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5.奇怪な生物と不信感

 もし、あの奇怪な生物が「本物」と仮定するなら相当危険なのはアルジェントが遠目にも見て分かる。

 その場合、近くを通っただけで襲われるかもしれない。

 でも、林の先へと続く道はその生物の前にしか存在しない。

 だったら引き返して別のルートを進むべきだろうか?

 しかしその場合は、林の奥深くまで入り込んで道に迷うかもしれないしもっと危険な生物にだって出会う可能性が無いとも言い切れない。

 色々と考えがグルグルと頭の中を駆け巡り、パニック状態のアルジェントは一旦深呼吸をして落ち着く。

(待てよ待てよ……そうだ、あいつを避けて通れる方法がある!!)


 そう、何も難しく考えなくても大丈夫。

 林と言う自然のフィールドを生かして、アルジェントは大きく道を外れて木々の間に潜り込む。

 そこから木と木の間を縫って進んで行き、不気味な生物の視界に入らない様にすれば良いだけの話なのだ。

 遠回りするのも1つの戦略。相手の背後を取るのにも良く使われるオーソドックスな兵法だ。

(と言うか、何であんな生き物が居るんだよ? って事はここは地球じゃ無かったりして……)


 半ばジョークでそんな事を考えてみるものの、1度そう考えてみると「あれ?」と疑問に思う事が出て来た。

 あのパイロンを持ち上げた時に光に包まれた事。

 気が付いてみればこんな林の中の空が見える場所で横たわっていた事。

 それから大きく迂回して遭遇を回避しようとしているあの奇怪な生物。何かの神話に出て来そうな生物ではありそうだが、そっち方面に疎いアルジェントは全く分からない。

 そして、ドッキリ企画のテレビ番組ならそろそろネタばらしがあっても良いかと思うのに一切その気配が無い事。


 そんな疑問が浮かんでは消えて行く自分の頭の中に対して、だんだんと不安な気持ちが大きくなって来るアルジェントは林の中を進む。

(まさかな……まさか……いやいやははは、そんな事あるわけねーっつの。大体今の地球は何でもテクノロジーの進歩で解明出来る様になったんだよ。確かにまだまだ解明出来てねー様な事もあるかもしれないけど、それだってもっとテクノロジーが進めばいずれ解明出来て……えっ?)

 そうだ、テクノロジーだよと思い出したアルジェントはその場からさっさと離れて、あの生き物の視界に入らないと自分で確認出来る場所まで進むと、軍服のジャケットについている内ポケットからゴソゴソと文明の利器を取り出した。


(これで今の場所と時間を確認すれば良いじゃねえか……)

 取り出した最新型のスマートフォンのスイッチを押す。

 武器の携帯は認められていないものの、通信用の端末に関してはアメリカ軍を始めとしてハイテク化が進んでいる。

 勿論セキュリティ上の問題もある為に持ち込みを禁止されている場所も多いのだが、演習で使っていた施設においては一部の場所を除けば自由に持ち運びが出来ると言う決まりだったので当然アルジェントも持ち歩いていたのである。


 だからこそ、こう言う時と場所でその地球のテクノロジーの進歩が生み出したハイテク機器を活用しないで何時活用するのだと思いながら、メインメニュー画面を目にしたアルジェントが見たものは…….

「はっ!?」

 これは明らかにおかしいとアルジェントが気が付いたのは、まずそのディスプレイに小さくではあるが表示されている時計を見た時だ。


 今は陽の光が差し込んで来ている林の中。

 つまり時間で言えば朝か昼の筈なのに、愛用のスマートフォンのデジタル時計が示している時刻は「20:27」である。

 白夜の南極にでも来てしまったのかと呆然とするアルジェントだが、心の片隅では冷静になっている状態のもう1人の自分が「そんな場所があるなら見てみたい」と呟いていた。それに南極であればもっともっと寒い筈であるし、あんな訳の分からない生物が生息して……いるかどうかはアルジェントも実際に自分で南極に行った事が無いので分からないからそこは考えるのを止めた。


 問題はもう1つの方……今の自分が居る場所の把握についてだった。

 地球上の何処であれ、よほど極地的な場所で無ければ今の時代は衛星によるGPS機能がスマートフォンにも備わっているのが当たり前である。

 アルジェントは自分のスマートフォンに搭載されているそのGPSアプリを起動して、演習を行っている施設へと辿り着こうとしたのだが、ここで2度目のショックを受けてしまう事になる。

「……はい?」

 GPSアプリが起動するには起動した。

 しかし、位置情報が取得出来ないと言う事でGPSは自分の現在位置を示してくれそうに無かった。


「何でだよ……」

 ポツリとそう呟いてしまった程にそのショックは大きい。

 位置情報も分からない、時間も多分正確では無いと言う事は今の自分の位置を把握出来ないと言う結果である。

 だったら通話してみれば良いじゃないかと電話で軍の関係者にコールしてみるが、電波が届かないと言う事でそれもダメ。

 ならばメールならどうだと手袋を外してメールを作成し送信してみたが、これも送信不能で未送信ボックスに入りっ放しで終わってしまう。

(この状況、もしかすると最早笑い事でも何でも無いんじゃないのか?)

 自分の軍服の襟に冷や汗が流れるのを、呆然とするアルジェントは感じ取った。

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