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12.ソルイール帝国ぅ……?

「まだ分からないわ。それはこの先の貴方の行動次第によるわね」

「はあっ?」

 自分の行動次第とはどう言う事なのだろうか?

 アニータの考えがさっぱり読めない。

「それ、どう言う意味だよ?」

「知らない方が良い事もあるって言うの、覚えておいた方が良いわよ」

「はぁ?」

 さっぱり考えの読めない女だな、とグレリスは思いつつもこの様子では一向に何も話してくれそうに無いので、自分を助けてくれた理由を聞くのは諦めて別の質問をする事にした。


「じゃあ別の質問だ。あの場所は一体何なんだ?」

「あそこは帝国の研究所の1つね。色々と表には出せない部類のきな臭い事を行っている場所よ。人体実験とか魔術を使って解剖実験とかそう言う事ね」

「魔術……」

 人体実験はその昔、ナチスドイツ等が行っていたと言う話が地球でもある位の有名な実験なのだが、グレリスはさっきから引っかかっている疑問も聞いてみる。

「なぁ、魔術って……何だ? その、いわゆる新興宗教って奴なのか? 俺はそう言うのは分からねえぞ」

 だがそのグレリスの問いかけにアニータは今までのぶっきらぼうな顔つきから一転して、目を見開いて驚愕の表情を見せる。

「えっ、あなた本気で言っているの?」

「ああ、本気も本気だ。俺はそんな非現実的な物なんか生まれて26年間、1回も見た事が無いんだがな」

「そんな……嘘でしょ?」

「だから本当だって」


 グレリスの大真面目な回答に、アニータはブツブツと何かを呟き始めた。

「魔力が無い人間……うん、でも……いや、そうだとしたら……」

「えっ、何だよ?」

 グレリスに聞こえるか聞こえないか位の声のボリュームで呟くので、何だかグレリスにとっては感じの悪い事であるのに間違い無い。

「ううん、何でも無いわ。それよりあなたはこれからどうしたいの?」

「俺か? そりゃー勿論俺の家に帰る事だよ。明日もターゲットを捕まえに行かなきゃならねーからな。で、ここは一体何処なんだ?」

 今の自分が最も知りたい情報をアニータにそう聞いたグレリスだが、こいつは何を言ってるんだと言う様な目付きでアニータは答える。

「ここはソルイール帝国の南側にあるヒルシュ地方よ」

「そ、ソルイール帝国ぅ……?」


 今まで26年間生きて来た中では全く知らない国の名前である。

 少なくともアメリカの周辺の国であれば、何とか帰る手立てが見つかるかもしれない。

「ええと、それは何大陸にあるんだ? アメリカ大陸か? と言うかそうだと言ってくれよ!」

 何だか物凄く不安な気持ちが一気に押し寄せて来たグレリスは、アニータの両肩に黒い手袋をはめた手を置いて彼女の身体をブンブンと揺さぶった。

「ちょ、ちょっと痛い痛い! いきなり何するのよ!?」

「なぁそうだよな、そうなんだろ!? アメリカの近くなんだろ!?」

「知らないわよアメリカなんて!! この世界にそんな名前の大陸なんてある訳無いじゃない!?」

「はぁあっ!? 何言ってんだよ! 地球で知らねー奴は居ねえぞアメリカは!!」

「地球って何なのよ!? 私はそんなもの聞いた事も見た事も無いわよぉ!!」


 アニータも力を振り絞って肩に置かれているグレリスの手を振りほどいた。

「……ちょ、ちょっと待った……一旦落ち着こうぜ……」

「落ち着くのはあなたの方でしょうが……と、とにかく話を整理しましょうよ。いきなり質問されても私には分かる事と分からない事があるんだから……」

 グレリスもアニータもお互いに疲弊した状況の上、まだここはさっきの建物からそれ程離れた場所でも無いので大声を出したりこうしていがみ合っている場合では無いと思い直した。

「まずはここから離れましょう。そして町に辿り着いて、ゆっくり落ち着ける場所で話した方が良いわよ」

「そうするか……」

 アニータの言う事は最もだと思い、再びペースアップしてグレリスはアニータと共に町に続く道を歩き出す。

 あの変な場所に出て来てしまったかと思えば、牢屋から脱出したまでは良かったものの追い掛け回されてかなり疲れている。

 それからここまで脱出して来るまでにこのアニータの協力があったからこそ、ではあるが正直言ってグレリスはまだまだこのアニータの事を信用出来ない。

 そもそも、このアニータの事をグレリスは何も知らない。敵か味方か? と聞かれるとどっちとも言えない存在だし、この先でいきなり罠にかけられる可能性も否定出来ないからだ。

(何なんだよ、この女は……)


 かなりの不信感を持ちつつ、グレリスはアニータの後に続いてちょっとだけ整備されている道を歩く。

 この道はあの建物に行く為だけに造られた道なんじゃないのかと言うのがグレリスのストレートな考えだったのだが、いずれはあの建物についてもまだまだ詳しく聞く必要がありそうだ。

(と言うかアメリカを知らないって相当だぜ。ってか、この世界って言うのも引っかかるし地球って言う世界の名前すらも……あれ?)

 あの建物の中に居る時に少しだけグレリスが自分で考えた事。

 まさか、そんな。

 認めたくない現実が、グレリスのすぐそばまで迫っている。

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