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19.俺の出方次第

 とりあえず何でお互いの見えているものが食い違っているのかと言う事については、今考えた所で解決しなさそうなので一旦考える事をグレリスもアニータも止める。

 ふとその時、グレリスはある事を思い出して声を上げた。

「あっ、そう言えば!」

「どうしたの?」

「あの時、あの牢屋にあんたを俺は閉じ込めた筈だった。なのにあんたは平然と俺の前にあの時現れたよな?」

 あれは一体どう言うトリックを使ったんだとグレリスが聞いてみる。

「まさか他に仲間が居るんじゃないのか?」

「仲間? いいえ、あの時は私1人だったわよ」

「じゃあどうやってあそこの牢屋から脱出したんだよ? あそこは俺、ガッチリと閉めた筈だしよぉ?」


 その質問に、アニータはふっと鼻で笑った。

「あの時はあんな事しても意味無いのよ。転移魔術を使って移動する為の転送陣を置いておけば良いからね」

「はっ?」

 またもやグレリスにとって聞き慣れない単語が出て来た。

 それでも、その単語の意味を考えてみた予想をアニータにぶつけてみる。

「転送陣って何だよ? 言葉からすると、何だか物を送り届ける事が出来るものみたいだけど?」

 その質問を聞いて、アニータは若きバウンティハンターに質問の答えを返す。

「転送陣って言うのは、貴方が言っているその通りで魔法を使って色々な物を別の場所へと転送する事が出来る装置ね。装置と言っても魔方陣を地面に描くんだけど、あらかじめ転送したい場所にまずは魔法の陣を作るの。それと同じ文様を別の場所に作っておけば転送の準備が出来るわ」


 要は電子メールと宅配便が組み合わさった様なシステムなんだな、とグレリスは解釈する。

「すげー便利なシステムなんだな。さすが魔術だ。それで、何処から何処までしか送れないとかって言う制限ってあるのか?」

 アニータは首を縦に振った。

「ええ。送る事の出来る場所は限定されるけど、基本的にはこのエンヴィルーク・アンフェレイア中のあらゆる場所から物を移動する事が出来る様になっているわ」

「そうなのか。それなら色々送れそうだけど、例えばこれは送れないとかって言う決まりとかは?」

「それも無いわ。人も、物も、それから動物も大丈夫よ。でも転送陣の大きさで魔力の消費量が変わるわね。後は転送先の情報も聞いておかないと、いざ転送するってなった時に荷物が転送先に入り切らなかったり思わぬ場所に転送されてしまったりするからこれも注意が必要よ。だから、先に転送先の情報を聞いて、そして荷物のサイズを測って転送陣の大きさを決めるのが一般的ね」

「なるほどなぁ。で、あんたがあの牢屋から脱出したのがその転送陣って物を使ったんだとしたら、あらかじめ牢屋の外に転送陣を置いてから、ああ言った予期せぬ事態になった時に脱出出来る様に転送陣を描ける様にしてたって訳か」

「そうね。良く分かったじゃない」

 説明した甲斐があったわ、と満足そうな薄い笑みをアニータは口の端に浮かべた。


 これで、何故あの時アニータが牢屋に閉じ込められた筈なのに自分の目の前に現れたのかと言う事についてグレリスは理解する事が出来た。

 だが、まだ分からない事がある。

「でもさぁ、俺はどうしても分かんねえ事がまだあるんだわ」

「何?」

「だってよぉ、俺達に面識は全く無い訳だろ。なのに何故かあんたは俺に協力してくれてる。少なくとも、あそこの変な場所からの脱出ルートを教えてくれたって事については俺の協力者って事になるだろ」

 そこでグレリスはセリフを一旦切って、アニータに前に言われた事を思い出しながら疑問のセリフを再開する。

「でも、あんたは俺に前にこう言ってたな。今の時点では敵か味方かって言う質問には答えられないって。敵か味方かって言うのは、これから先の俺の出方次第だって」

「確かに言ったわ。その言葉通りの意味に取ってくれていればそれで良いわよ」


 あくまで冷静な態度を崩さないアニータだが、かえってそれがグレリスに不信感となって襲いかかる。

「それが分からねー。俺がこの世界で異端児の存在であるから、もしかして俺のそばに居て俺がどう行動するかって事を楽しんでいる様にしか俺には見えねえんだよな」

 そんなグレリスのぼやきに近い本音を聞いても、アニータの冷静な態度は何も変わる事が無い様だった。

「だったらそう言う事にしておいてくれればそれが1番良いかも知れないわね。今はとにかく貴方の出方を窺っているだけだから、それ以上の事については私は何もしないし関与するつもりも無いと言う事だけはここではっきりと宣言させて貰うわよ」


 アニータの宣言を聞いたグレリスは、その宣言をまるで無視したセリフ……と言うよりも願い事をダメで元々で申し出る。

「……分かった。俺の出方を窺うなら窺うでそれで良い。だがこっちにも1つだけ条件をつけさせて貰うぞ」

「何かしら?」

「俺が異世界からやって来た人間だって事を知った以上、道案内位はして欲しいもんだな。あいにく、俺はこの世界の人間じゃ無いんでね。俺が行きたいって言う所に案内して欲しい。そうすれば俺の出方を伺い続ける事も出来るだろ?」

「……まあ、それ位なら良いわよ」

「よっしゃ、なら交渉成立だ」

 この瞬間、グレリスはこの先の旅路で迷子になる可能性はほぼ無くなった様である。

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