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47.恋心

 次の朝も同じく、朝食を済ませてから馬に乗って帝都までひた走るグレリスと騎士団員達。

 騎士団の見立てでは、このペースで行けば予定よりも少し早く……今日の真夜中には帝都に着けるのでは無いかと言う事であった。

 真夜中であれば目立たずに行動出来るので、もしかしたらアニータの居場所をこっそり突き止める事が出来て彼女を助け出す事まで出来るかもしれない、とグレリスは密かに考えている。

 真夜中まで掛かって辿り着く帝都とは、一体どの様な所なのだろうか。

 グレリスの心はそのワクワク感と、それから騎士団長殺しの仲間だと見られるかもしれないと言うドキドキ感と、アニータを無事に救い出せるのか分からないと言う不安感がミックスされた複雑な気持ちで一杯だった。


 カルブラット山脈を大きく回り込み、馬をハイスピードで駆けさせて来ただけあって、当初の見立てであった3日以上掛かってしまうかも知れないと言うこのルートでも、真夜中とは言え早めに着けるのはグレリスとしてはありがたい。

 時間が経てば経つ程、アニータがいかがわしい事をされているかも知れないし、暴力を受けている可能性だってあるので、早めに着ければそれだけで不安は幾ばくか解消されると言うものだ。

(アニータが何処に居るか、それが問題だな……。それからあの連れ去った連中の他にもまだ仲間が居るかも知れねぇから、帝都に着いたら騎士団員達には待ってて貰って俺1人で乗り込むか……?)

 それよりも、あの連中の奴等が迎えに来た場合には自分が素直に着いて行き、その後ろから騎士団員達に尾行して貰ってアジトを突き止めるか、等と色々思考をグレリスは巡らせる。

(……ん? 何か俺、何時もと違うな…)


 自分がこんなに頭を働かせるのは珍しい、と思う今日のグレリスは何だか冴えていた。

 もしかしたら上手く行く前兆かも知れない。

 そう思うと自然と、操っている馬の足取りも何だか軽やかになった気がする。

 人の気持ちと馬の気持ちがシンクロしたと言う事だろうか?

 とにかく、何故か頭が冴えているこの状況をキープしたまま帝都まで辿り着くべくグレリスは馬を走らせる。

 こちらも走っている途中で気が付いたのだが、騎士団員が走らせている馬の後ろから引き離されている間隔が初日と比べて目に見えて近くなっているのだ。

 騎士団員達の馬のペースに必死に食らい付いている内に、グレリスの馬術のテクニックも上達していたのである。

 もちろん、まだまだ騎士団員達に比べればコントロールテクニックもスピードレンジへの慣れも無い状況なのだが、そこは若さ故の度胸と勢いでカバーしている。


 土煙を上げながら疾走する馬の一行は、そうしてようやく3つ目の町へと夕方に辿り着いたのであった。

 ここで騎士団員達とグレリスで話し合った結果、まずはグレリスがレンタルした馬を騎士団に預けてそのまま返却して貰う。

 そしてここからは馬では無く、グレリスのみが乗り合い馬車を使って帝都まで行く事になった。

 馬で直接乗り込めば、何故馬で来たのかとあの連中に怪しまれる可能性があるからと言う事で乗り合い馬車をチョイス。

 掛かった時間が早いんじゃ無いか、と聞かれでもしたらその時は「馬車を飛ばして貰ったから」と何とか押し切ってみてくれと騎士団員達に提案されたグレリスは、昼食も兼ねた夕食を済ませて乗り合い馬車に乗り込んだ。

(荒っぽいと言うか、何処か雑さを感じる作戦だな……)


 その作戦の内容に多少の不安を覚えたものの、怪しまれない様にすると言う事についてはこれが1番リスクが低くて済むだろうとグレリスは強引に自分を納得させる。

 夕方に出発して深夜に辿り着く乗り合い馬車と言う事もあってか、乗客はグレリス以外に居なかった。

(時間掛かるだろうし、ここは無駄な体力使わない為にも寝て体力を温存しておくか……)

 帝都に向かうと言う事は、自分と同じく魔力を持っていない人間に殺されたと言う騎士団長の部下も居るかも知れない。

 言わば、敵の本拠地へと乗り込んで行くのと同じ様な事である。

 起きっ放しで緊張感を保ったままと言うよりは、ここで少しでも睡眠を摂っておきいざと言う時の体力を蓄えておけば不安も少し解消されるだろうとグレリスは考えたのだ。

 騎士団員達曰く、この馬車は帝都の中までノンストップで入れる様に手配してあるとの事で手続等の心配も要らないの情報であった。


 ならば尚更の事、しばしの休息と言う事で雑魚寝の姿勢に入るグレリス。

 アニータは今、どうしているのだろうか?

 彼女の事ばかりがどうしても頭をよぎってしまうこの状況で、グレリスは自分の中に生まれた感情があるのに気が付いていた。

(ああ、そうか俺は……知らない内にアニータの事を……)

 好きになってしまったのかも知れない。

 口調はきついし性格も不愛想だけど、命の恩人であり何かと世話を焼いてくれた彼女の事が。

 もしまた彼女に無事で会えたら、その時は一体どんな気持ちになるのだろうか?

 帝都に向かって進む馬車の中で、若きバウンティハンターに1つの恋心が芽生えた瞬間だった。

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