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41.焦りは禁物

 アニータが連れ去られてしまった事もあって、グレリスの心は非常に動揺していた。

 とにかく、今はこの緊急事態を誰かに知らせなければと乗って来た馬で駆け出したグレリスが食事を摂ったあの町に辿り着くのは非常に速かった。

 そのまま冒険者ギルドと騎士団の詰め所に駆け込み、アニータの誘拐があった事を必死に説明する。

 勿論、自分も一緒に謎の集団に襲われた事も説明するのを忘れない。

(すぐに追いかけるなとは言われたが、通報するなとは俺は一言も言われてねーからな!)

 それに「帝都まで来い」とは言われたものの「1人で来い」とも言われていないのでグレリスは騎士団とギルドに頼んで帝都まで一緒に行って貰う事にした……かったのだが!

「っんでだよ、ざっけんなよ!」

 何と、グレリスの要望には一部しか応えられないと言うのがギルドと騎士団からの回答であった。

 その最もたる理由が、グレリスが「ギルドに登録していない身分である」と言う事だった。

 ギルドでは基本的に、冒険者登録をしている人間のみの対応をしている。

 しかし、グレリスは魔力を持っていないのでギルドへの冒険者としての登録は不可能となっているのがグレリス自身にも分かっている。


 更に、アニータが連れ去られてしまったと言うのも余り信用出来ないと言われてしまった。

 アニータはBクラスの冒険者であり、その実力から並大抵の男であれば普通に返り討ちに出来るので今までに誘拐されるなんて事は無かったのだと言う。

 それに恋人が居る……等と言う噂も聞いた事が無ければ、誘拐される様な要素が容姿的に見受けられないと言う何とも失礼な回答をギルドでグレリスは受け取った。

 しかし、そんな事を言われてもグレリスの目の前で男達に連れ去られてしまったのだから誘拐されたのは事実と言う事になる。

 でも……。

(くそっ、証拠が無え!)

 スマートフォンで録画をしていればまた話は違ったのだろうが、そもそもあの状況下で咄嗟にスマートフォンで撮影が出来る等とはグレリス自身でも考え難い。

 そもそも、今の自分のスマートフォンはあの男に取られてしまったまま。

 要するに、ギルドに登録していない人間はどうやらギルドではお呼びではないとの事らしいのでグレリスは早々に撤退し、騎士団の詰め所へと向かった。


 こちらは誘拐だと分かった瞬間に騎士団員を捜索に派遣してくれる程の手際の良さであり、自分が魔力の無い人間だと言う事に対しても特に気にした様子は見られず、ギルドとはまるで違うその対応の仕方にグレリスは内心で感心と感激していた。

(はぁ~、やっぱ国の機関だけの事はあるぜ……)

 騎士団は国の治安を守る事が仕事なのだ。

 だからこそ、誘拐と言う一大事にはこうしてスピーディーに動かなければ騎士団としての威厳を示す事が出来ないだろうしプライドだってあるだろうと考えるグレリス。

「さて……俺も馬で帝都まで一緒に行かせて貰うとしようか」

 乗り合い馬車だったら、果たして帝都までどれ位掛かるか分かったものでは無い。

 だからこそ、ここはあの男達の指示に逆らう形で帝都に向かう。

 当然、達成出来なかったミッションは無断でキャンセルする形で。


 騎士団員達の駆る馬の後ろに、必死になってグレリスはついて行く。

 確かに乗馬は趣味なのだが、馬をこれだけのハイスピードで疾走させる事等今までに無い未体験ゾーンであるからだ。

 それでも器械体操で鍛えたバランス感覚と、エスクリマで鍛えた反射神経を最大限に駆使して何とか引き離されない様について行けている状況だ。

(君は俺を助け出してくれたんだ。待ってろよアニータ、今度は俺が君を助け出す番だからな!!)

 騎士団員曰く、この町から帝都までは乗り合い馬車だと1週間かかるらしい。

 今の様に馬をどんなに頑張って走らせたとしても、結局は途中で人間も馬も休ませなければいけないので最短でも3日は掛かってしまうとの話だった。


 だとすれば、アニータを助け出せる可能性があるのは最もスピーディーに考えて3日後と言う事になるのだった。

 わざわざそこまで付き合ってくれる騎士団員達に心の中で感謝しつつ、グレリスは馬をコントロールする。

 実際の所、グレリスが遅れがちになっている場面では騎士団員達がペースをスローダウンさせてくれているおかげもあったのでグレリスは更に騎士団員達に感謝していた。


 そうしてハイペースで馬を駆けさせ続けた結果、1つ目の町の騎士団員の詰め所にてグレリスは宿を貰える事になる。

 しかしその対価として、騎士団の詰め所の掃除を任される事になったのだが。

 別にそれ位だったらグレリスも構わなかったのでモップを持って床の掃除を始める。

 確かに焦る気持ちは大きい。

 だけど馬も自分も休ませなければいけないし食事だって摂る必要がある。

 人間も動物も同じ様に持っている、その自然な身体の欲求には逆らう事は出来ない。

(今は焦っても駄目だ。自分の事も考えておかなきゃあ、いざって時にアニータを助け出す事は出来ねえぞ!!)

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