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21.俺にも出来そうな仕事って?

 興味本位かどうかはさて置き、アニータが自分に仕事を紹介してくれるんだのは事実らしい、と目の前に差し出された何枚もの求人票を見せられて、グレリスはそう思わざるを得なかった。

「はい、貴方でも出来そうな仕事を幾つか持って来たけど……文字は読めるんだったかしら?」

「あ、ああ……サンキュー」

 正直に言えば、疑わしい気持ちはまだこの先も持ち続けるだろうと言うのは目に見えている。

 しかし今の自分にはこのアニータを頼るしか無いと言うのもまた事実だし、知り合いと言うにはまだまだ程遠いが、一応は自分の身の上話を少しは語ってしまった上でこうして仕事を紹介してくれているんだから、文句を言える立場では無い事も分かっていた。

 とりあえず、疑う気持ちを一旦心の奥に仕舞い込んでグレリスは差し出された求人票を色々と見てみる事にした。


「原理は良く分かんねえけど、俺は文字が読めるだけ良かったなー。文字も読めないし言葉も通じないってんじゃあ完璧に最初から行き詰まってたぜ」

 ブツブツとそうぼやきつつ、グレリスは求人票をそばのテーブルの上に置いてからじっくりと見て行く。

(野盗退治に……酒の配達。こっちは薬草の材料調達か……)

 ファンタジーのRPGゲームなら良く見かける在り来たりなミッションだぜと思いながら、自分には何が出来るかを考えた上で出来そうな仕事をピックアップして行く。

「……ひとまず、こんな感じで選んでみたけどこれで良いのか?」

「確認するわ」

 グレリスが選んだ3枚の求人票をアニータが受け取って、彼がどんな内容のミッションを選んだのかを自分の目で確認し始める。


 そして、その求人票を見終わったアニータがポツリと一言。

「貴方……戦う事は得意じゃ無いみたいね」

「ん、ああ……一応そう言うマーシャルアーツは習ってはいるけど、あんまり使う時が今まで無かったからな」

 事実、器械体操以外にエスクリマを習っていると言えば習っている。

 だけどそれを披露する機会が無かった為に、グレリスは対人戦の格闘術には余り自信が無かった。

 これが例えばゲームならば、コントローラーを握ってボタンをカチカチ操作するだけでレベルアップする事が出来る。

 だけど今は違う。

 この肌で感じられる空気を始めとして、自分の目に飛び込んで来るギルドの中の様子、耳に聞こえて来るギルドの利用者達の話し声や足音全てが紛れも無く今のグレリスにとっては現実だ。


 現実を受け止めなければ成長出来ないと誰かが言っていた。

 しかし、この現実はまだ26年しか生きていないグレリスにとっては余りにも大き過ぎる現実として襲いかかって来ている。

 それでも、今は地球に帰る為に何とかしなければならないのもまた事実。

 言葉が通じるだけでも、それから文字が読めるだけでも自分でぼやいていた通りグレリスには大きなアドバンテージになる。

 ならば、そのアドバンテージを最大限に活かして地球に帰るまでこの世界で何とかして生き抜くしか無いと覚悟を決めるしかグレリスには選択肢が無かった。


 そんな覚悟を決めたグレリスの前では、アニータが取り合えずと言った様子ではあるが求人票を受付に持って行く為に彼に確認をする。

「ええと、それじゃあ最終確認をするわよ。貴方が持ってきたのはこの3つの求人ね。まず1つ目がこの町でのお酒の配達。次の2つ目が薬草の材料調達。最後の3つ目が隣町付近にある鉱山の調査。これで良いのね?」

「ああ、頼むぞ」

 自分でも戦闘能力に関しては愛用のリボルバーが無いと高くない事を理解しているグレリスは、まだこの世界の事を全然分かっていないと言う事もあって簡単そうな依頼から引き受ける事にした。

 何でも最初から難しい事にトライ出来る人間なんて居やしない。

 これはバウンティハンターの世界でも器械体操の世界でも、そしてギルドから引き受けるミッションでも全て変わらないと言うのがグレリスの考え方である。


 1つ目と2つ目のミッションを選んだのはまず仕事に慣れる為。

 ギルドからミッションを受けるのがは良いが、それがどう言った形で処理されてどう言った形で報酬を受け取る事になるのかと言う事は、賞金稼ぎの視点からしてもグレリスにとっては重要なものだったからだ。

 この世界にやってくる前に経験した、ミッションの為だけにわざわざ遠出までして、そして結局依頼を達成出来ずにエネルギーと金だけを使って帰るなんて事は、サラリーマンとは違う出来高の給料で生活しているグレリスにとってもっとも嫌うべき結果だった。


 しかも、この世界にやって来る前の「地球での最新のミッション」がそうだった為にそこでの不安要素もグレリスには一種のトラウマで付きまとう。

(簡単なミッションだと思うけど、本当にああ言うのだけは勘弁して欲しいぜ)

 心の中でそう呟く。

 まさか最初に選んだミッションからそんな事は無いだろうと思っても、1度心に植えつけられてしまった地球でのトラウマがどうしてもグレリスの心の疑う気持ちにブレーキをかけてはくれそうに無かった。

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