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8.「また」か……。

 アイベルクは自分の名前や職業等を改めて自己紹介した後に、今までの出来事……謎の光を放つ場所に向かってみて、そこでいきなり自分の身体が光に包まれてしまった事、あの洞窟で目を覚ました事、そしてセバクターに出会った事……つまり、自分の身に起こった不思議な体験を全て話したのである。

 そのアイベルクの体験談を聞き終えたセバクターは、組んでいた足を逆に組み直して腕も組んだまま考え込む。

「それでは、帝国内に入りたくて入って来たと言う訳では無いのだな?」

「そうだ。私も信じがたいのだがな……これが私を驚かせる為のイタズラだと言うのであれば、私もそろそろ我慢の限界だ」

 冷静な口調ではあるものの、確かにそのセリフの中には怒気が含まれているのがセバクターにも分かった。

 だけどそう言われた所で、別にセバクターも遊んでいる訳では無いのだ。

 帝国騎士団長としての職務を果たしているに過ぎない。

 この所は戦争も無いので、大陸を視察に行ってみては如何かと皇帝から直々に提案されたセバクターはその提案を受け入れ、部下を引き連れてこうして視察にやって来たのである。


 お互いにふざけてこんな事をしている訳では無いのだが、アイベルクはまだこの今の自分の状況が自分を驚かす為のドッキリなのか、映画のロケに迷い込んでしまったのか、はたまた長くてそしてリアルな夢を見ているのでは無いかとばかり思っている。

 と言うよりも、実際の話はそうであって欲しいのがアイベルクの本音だった。

 だが、今までの経緯を考えて行くとアイベルクは段々疑心暗鬼に陥って行く。

(この状況、普通の出来事では無さそうだが……ここまでして徹底して私を騙しにかかるとは……)

 ありえないのでは無いか?

 自分をわざわざ演習の期間内……部下への指導や他国とのやり取りをする上での事務作業等、かなり忙しい中でしかも自分をターゲットにしてここまで手の込んだやり方をするか……とアイベルクの思考が止まらなくなって来る。


 そんな思考に対して、強制的にブレーキを掛けて現実に引き戻したのはセバクターの声だった。

「……い、おい、聞いてるのか?」

「えっ……あ、ああ……すまない。少し考え事をしていた」

「今は大事な話をしていたのだぞ。しっかり聞いて貰わなければ困るのは貴様だ」

「すまない。それで、一体何の話だ?」

 アイベルクの質問に、呆れた様な顔付きで彼を見るセバクターはハアッとため息を吐き出して口を開く。

「全く……。今俺が話していたのは、貴様のこれからの処遇についてだ」

「私の?」

「そうだ。貴様の経緯については俺も把握したが、ひとまず帝都に連れて行ってから色々と考えなければならないからな。皇帝陛下にも謁見して貰うし、それから検査も受けて貰う必要がある。魔力が無い人間だからな」

 そう言われても、アイベルクの頭の中にはまた疑問ばかりが浮かんで来る。

「魔力が無い人間と言われてもな……。私は生まれてから38年、ずっとこの身体で生きて来ているんだ。そもそも魔力等と言う単語は初耳なのだがどう言うものなんだ?」

「……えっ?」


 感情を表に出さないタイプのセバクターだが、このアイベルクの疑問にはさすがに表情を変えざるを得なかった。

「……ちょっと待て、魔力と言うものを知らないだと?」

「ああ。私は生まれてから色々と経験しているが、魔力と言う単語については初耳だな。話を聞いている限りでは、どうやら人間の体内に存在しているものらしいが……それが私の身体の中には存在していないと言う事になるのか?」

「くそ、またそこからか……」

 アイベルクの質問に対して、セバクターはどう説明するかを凄く悩む事態に自分が陥っているのだと理解する。

 このエンヴィルーク・アンフェレイアに生まれ育った人間の体内には、絶対に魔力が存在している筈なのだ。


 なのにそれが無いと言う事は、このアイベルクと言う男はこの世界にとっては異端な存在と言う事になるのだ。

 色々と思考がこんがらがって黙り込んでしまったセバクターを不審に思ったアイベルクは、先程自分が考え事をしていた時の逆パターンでセバクターに声を掛ける立場になる。

「おい、一体どうした?」

「……すまん、どうやって貴様に説明するべきなのか悩んでいる所だ。まさかまた現れた魔力が無い人間で、しかも魔力についても全く知らないって事だろうから……どうするか……」


 腕を組んだまま考え込むセバクターを見ていると、アイベルクは先程このセバクターが言っていた事を思い出した。

「そう言えば、今もそうだが……あんたはこう言ってなかったか?」

「え?」

「私の様に「また」魔力を感じる事の出来ない人間に出会った、とな。私の前にも出会ったその人間の事を思い出してみたら、少しは説明もしやすくなるのでは無いか?」

「ふうむ……何か貴様と関係があるのかも知れないな。良いだろう」

 過去、自分の前に現れたのが記憶に強く残っている。

 自分の心にまだもやもやとして残ったままの、今自分の対面にいるアイベルクと同じく魔力を持たない人間についてセバクターは話し始めた。

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