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20.アイベルクとテコンドー

 アイベルクが夢の中で見ていた、自分の幼い時の記憶。

 それはまさしく、彼がこれから始めようとしている「日課」の一部分であった。

 これがあったからこそ彼はこの世界にやって来てから馬に乗る時に身軽な身のこなしをセバクターに見せる事が出来たし、盗賊団に襲われたあの時に襲い掛かって来た女や獣人に対して対抗する事が出来たのである。

 既にベテランどころか達人のレベルにまで達する位の長い期間習い続けているその武術は、足技と言えばこれだろうと言われる格闘技の1つであるテコンドーだった。

 韓国生まれのテコンドーはその華麗な足技で有名であり、純粋に格闘技の一種として習い始める人間の他にもアクション俳優が自分のアクションにアクロバティックな動きを取り入れたり、もっと華麗な足技を舞台やスクリーンで見せられる様になりたいと言う理由で習い始める場合もある。


 2016年現在では世界206カ国で普及しており、世界規模の大会も幾度と無く繰り広げられているテコンドーはまさに国際的なスポーツと言える。

 元々の基礎になったのは、韓国の隣国である日本生まれの松涛館空手。

 その松涛館空手をベースに「空手道コンスドー」や「唐手道タンスドー」と韓国で呼ばれ普及し始めたのが最初だと言われている。

 韓国の国技院副院長も「テコンドーは空手から派生したもので、キックのテクニックをメインにして空手と差別化を図った」としている。

 この事からもテコンドーにはキック技が多いのが特徴であり、アイベルクが素手で戦う時もキックメインで戦う事が非常に多い。


 テコンドーには大きく分けて「ITF」と「WTF」の2つの系統が存在している。

 2つの流派の他にも所属団体によって色々と細かい違いはあるにしろ、テコンドーの基本的な部分である「キック技に重点を置いたテクニックがメインである」のは変わらない。

 それからテコンドーはキック技がメインだと言われてはいるものの、勿論キック以外のもパンチのテクニックだって存在しているし、足払いだったり突き攻撃やチョップを習得したり相手への関節技や投げ技も習得するものとされている。

 一部では日本の柔道や合気道等からも護身術や急所突きをテコンドーに取り入れて一緒に習得する教室もあるので、「テコンドーはキックオンリー」と言う図式は間違いである。


 ITFテコンドーとWTFテコンドーの大きな違いはシステムとルールがある。

 ITFテコンドーは「International Taekwon-Do Federation(国際テコンドー連盟)」の略称で、1966年3月20日にソウルで発祥した流派だ。

 手足に「だけ」防具を着用した上でのライトコンタクト(手加減した上で当てる攻撃)制のルールで、下段攻撃は禁止だが顔面への拳攻撃はOKのルール。

 テコンドーのベースになった空手に近いスタイルでもあり、そのバックグラウンドからしても伝統的なテコンドーの流派であるとされている。

 ちなみにITFテコンドーの世界大会が最初に開催されたのは1974年の10月、カナダのモントリオールである。


 一方のWTFテコンドーは「World Taekwondo Federation(世界テコンドー連盟)」の略称であり、1973年に同じく韓国で設立。

 こちらは限定のフルコンタクト(手加減無しで当てる攻撃)制ルールを採用している他に、手足にだけ防具を着用するITFテコンドーとは違って頭と胸の部分にもそれぞれ防具を着用しなければいけないとされている。

 これらの事からも分かる様にITFテコンドーと違うのは安全性に重点が置かれている部分で、スポーツ格闘技としての側面が強い。

 それから試合においても連続突きではポイントが入らなかったり、ローキック等の下段攻撃が禁止されているのはITFと同じだが「顔面への攻撃」もITFと違って禁止されていたりする等、この面からもスポーツ格闘技としての要素が強い事が窺える流派なのだ。

「足のボクシング」とも言われているWTFテコンドーの大会では、型の競技や木の板等を始めとする様々な物を割って行く試割キョッパの競技等が存在している。


 2016年の時点で、テコンドーの競技人口は世界中でおよそ7000万人を記録しており、オリンピック競技の1つとしても知られている。

 アイベルクはこの2大テコンドーのどちらにも精通しているが、最初に習い始めたのはスポーツ格闘技のWTFテコンドー。

 そしてWTFテコンドーを習得した後にITFテコンドーの道場に見学をしに行ってみたり、ITFテコンドーの使い手からITFテコンドーを教えて貰ったりしたことでどちらの戦い方も知っている人間である。

 更にテコンドーのみならず、王国軍に入隊してからは軍隊格闘術も習得しているので使うのはテコンドーと軍隊格闘術の2つ。

 彼のその今の戦闘スタイルを形成するベースになったのがこのテコンドーであり、10歳から始めて現在28年目の大ベテランなのだ。

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