31.Sランクの英雄
だが、再度出発する前にグレリスはある事を思い出した。
「あ、そうだ。俺1つ聞き忘れてた事があったんだ」
「何?」
「ギルドトップのSランクの英雄についてなんだけど、Sランクの英雄自体の凄さはさっき説明して貰った。だけどそいつが過去にどんな活躍をしたと言う事までは聞いてねえから、知っている範囲で教えてくれねえか」
そんなグレリスの次の疑問にも、アニータは何処か冷めた目つきである。
「まぁ、良いけど……知った所でどうなるの?」
「興味本位だよ興味本位。Sランクの凄さがどんなものか知っておくのも悪くないだろ」
理由はどうであれ、自分と同じ魔力を持っていないとされている人物に負けてしまう位の実力であるのなら、所詮はその程度の実力と言う事になるだろうとグレリスは心の何処かでタカをくくっている。
それもそのSランクの冒険者だけでは無く騎士団長と2人掛かりで負けてしまうなんて、一体何があってそう言う事になったのかグレリスは非常に興味があるのだ。
その興味の対象である人物の詳細が、同じくギルドに登録している冒険者のアニータから語られる。
だが、その内容はグレリスを唖然とさせてしまうのであった。
「Sランクの冒険者、エジット・ピエルネは……さっきも言ったけどSランクで国の英雄だけあって、生半可な実力では無いわね」
そこで一呼吸置いたアニータは、国の英雄である彼がどんな活躍をしたのかを幾つか例に挙げて話し始める。
「彼の活躍の中で最も有名なのは3年前の事ね。このソルイール帝国を始めとして、世界中で魔物が異常繁殖した時があったのよ」
「魔物が?」
そんな魔物の類なんてあのバジリスク位しか知らないが、ああ言うのが沢山出て来たのかと何処か異国の出来事の様にグレリスは思っていた。
「ええ。魔物はあの建物からの裏道で出くわしたバジリスクみたいに森とかに行けば居るけど、こう言う町の中で普通に生活してれば出会う事なんて無いわ。人間には人間のテリトリーがあって、魔物には魔物のテリトリーがある。そうしてしっかり棲み分けが出来てるんだけど、3年前にその魔物が原因不明の大量繁殖をしたのよ。勿論、凶暴なジャンルに属する魔物もね」
「凶暴な……」
ファンタジーなRPGの中でもそうした魔物はグレリスも良く目にしていたし、実際にキャラを操作して何百体何千体と倒して来た。
でも、これは現実に起こっている話なのだ。
実際に戦ったからこそ分かる。銃が無ければまず勝ち目は無いだろう。
「凶暴な魔物に人間達も襲われて、それから町も破壊されて。最初は確か隣国の魔術王国カシュラーゼからその魔物が侵攻して来たわ。このソルイール帝国の南東で隣に接している、国土の小さな魔術テクノロジーに長けた国ね」
「そうなのか。で、その南東側からこの国に向かってやって来たってなれば……あれ? 確か……」
バサバサと騒々しく地図を再び広げて、グレリスはもう1度帝国の位置を見てみる。
「ええっと、君の言っている魔術王何たらってのは……」
「ここね」
アニータに指を差されて、今しがた説明して貰った魔術王国の場所を確認してグレリスは確信する。
「って事は、この国からやって来た魔物は必然的に帝都の方に向かうって事か?」
「そうなるわね。勿論帝国側でも魔物の襲撃があると言う事は即座に伝わって、騎士団もギルドの人員も分け隔て無く戦場に送り込まれる事になったの」
この辺りで、大体グレリスにはその英雄がどうやって活躍したのか予想がついた。
「まさか、その英雄とやらが色々活躍したのか?」
「その通り。勿論他の騎士団員とか傭兵達も頑張ってたんだけど、その中でも特に活躍したと言うのがそのエジット・テオ・ピエルネ。そして彼がそこから英雄と呼ばる様になった。その当時、彼はまだ私と同じくBランクの冒険者だったんだけどその活躍があって一気にSランクになったわ」
1番活躍した人間が英雄になれると言う事は、やはりそれなりの実力があるんだろうとグレリスは考える。
「なるほどなぁ。ってなれば、さぞかし強いんだろ?」
「それはそうね。確かその時はまだ25歳だか26歳だったかそれ位の歳だったんだけど、若手の有望株って事でギルドでも期待されていた位だし、彼が使っていた武器は分からないけど、とにかく自分の武器の使い方を熟知していた人間って言うのは聞いていたからそうやって活躍したんでしょうね。後は……魔物のリーダー的な奴と1対1で戦って倒した事も英雄って呼ばれている話の1つかな」
アニータはその当時は他国を旅していたので、細かい所までは分からないとその後に語る。
「だったら国を救ったって言うのも頷けるわな。それで英雄ね……」
「ええ。帝国滅亡の危機を救った英雄として、皇帝からも騎士団長からも勲章を貰ったって話よ。何せ国を守るって言う事は皇帝を守ったのと一緒だからね」
そのアニータの話を聞いていたグレリスだったが、その時ふと思った事があった。
「なぁ……もしかして、その英雄に君は憧れていたのか?」




