32.バウンティハンターの道
「冒険者としては確かに憧れてはいたわね。でも、別にそれ以上の感情は持たなかったわ」
それ以上アニータは口を開かない為、グレリスは会話を打ち切って次の話題に変える事で間を持たせるしか無かった。
「そうなのか」
とは考えてみるものの、特に次の話題が浮かばなかった為にもう出発する事にした。
これからグレリスとアニータが向かう先は、もしかしたらいきなりバトルになるかもしれない危険な場所の可能性がある。
そうした危険な橋を渡るのもバウンティハンターにはありえる事だが、この世界は地球と違うので何があるか分からない以上は油断出来ない。
そもそも、グレリスは何故バウンティハンターの道を選んだのか?
それはただ単純な理由からスタートした。
まだ彼が10歳の子供だった時、偶然テレビで見た西部劇の映画の中でカウボーイが活躍していた事がすっかり頭から離れないまま今までやって来た。
ただそれだけの事である。
それと同時に、世界的に有名なアクションスターのジャッキー・チェン主演の「レッドブロンクス」を見てからアクションの凄さにも酔いしれる様になった。
将来はアクションの出来るカウボーイになりたいと思い、だったら身体を鍛えておかなければと10歳から器械体操を始めた。
乗馬も始めた。
カウボーイについての勉強も勿論する様になった。
そして、カウボーイの勉強をして行く中で現代でカウボーイになるにはこの職業しか無いと目をつけたのがバウンティハンターだった。
お尋ね者を探して、そのお尋ね者を捕まえる為に活躍するカウボーイ。
賞金首を探して捕まえ、報酬を貰うバウンティハンター。
まさに現代のカウボーイ。
もともと「カウボーイ」と言うのは牛泥棒と言う意味で使われ始めたのが最初だったが、その後は野生化した牛を捕まえてそれを西部や東部に届ける時に、牛の世話をしていた人間の事を人間を指す言葉として使われる様になった。
今では牧場で牛の世話をする人間の事をカウボーイと呼ぶ。
なのでグレリスがカウボーイについて調べた時にはそう本に書いてあったのだが、彼の中での「カウボーイ」のイメージと言えばやはりアメリカをイメージさせる野性的で勇敢な創作物の中の主人公がそれだった。
だから語尾に-teenのつく13歳から19歳のティーンエイジャー時代……それも1番早い13歳から始めているカウボーイスタイルの格好で今でも普通に過ごしているのがグレリス・カーヴァラスである。
そんなカウボーイブーツにカウボーイハットと言うスタイルで過ごす人々をカウボーイと呼ぶ事もあれば、色男や無茶なドライバー、果ては目立ちたがりの人間の事を呼ぶスラングとしても「カウボーイ」が使われる。
高校を卒業してからは生まれ育ったミズーリ州から離れ、現在はテキサス州において1人暮らしをしている。
セレブ出身の身でありながら荒れた生活を送った後、22~23歳でバウンティハンターになったと言うドミノ・ハーヴェイと同じ様にグレリスもまた20歳の若さでバウンティ・ハンターのコースを受講して念願の職業に就く事が出来たのである。
とりあえず20歳になるまでは、社会勉強の為にそれこそカウボーイの仕事として牧場で働いたりカウボーイのコンテストを見に行ったりして過ごし、器械体操も続けていた。
また、バウンティハンターになってからエスクリマも習わせて貰った……のだが……。
(普段は退屈なんだよなー、保釈保証業者って)
理想と現実が違うものになる事は良くある話だが、この時のグレリスが今まで26年間生きて来た中で最も理想と現実のギャップに苦しめられた時期だった。
何故なら、映画の中で見たカウボーイの様に逃亡者を追いかけて捕まえる仕事もあるにはあるし、実際にこの世界に来る前にもやっていたのだからそれは分かっている。
でも、バウンティハンターの仕事はそれだけでは無い。
保釈金を回収する為の保釈保証業者の仕事も、アシスタント程度ではあるがそこそこさせて貰っている。
保釈保証業者から依頼を受けて逃亡者を捕まえ、保釈金を支払って貰う為に活動するのが今のアメリカのバウンティハンターだが、グレリス自身はその「依頼する立場」である保釈保証業者の仕事は余りやりたくないらしい。
何故なら、犯人を追いかけて捕まえるのもあるが基本はデスクワークがメイン……と言うよりも、普通にオフィスに出勤して自分の担当している訴訟が呼ばれるまで裁判所に座り、宣誓を立てて判事から書類を貰ってから被告人を拘置所から出しに行くのがメインの仕事だったりする。
時間もかかるし非常に退屈。身体を動かすのが好きなグレリスにとっては苦痛な時間でもあるが、やってもアシスタント程度なのでメインではやりたくないのが本音だ。
バウンティハンターの報酬も出来高制なのでピンキリ。
グレリスの知り合いのバウンティハンターは1件の依頼で何と13万ドルを稼いだ事があるらしい、
そこまで稼いだ事は無いグレリスだが、こう言うのは運の要素もあるので何時か自分にもチャンスがあるのでは無いかと思っている。




