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7.お互い意味が分からない

 遠目で見ている限りでも相変わらず男は異形の生物を相手にして、退くどころか優勢な立場に居る。

 その異形の生物は何と口から灼熱の炎を吐き出して辺りの地面を黒焦げにするが、男は動じる様子も無いままその異形の生物が炎を吐き出した瞬間の隙を狙って、的確に前足を斬り付ける。

 その様子を何時の間にか、無意識の内にアルジェントはスマートフォンの動画機能を使って撮影していた。

 見入ってしまった故の行動なのだろうか、それともただ単純に興味から来た行動なのかは自分でも分からない。

 それでもそのまま撮影を続けていて、異形の生物が男の手によって亡骸に変わるまでには差ほどの時間を要さなかったのだった。


 アルジェントもそれを見て撮影を終了させ、動画を保存してからスマートフォンを内ポケットに仕舞い込んで男の元へと近づいて行く。

 そんなアルジェントに気が付いた男は、鞘に収めようとしていた二振りの剣……どうやらサーベルらしいそれを再び構え直して無言でアルジェントを睨みつけて来た。

「あ……っと、待ってくれ! 俺はええとな、その……怪しいもんじゃなくて……」

「その格好で怪しい者じゃ無いだと? 冗談はその位にしておけ。何者だ」

 厳しい口調で静かに、しかし何処か迫力のある声色でアルジェントに対してそう尋ねて来る赤髪の男。

 体格は細身であるものの、胸のふくらみやくびれが明らかに女のレベルでは無い事、それからその声色からして男であると自分でも認識したアルジェントは、両手を頭の横に相手に手のひらを見せるホールドアップの姿勢で掲げてから口を再度開いた。

「俺は軍人だ。訳あってこの辺りに迷い込んでしまってな。ここが何処だかも分からなくなってしまって帰る方法も分からないんだけど、近くの町ってここからどれ位歩いたら着くかな?」


 サーベルを構えつつその質問を聞いていた男だったが、だんだんとその顔に疑問の表情が浮かんで来るのにアルジェントも気が付く。

「……えっ、お、俺の顔に何かついてるか?」

 ははは……と乾いた笑いが出て来るアルジェントだが、男の表情が再度険しいものに変わった。

「貴様、何故魔力が無いんだ?」

「はっ?」

 いきなり何を言い出すのか。

 そもそも魔力って一体何の事だろうか。

 少なくとも、地球で生きて来た今までの人生の中ではなかなか聞く機会が少なかった単語である事に間違い無い。

「魔力……って、あのファンタジーとかで出て来る様なそう言う話? 悪いけど俺そう言うのは良く分かんねーんだよ」


 本心からそんな思いを伝えたアルジェントだったのだが、男は腰を更に落として警戒心を強めた顔つきと構え方になる。

「何を訳の分からない事を言っているんだ。魔力は魔力だろうが。俺は何故魔力が貴様の身体の中に無いのだ、と聞いているんだ。さっさと答えろ」

「だから俺も知らねえよ!! 何だよ、魔力って?」

 アルジェントにしてみれば男の言っている事の意味がさっぱり分からないのだが、男の立場から考えてみると、アルジェントが魔力がどうのこうのと言う事に対して疑問の声を上げているのが逆に意味が分からない様子らしい。

「何だと?」

「何だとって言われても、言っている意味が俺には分かんねーんだよ本当に。俺には魔力がどうのこうのって言われたって、そっちが何言ってるのか分からないレベルだからな」

「……」

「……」


 お互いの間に気まずい空気が流れるのが良く分かった。

 特にアルジェントの方は、男が真剣な目をして聞いて来るだけの質問だとうっすら感覚で理解していた為か物凄く気まずい。

「と、とにかくさ……俺は近くの町まで案内してくれればそれで良いんだ。道順を教えてくれるだけでも全然良いからさ」

 何とかこの気まずい状況と空気を打破しようと思ってそう言うアルジェントだが、男の警戒心はまだ解かれそうに無い。


 それでも心の何処かで納得したのだろうか、男は構えていた双剣をそれぞれの鞘に戻してアルジェントを促した。

「分かった、ならば俺に着いて来い」

「すまねえ、助かるぜ!!」

 どんよりとした空気が少しだけではあるが和らいだのを察知して、歩き出した男の背中を追いかけてアルジェントも素直に歩き出した。


 近くの町までは歩いておよそ15分程。林もアルジェントがイメージしていた広さよりも大分狭かった様で、5分も道なりに歩いて行けばすぐに抜ける事が出来た。

「着いたぞ、ここだ」

「えっ……」

 しかし、その町の入り口から見えるだけの町の中の様子を見てアルジェントは絶句してしまう。

 大きなビルも無ければアスファルトで固められた地面も無い。

 それから町の往来を歩き回っている人間達の服装も明らかに現代のファッションでは無い。むしろそれはアルジェントの住んでいるヨーロッパの凄く昔の……。

(中世っぽい……よなぁ?)

 流石に中世ヨーロッパの暮らし等はティーンエイジャーの頃に習ったので、魔力に疎いアルジェントでも知っているレベルである。

 でも何故こんな街に自分は案内されたのだろうか? とアルジェントは首を傾げてしまう。

「ここってあれか? どっかのテーマパークか何かか?」

 そしてそのセリフこそが、アルジェントを絶望に追い込んで行く切っ掛けとなるのだった。

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