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3.引っ張られる!!

 アイベルクは固定観念にとらわれていた。

 光を発している原因が、今の今までずっと「人間である」と思い込んでいたのである。

 その固定観念が覆される事になったのは、自分の視界の端にまた同じ光が飛び込んで来た時だった。

「……!?」

 若干動揺しながらもその方向に目を向けてみるアイベルクが目にした物は、自分をまるで呼んでいるかの様に点滅を繰り返す光だった。

 爆発物の類か、それとも何かのブービートラップか。

 いずれにせよ警戒しながら確かめてみないと、最悪の場合は命を落とす可能性だって無きにしも非ずであろう。

(何だ、一体……)

 点滅を繰り返すその光を警戒して、余り気が乗らないアイベルクだが今ここで調べておかなければいけない事なのだ。

 慎重に、冷静に。

 今こそアイベルクはこの光に少し動揺してしまったものの、すぐに冷静さを取り戻すと目つきを鋭くして光に向かって1歩ずつ革靴の底で地面を踏みしめながら近づく。


(爆発物……の類では無いみたいだが……)

 いや、カモフラージュかもしれないのでここは爆発物のスペシャリストの部隊を応援として呼ぶべきかと一旦引き下がる事を決意したアイベルクだったが……!!

「……!?」

 光がその瞬間、まるで自分にスポットライトが当たったかの様にかなり強い勢いでアイベルクに襲い掛かる。

 思わず顔を腕で覆ったアイベルクは、何だか自分の身体が引っ張られる様な感覚になった。

「なっ、何……だっ!?」

 鍛え抜かれた強靭な足腰をフルに発揮して踏ん張るものの、余りにも引っ張られるパワーが強過ぎてアイベルクは体勢を立て直す事が出来ない!!

「うっ……うあああああーーーーっ!?」

 訓練の時に部下に気合いを入れる時以外、滅多に聞く事の無いアイベルクの叫び声が誰も居ない夜の合同演習用の軍事基地内部に響き渡った。


 身体が何だか非常にだるい。

 一体、自分の身に何が起こったと言うのだろうか?

 奇妙な光に包まれて、自分の身体が引っ張られる感じがしたアイベルクは、全身に感じる気だるさで身を起こした。

「……え?」

 その目に映った光景に、思わずアイベルクは唖然とした表情と声色で固まってしまった。

 多少開けた場所ではあるものの、目の前には自分を捕らえる寸前の獲物の様にポッカリと口を開けて待ち構える何処かの洞窟がある。

 後ろを振り返ってグルリと360度を見渡してみたが、目に入るのはその洞窟と岩の壁だけ。かなり上の方からは光が差し込んで来ているものの、登って行ける程の出っ張りは下から見上げる限りでは見当たらない。


(一体、何が起こったんだ……)

 とりあえず、軍服のズボンのポケットに入れてあるスマートフォンで現在の位置情報をアイベルクは確認しようとしたが……。

(……ダメか)

 圏外でGPSも通話もそしてメールも使えない状況らしい。

 こうなったらどうにかして自分で元のあの倉庫まで辿り着くしか無い様だと立ち上がったアイベルクは即座に判断し、まずは目の前に見える岩壁の通路に向かって歩き出した。

(それにしても、一体此処は何処なのだ?)

 普段から冷静沈着で的確な状況判断が出来ると評価を貰っているアイベルクでさえ、今の状況では流石にどうにも出来そうに無い。


 自分の意識が回復したあの光の差し込む場所が分からず、それからただの置物に近い状態になってしまっている役立たずのスマートフォンしか持ち物も無い上に、自分以外の人の気配も今はしない。

(この状況で考えられる事は……誰かに私は誘拐されたか? それとも誰かのいたずらか? 少なくとも、私はこの様な場所に見覚えは無いがな)

 今はこの岩の洞窟から脱出するべく足元に気を付けて進んで行く。

 ただでさえこう言う荒れた地面の状況に不慣れな革靴を履いている為、時にはスマートフォンのディスプレイ画面を点灯させてそれをライト代わりにして洞窟を進んでいた。

 一体誰が何の目的でこんな事をしたのだろうか?

 自分に対して何か恨みのある人間の仕業か、それとも愉快犯の犯行か。

 全てはまずここから脱出してから調べると決意したアイベルクの前から、何者かの足音がコツコツと聞こえて来た。


「……!」

 音を聞く限りは人間であろうか。それに、この足音からするとスニーカーでは無くてブーツで歩いている様である。

 もしかするとここに散策に来た人間かもしれないと思い、アイベルクは警戒心を緩めないながらも無意識に足を進めるスピードをアップさせていた。

 しかし、この後にアイベルクがその足音の主と出会った事を皮切りにして、帝国陸軍の大佐である彼でさえも38年の間で初めての経験に巻き込まれる事になろうとは知る由も無い。

 幾ら陸軍の大佐だからと言って、世界の全てを知っている訳では無い。

 むしろ軍と言う閉鎖的な集団の中で長年生活して来たからこそ、こうしたイレギュラーな展開が自分に待ち受けていると知るまでに彼はさほど時間を要さないと言う事を思い知るのである。

 そんな展開がスタートする記念すべき最初の展開として、足音の主とアイベルクがいよいよエンカウントする!!

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