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26.冒険者にはなれない

 となれば、アニータは冒険者の中でもかなりランクが上の人物と言う事になる。

「Bランクって事は凄く長い間やってそうだな」

「そうかもね」

 自分の過去を話したくないのか、適当に答えたアニータ。

 地道に色々なミッションをこなして来たのか、あるいは自分の腕で難しいミッションをこなしてランクを上げて来たのかは分からないが、素性や過去はどうであれ彼女の言っているBランクと言うのが本当であるならばかなり腕の立つ人間と言えるだろう。

「だとすると、俺は今見習いランクって事になるのか」

 誰に確かめるでも無く……いや、もしかしたら自分に言い聞かせたかったのかもしれないグレリスはそう呟いたのだが、それはアニータにとって違う答えだった様だ。


「貴方は冒険者にはなれないわ」

「えっ?」

「ギルドに登録する事が出来ないからよ。だから、貴方は冒険者じゃ無くてこの世界では職業が無ければ住所も定かでは無い人間でしか無いのよ」

「おいおい、そこまでハッキリ言うかよ普通」

 アニータの物の言い方に対して、ムッとするよりも呆れの気持ちが大きく出てしまったグレリスはさすがに言い返してみたが、アニータは冷静な口調を崩さない。

「事実なのだから仕方が無いわ。でも現実と向き合ってしっかりと受け止め、そして行動しなければ成長出来ないわよ。この世界には別にギルドに登録しなくても生きている人間は沢山居るからね」

「それってフォローか?」

「さあね」


 グレリスにとってはフォローの様な感じの口調だと受け止めていたのだが、当のアニータは一体何を考えてそう発言したのか定かでは無い。

(んー、言ってる事は確かに間違っちゃいねえんだが……この女は女だからって言う以前の問題で、人間として好きにはなれねえタイプだぜ)

 率直な感想を心の中で漏らしつつ、そこで会話が終了した事もあってグレリスとアニータはギルドで新しいミッションを受領する事にした。


 その際、アニータにグレリスはこう願い出る。

「隣の町に向かうからそっち方面の仕事があれば良いんだけど」

「分かったわ。それじゃあその他の色々な町の求人も少しは持って来た方が良い?」

「あー……それなら頼む。あの辺な建物から少しでも離れられて、尚且つ俺でもこなせる様なミッションだったら全然ノープロブレムだからよ」

 さっきまで心にグサッと何かが突き刺さる様な冷たくきつい言葉を投げつけて来たかと思えば、今はこうして自分の逃亡を手助けしてくれる様な素振りを見せてくれる。

(やっぱり、腹の中で何考えてんのかさっぱり読めねー女だぜ)

 面倒見が良いんだか悪いんだか、今のグレリスには理解不能なのがこのアニータと言う女だった。


 そんな、グレリスが分からない行動を取るアニータが持って来た求人票の中から自分でも出来そうなミッションをピックアップするグレリス。

(こんな事態なんだ、出来そうな仕事だったら俺は選り好みはしねーけど……出来ればなるべく遠くの町に行ける様なミッションがあればな)

 この町から少しでも離れる事が出来て、そして金も稼げるのであればそれで良い。

 今のグレリスにとって何よりも優先する条件と言えば、この町からいかに離れた場所で達成出来るかと言うもの。報酬の金額については二の次で考えている。

 確かに金も大事だ。それは分かる。

 しかし金を稼ぐ為に今の自分に必要なのは、その金を稼ぐ事が出来る自分の身の安全である事に間違い無かった。


 身体は大事であると考えているグレリスは、今の自分に出来そうな求人をピックアップし終わったので2つアニータに手渡した。

「……この2つね」

「ああ、頼んだぜ」

 求人票を手渡して、最初のミッションを受注した時と同じ様にアニータに受けに行ってもらう。

 Bランクのアニータであればかなり広い範囲……今の自分が居るランクを含めたそのランク以下のミッションであれば何でも受けられるのだ。

 ギルドトップにもなれば当然AランクかSランクと言う事になるとグレリスは考えていたが、戻って来たアニータと一緒にギルドを出て歩きながらこんな事を聞いてみた。

「なぁ、聞いても良いか?」

「何?」

「その……前に俺みたいな奴が居たって話があっただろ。魔力を持ってないって奴。で、そいつが騎士団長と一緒に纏めて殺したって言うギルドトップの奴って言うのはやっぱり有名だったんだろ。そいつはランクがどの位だったのかなって」


 ギルドトップともなればやはり実力もそれから人気も兼ね備えているだろうし、騎士団長と一緒に行動していたと言う事はそれだけ騎士団からもその人物が信頼を得ていたとグレリスでさえイメージ出来た。

 そして、そんなギルドトップの人間と騎士団長を纏めて殺したその人物に何か繋がる情報が得られるかもしれないとグレリスは踏んだのだ。

(纏めて殺せる程の腕を持っている奴だってんなら、少なくとも俺よりは戦いの面で優れている奴なんじゃないのか?)

 その2人を殺した後に行方知れずになっていると言う人間。

 魔力を持っていないと言われている、自分と同じく地球からやって来た「かも知れない」人間に、今のグレリスが興味を抱かない筈は無かった。

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