軍させて来たのに対し、こちらの戦力はその6分の1の2万しか居なかった。誰がどう考えても勝ち目は薄いと思うだろう?」

「まぁ、確かにそうだわな。そんな戦力差なんてよっぽどの事でも無い限りは崩せる気がしないから、負けるのが俺でも目に見えちまうよ」

 ラニサヴの質問に対して、アルジェントは自分のストレートな答えを口に出した。


 だが、ラニサヴは若干誇らしげに首を横に振った。

「その余程の事が起こった。相手の大軍が都に向かって攻めて来た時、都の前には広大な平原があるのだがそこでお互いの分がぶつかり合う予定になっていた。しかし、その平原に敵軍が姿を見せて進軍して来た時、突然それまで晴れ渡っていた空が一気に雲に覆われて大嵐になったのだ。平原は瞬く間に土の地面がぬかるみ、相手の騎馬隊はまるで馬が役に立たずに足止めを食らう形になった。そこで我がエレデラム公国軍は一気に逆転する為、地元の地の利を活かして岩場の影や崖の上から足止めを食らっている敵軍に向けて矢を放ったり、落石を行う事によって勝利する事が出来たのだ」

「なるほどな……」

 何だか凄い偶然にしか思えないのは気のせいだろうか、とアルジェントはこの時思ってしまった。

 良い事の偶然でも何回も立て続けに起これば、それは幸運になるのであろうか?


 どうにもいまいちこう言う事は信用し切れないアルジェントは、更に次のエピソードを求める。

 すると、ラニサヴはとっておきのエピソードがあると言い出した。

「この国の都は大きな湖の中にある高台の陸地に出来ている。天然の防壁とも言えるその場所が出来たのが、この国の強運の始まりとも言われているんだ」

「この国の都が出来たのが?」

 それと強運と何の関係があるんだろうかと疑問に思うアルジェントに対して、ラニサヴはその時のエピソードを話し始める。

「大公の先祖までさかのぼって行くと、黄金に輝く剣を月の光にかざした所……大地が裂けてその都の自然の防壁が生まれたと言う伝説がある。だから今までの大公は歴代全てで「月の剣」の2つ名がついているんだ」

「そ、そうなのか……」

 でもそれはあくまで伝説だろ? と何処か冷めた気持ちでその話を聞くアルジェント。


 ミステリー物のテレビ番組等は全く見ない訳では無いものの、正直に言ってしまえば話半分で見ているのが実際の話である。

「じゃ、じゃあよぉ……その黄金の剣って何処から出て来たんだよ。それから何でその湖で光に剣をかざしたらその都が出来たんだよ?」

 今の話の中で最も疑問に思ったポイントを尋ねると、ラニサヴはこう返して来た。

「俺も伝承の中でしか聞いた事が無いから詳しくは知らん。その都を作ったとされる初代の大公は、元々別の場所にあった都の自室で自分の夢にお告げをされたそうだ。『この剣を満月の夜、湖のほとりで月の光に向かってかざすと良い』とな。そしてそれを実行した結果がそうなったと言う訳だ」

「…………」

 多分、自分以外の人間でも初めてこの話を聞かされた時にはこう思うだろう……と口には出さないものの、アルジェントは心の中でこう呟くしか無かった。

(嘘くせー……)

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