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32.試してみよう

「じゃあ夕飯の前に戦うか? 俺とあんたで」

 自分の戦い方に興味を持ってくれたのが嬉しいのか、はたまた別の理由なのか。何にせよ目を輝かせてそう切り出したホルガーだったが、リオスは苦笑いを漏らしながら首を横に振った。

「いやいや、別に君の戦い方……と言うかハンマー捌きを見せてくれればそれで構わないさ。

「分かった。それなら……」

 1つ頷いたホルガーは腰のハンマーをベルトから外す。どうやらワンタッチで外れる様になっている仕組みの様だ。

 そして、リオスの攻撃をハンマーで捌いてみせると言う。

「戦うんじゃないけど、とりあえず相手が居ないと戦い方も見せられない。何か俺に攻撃をしてみてくれないか?」

「分かった。どう言うものが良い?」

「特に指定はしない。あんたの好きな攻撃で」

「ん、分かった」


 攻撃を捌いて貰うだけならこの宿屋の部屋の中でも広さは十分なので、とりあえずリオスは右のパンチを繰り出してみる。

 その繰り出された右のストレートパンチを身体を捻ってホルガーはかわし、素早く体勢を低くしてリオスの腹部目掛けて右腕で肘を腹部に軽く入れ、リオスの身体が離れた所で右腕を外側に振るい腹部にハンマーを寸止め。

「ほう、なかなかだな」

「じゃあキックも頼むよ」

 感心するリオスにリクエストしたホルガーの言葉通り、今度はオーソドックスに右のハイキックを繰り出す。そのハイキックをしゃがんでかわし、リオスの履いている靴のつま先目掛けて右のハンマーを軽く振り下ろした。

「ははぁ、低い体勢の攻撃が多いのだな」

 その辺りは自分の習得しているカポエイラと似ている部分もあるなーと感心するリオスにホルガーは頷いた。

「どうしても剣とか槍みたいに長さがある訳じゃ無いしな。短いから接近戦になりがちなんだよ。だから遠距離から攻撃されると厄介になるから、自然と相手に接近して戦うスタイルがこうして身体にしみこんだのさ」

 魔法が使えればもっと良いんだろうけど、とホルガーはベルトにハンマーを戻しながら言う。


 そしてこんな話を切り出した。

「しっかし、それを考えるとあんたは結構潜入活動をするのには向いてるかもな」

「……何故?」

 いきなり突拍子も無い事を呟いたホルガーに、リオスはん? と思いながら問う。

「例えばあんたが何処かに潜入するだろ。普通そう言うのって自分の魔力を感じさせないようにプロテクトって言う魔力の壁を作って、相手の攻撃から身を守るのと同時に自分の魔力をその壁の内側だけにとどめておく事の出来る魔法があるんだよ。だけど、プロテクトは自分の魔力も消費する事になるからなかなか長時間の使用は出来ないんだ。でもあんたは魔力が無いから、自分の気配だけを消しておけばそれで済む話だろ?」

「そう言う魔法があるのか」

「そうさ。正直あんたの体質が羨ましい。俺の場合は、誰か他の魔法が使える奴にプロテクトの魔法をかけて貰わない事には潜入系の依頼を受ける事が出来ないからな」

 羨ましがられても……と複雑な気持ちを隠しきれないリオスは思わず苦笑いが表情に出てしまうが、心に引っかかる事が今の会話の中で出て来たのでそれも聞いてみる。

「……そう言えば、自分は魔法が使えないってさっき自分で言っていたが……何でそこまで魔法に詳しいんだ? 誰かそう言う知り合いが居たりするのか?」


 ホルガーはこくんと1つ頷いてから腕を組んで答える。

「まーそれもあるけど、便利屋としてはそうした魔法に関しての勉強もしなきゃいけないからな。基本的に「便利屋」だからこそ何でも請け負うし。さっきも言った通り俺自身は魔法は使えないから、魔法を使う依頼は受けない様にしてるんだけど……例えば帝都の魔術学院に届け物をしてくれって言う依頼を受ける事もあるし、魔物が多い地域に探索に向かう時には傭兵の他にも魔術師を護衛として向かわされる事もあるからその時に魔術について色々と教えて貰ったり回復魔法をかけて貰ったりしている内に自然と覚えたんだよ」


 凄く長いその説明を黙って聞いていたリオスは、納得した様に首を縦に振った。

「すると、君は魔術を覚えようとして覚えた訳じゃなくて便利屋の仕事で色々な依頼を受けたり、魔術師と行動を共にする事があったりしてその中で自然と魔術に関する知識が身について行ったと言う事になるのか」

「その通りだ」

 その後聞いた話によれば、便利屋として活動を始めたのは7年前の18歳の時らしい。そしてそこから色々な依頼を請け負って、この帝国のみならず周辺諸国を依頼を受けるついでに旅もして来た事で様々な知識や技術を身につけて来たとホルガーは語った。

「分かった。……さて、長々と話して貰ってすまなかったな。腹も減っただろうし話を一旦区切りにして、下の食堂に夕飯を摂りに行くとするか?」

「そうしようぜ」

 口数の少ない自分がここまで他人と話す事はなかなか無い物だな、と心の中でリオスは少し驚きながら、ホルガーと共に1階の食堂へと向かってやや早めの夕食を摂り始めるのだった。

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