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9.魔力を持たない2人組

「俺が、あんたと同じく魔力が無い人間に出会ったのはこれで3回目になる。1回目は今から3年前、俺がまだ師団長だった時にさかのぼる。俺はその時、長らく取れていなかった休暇を取って、ここから西に向かった所にあるアイクアル王国の中に存在していた、シルヴェン王国に旅行に向かったんだ」

「存在していた……?」

 まさかそれって……とアイベルクが呟けば、セバクターは真剣な表情で頷いた。

「ああ。もうこの世界に存在しない国だ。そしてこの国が無くなったのには、その魔力を持たない人間達が深く関与しているんだ」

「えっ?」


 何がどうなって、その魔力を持たない人間達と国が滅亡する事が繋がるのだろうか。

「その2人が何かをした、とでも?」

「そうだ」

 冗談半分で聞いてみるアイベルクだが、セバクターが真顔で頷いたのでアイベルクは戸惑いを隠せない。

「じゃあ、それを詳しく教えてくれ」

「良いだろう。しかし、この世界の人間、それから動物に獣人と言った生物は魔力を持っているのが当たり前なんだ。だからなるべく他言無用で頼むぞ」

「分かった」

 色々と騒ぎになったら困るだろう、と言うのはアイベルクにもすぐ理解出来たので、ここから先は黙って話を聞く事にする。


「まず、最初に俺が出会ったその人間達は男女の2人組だ。年齢は俺と変わらない……俺の方が1つ上だったかも知れん。俺は今26なんだが、今も生きていれば同じ位だろうな」

「生きて……いれば?」

「あ、いや、言い方が悪かった。その2人は自分達の世界に戻ったんだが、その自分達の世界で生きていれば同じ位だろうと言う意味だ。まぁ、これはまた後で話す。……それで、まず男の方は久井賢吾と言う名前だった」

「ヒサイケンゴ……」

「ああ。それから女の方は神谷美智子と名乗っていたな。その2人は幼馴染で、向こうの世界に居た時から一緒に行動していて、それでこちらの世界に呼ばれたらしい」


 カミヤミチコと言う名前も気にはなるのだが、呼ばれた、と言うその言い方がもっとアイベルクは気になった。

「呼ばれたって?」

「そう、呼ばれた。その2人はこの世界の神に呼ばれて、この世界の問題を解決する事になったんだ」

「神……」

 地球では色々と信仰の対象とされる神だが、居ないと信じている人間も多いのが実情である。

「この世界では神が居るのが当たり前で、その神に呼ばれた、と?」

「そうだ。まぁ、これもまた後で話そう。その神の使い魔に呼ばれた2人は、シルヴェン王国騎士団に保護された。そしてこの世界の事を教えて貰いながら、自分達の世界に帰る方法を探していた」


 そこで言葉を切り、更に神妙な顔つきになったセバクターは何故その2人が王国の滅亡に関わったのかを話し始める。

「ここまでは良かったんだが、ある時その2人は知ってしまったんだ。シルヴェン王国騎士団が企んでいた、この世界を征服する為の計画をな」

(……そんなB級映画並みのチープなストーリーって……)

 表情と口には出さないものの、安っぽい映画や小説等でありがちな余りにもテンプレートなその話に、アイベルクは心の中で笑ってしまった。


「それで、世界征服なんかさせないとその2人が奮闘したのか?」

「そうだ。最終的にはシルヴェン王国騎士団と対立する事になったんだが、その時はもう決着がつく少し前だった。俺はその辺りでその2人と出会ったんだ」

「だったら余り長い時間関わっていた訳では無さそうだな」

「ああ。だが、その時に同時に出会ったのがこの世界の神のエンヴィルーク様、それからアンフェレイア様と呼ばれる、2匹の大きなドラゴンだったんだ」

「ど、ドラゴン?」


 ファンタジーな単語がいきなり出て来てまた戸惑うアイベルクだが、それが当たり前の世界のセバクターは構わず続ける。

「そうだ。俺も出会ったのは初めてだったんだが、野生のドラゴンとは比べ物にならない程の大きさ、威圧感、そして魔力の大きさをハッキリと感じた。その伝説のドラゴン2匹に対して、賢吾と美智子の2人はこの世界にいきなり呼びつけられた怒りで、ドラゴンの顔面を殴ったんだ」

「殴った……」

「ああ。エンヴィルーク様とアンフェレイア様は人間の姿になれる能力をお持ちの様でな。その人間の姿の神様をそれぞれ殴りつけたんだ」

 突拍子も無い話の連続で頭がどうにかなりそうなアイベルクだが、落ち着いて情報を整理する。


「その2人は、この世界の神とその使い魔に呼ばれた。そして王国騎士団に保護されて自分達の世界に帰る方法を探していた。だが、その途中で騎士団の陰謀を知って敵対し、自分達を呼びつけた神とあんたに出会い、神を憎しみの余り殴りつけた。ここまでで合ってるか?」

「ああ、それで問題無い」

 では続けるぞ、と言いセバクターは更にその2人に纏わるエピソードを口に出す。

「その2人の内、賢吾の方は昔から武術を嗜んでいると聞いていた。確か日本拳法とか言っていたな」

「日本拳法……」

 その名前からすると確か、アジアの日本と呼ばれる国の武道だったなとアイベルクは記憶している。

「そうだ。その日本拳法を子供の時からやっているらしいから、俺は手合わせをして貰った。そして俺は……負けた」

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