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11.言い掛かりと治癒魔術と

 その因縁をつけて来た相手と言うのが、ソルイール帝国の英雄と呼ばれている若手の凄腕冒険者だったらしい。

「この辺りの事情は色々とややこしいんだが、端的に説明するとその英雄とやらの言い分はさっぱり意味が分からないものだった」

「……確かにややこしそうだな。とにかく、その英雄とやらがニールと言う男に因縁を吹っ掛けたんだろう?」

「ああ。そしてその英雄の言い掛かりに構っていられなくなったニールは、関わるのを止めてさっさと逃げたらしいんだが、英雄はその言い掛かりを引きずって、自分が仲良くしていた帝国騎士団の団長に協力を要請したらしい」

「えっ……?」


 自分から言い掛かりをつけておいて、それで相手をされないのは当たり前と言えば当たり前だ。

 なのに、何故そこで帝国騎士団長が出て来るのだろうか?

 こうして人伝いに話を聞いているだけでも、確かに話がややこしいとアイベルクも感じてしまう。

「何でも、自分がギルドの冒険者達から慕われているのを利用して好き勝手やっていて、その好き勝手やっている所に騎士団長から世界征服の話を持ち掛けられたらしいんだ」

「また世界征服の話か?」

「ああ。ややこしい奴だが腕は確かなものらしくてな。ギルドのSランク……あ、Sランクと言うのは騎士団長に匹敵する程の実力者クラスなんだが、そのSランクの冒険者が一声掛ければギルドの冒険者達は動く。それが他国への秘密裏の侵略活動だったり、違法な物資の横流しだろうとな」

「随分やっているんだな」


 地球でも組織の上の連中が腐っていると言う話は良く聞くが、世界が変わっても人間が考える事は余り変わらないらしい。

「そうだな。その英雄に因縁をつけられたニールは逃げ出し、道中で色々な仲間に出会い、自分の世界に帰る為の手掛かりを探して帝国中を旅して、そして俺にも出会った。様々な遺跡の封印を解いて、俺達が見た事も無い様な設備のある遺跡の封印を解いてアイテムを集めていたんだが、その途中で仲間の女が裏切ったんだ」

「裏切った?」

「そうだ。最終的にその女は帝国のスパイだったと判明するんだが、その女にアイテムを取られたニールは奮起してアイテムを取り返す為に奔走した。そして、帝都の地下にある地下研究所でアイテムを取り返し、その奥にある遺跡に辿り着いたニールと俺達はその英雄と冒険者仲間、それから騎士団長が連れて来た騎士団員の軍勢と戦った」

「そして、勝ったと」


 アイベルクの締めにセバクターは頷く。

「帝国の英雄と騎士団長を2人いっぺんに相手にして、ニールはカラリパヤットと呼ばれる武術で戦って勝利した」

「カラリパヤット……ああ、インドの武術だな」

 その名前だけならアイベルクにも聞き覚えがあった。

「インドか。そのインドとやらの国の武術を20年以上やっていたのがニールだから、それで彼は危機を乗り越えて自分の世界に帰って行ったんだ」


「なら、私も自分の世界に帰る手掛かりを探したい」

 この2つの魔力を持たない人間達のエピソードを聞いたアイベルクは、自分もこれから先の旅で帰れるかも知れないと言う希望が湧いて来たのでそう申し出てみる。

 セバクターはその申し出に快く応じてくれた。

「分かった。なら俺も最大限に協力しよう。ちなみに……魔力を持たない人間には、治癒魔術と呼ばれる傷を治したり疲れを癒す魔術は効かない筈だ」

「……え? それってどう言う事だ?」


 まさかの余談に目を丸くするアイベルクに、セバクターは落ち着いた口調で答える。

「そのままの意味だ。治癒魔術は生物の体内に魔力を流し込んで、その体内にある魔力と融合させて効果を発揮させるのだが、魔力が無いあんたみたいな人間には魔力そのものがショックになるらしくてな。だから効果が無いどころか、かえってダメージを与えてしまうんだ」

「……実際にあった話か?」

「ああ。賢吾も美智子もニールも口を揃えてそう言っていたから、間違いは無いだろう。治癒魔術を掛けられると身体中に激痛が走るらしい。今の治癒魔術はこの半年でまた少し改良されて、前よりも人体へのショックは少なくなっているんだが……それでも、治癒魔術でその激痛があるかどうかは知らないが、激痛が無くなったとしても何も効果を感じないのは変わらないと思う」

 となれば、迂闊に怪我をする事も出来ないし疲れやすい行動は避けるべきだとアイベルクは考えた。


「それでは、これから昼食を摂って帝都に向かうぞ」

「えっ? もう?」

 もう少し遅くなるのかと思っていたのだが、意外と早いこの行動にアイベルクはきょとんとした。

「当然だ。陽が沈めばそれだけ野盗や魔物が出て来る可能性が高くなるからな。ここに陣を張っていたのは今日の早朝からだし、魔力が無い人間をこのまま何時までも城に連れて行かないと言うのは無理な話だからな」

「……分かった。手荒な真似だけはしないで欲しい」

「出来る限り約束しよう。しかし、その約束が守られるかどうかは貴様の出方次第によるからな」

 セバクターのそのセリフには、ほぼストレートの意味合いで「貴様がもし逃げ出したり抵抗したりするならば、こちらもそれなりの対応をさせて貰う」と言うものを、当のアイベルクは感じ取るのだった。

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