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43.エスクリマ(カリorアーニス)

 そんな経緯があって、自分の体格では向いてないのでは無いかと言われる器械体操を16年以上続けているグレリスだが、今更辞める訳にもいかずに惰性でやり続けているのが本音である。

 そのやり続けている成果が、最初のあの不気味な建物からの脱出を始めとしてこの世界にやって来てからのピンチを切り抜けられた事に繋がっているのだから。

(もし俺が器械体操をやってなかったら、あそこからの脱出は無理だったろうな)

 そう考えると、自分に向いていなくても続けていて良かったと思わざるを得ないのでグレリスの心境は複雑である。

 複雑な気持ちを抱えつつも馬を走らせ、その日の夜遅くには2つ目の町に到着した一行。

 ここでも詰め所で食事とベッドを提供して貰う代わりに、色々と雑用を頼まれるグレリス。

 やっぱりギブアンドテイクの精神で成り立っているらしい。


 それ自体は別に構わないのだが、グレリスはこの先帝都に向かってから「アニータの所在をどうやって確認するか」と言う事を考えずにはいられない。

(とりあえず帝都に行けば何か分かるかも知れないな)

 と言うよりも、今の自分に出来るのはそれだけだとグレリスは思い直す。

 元々そう言う小難しく、頭を使う事が苦手なグレリスの辞書には「作戦」や「知略」等と言う単語はインプットされていない。

 アニータに以前話した通り、捕まえたターゲットが逃げ出そうとした過去の話もあって用心深くはなったものの、その用心深さと知略がグレリスの頭の中ではどうやら結び付いてくれなかった様である。

 今だって、帝都に向かえばアニータの行方が何か分かるかも知れないと考えているだけなので、グレリスはとりあえず帝都に向かう事しか考えていない。


 その反面、器械体操の経験からも分かる通り体力には自信がある。

 バウンティハンターとして活動するにあたって、器械体操だけではターゲットが抵抗して来た時に立ち向かえないと周囲から言われてエスクリマを習い始めたのだ。

 しかし、ここでもグレリスは己の気が付いていなかった一面に気づく事になる。

(……俺ってセンス無いじゃん)

 習い始めたは良いものの、基礎的なテクニックを身につける事は出来た。

 しかし、そこから先がなかなか身体で覚える事が出来ない。

 確かに体力はあるし、身軽な動きも出来るものの……徒手格闘のセンスはグレリスには無かった様であった。

 それでも1度始めたからには止める訳にも行かなかったので、エスクリマを習い始めたその18歳の時から8年後の現在でもまだエスクリマと器械体操を続けている。

 エスクリマのテクニック不足は、器械体操で培った身軽な動きでカバーしていると言った方が良いだろう。


 エスクリマと言うものは、アメリカで大人気のマーシャルアーツの一種である。

 しかし発祥したのはアメリカではなく、東南アジアのバナナが有名なフィリピンだ。

 エスクリマと呼ばれる事もあれば、他の地域では「アーニス」と呼ばれる事もあるし「アルニス」とも呼ばれたり「カリ」と呼ばれる事もある。

 発祥したフィリピンでは、学校の体育の授業で取り入れられる国技として正式に認められている武術でもある。

 素手での戦いがあれば、棒やナイフに紐と言った道具を使った戦い方もあるので色々な状況の戦い方をイメージした戦術を組み立てる事も可能だ。

 名前の由来はその昔、フィリピンがスペインに統治されていた時代にさかのぼる。

 当時フィリピンを統治していたスペイン人が、現地のフィリピン人達の武術を見て「エスクリマ」や「アーニス」と呼ぶ様になったのが始まりだ。

「エスクリマ」はスペイン語で「フェンシング」を、「アーニス」はスペイン語で「鎧」を意味し、「カリ」はビサヤ語のkamot(手)とlihok(動き)の単語2つの頭文字をくっつけたものだ。

 そして、名前だけがスペイン語で呼ばれる様になった訳では無い。

 エスクリマのテクニックの中には、スペイン人のフェンシングから大きな影響を受けているものがある。

 例えば攻撃に使うロングソードと防御に使うショートソードの二刀流剣術……16世紀以降のレイピア剣時代に使われていた剣術のテクニックも取り入れられている。


 エスクリマの前身となるのはフィリピン部族の武術に由来する。

 部族ごとにそれぞれ違ったスタイルの武術が存在していたが、これは貿易で知り合ったアラブ人達に教えて貰ったと言う説がある。

 航海で有名なマゼランがフィリピンに上陸した時には、既にこん棒や刀、弓や槍等を部族達が使っていた事が確認されていたとも言われている。

 16世紀ではスペイン軍が上陸して来た時に、実際にこれ等の武器を使ってフィリピン部族達は戦いを挑んでいた。

 その後、17世紀になると海賊によるフィリピン人の拉致が多発。

 これを危機的状況と見たスペインの当局では、イエスズ会の修道士を教官に迎えて住民達による民兵団を結成し、その中でスペイン式のフェンシングによる武術の訓練をした。

 これが、今のエスクリマのテクニックの基礎になったのである。

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