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9.走るグレリス

 女が教えてくれたルートは、どうやら本当にここから脱出出来るルートで正解だった様である。

(あの女……俺を本当に逃がす為に?)

 グレリスは困惑しながらも、ここまで来てしまった以上は引き返す事も出来ないので女が教えてくれたそのルートを思い出しながら進む。

 当然、女に対しての疑問で頭の中が一杯になるグレリスは足を動かしつつ考え続けた。

(だから、ここで考えなけりゃいけねえのは何であの女が俺にこうやって脱出する為のルートを教えてくれたかって事だろ?)

 そう考え始めるとグレリスの思考は止まらない。

 悪い部類の頭をフル回転させ、女の行動の理由を自分なりにグレリスは脱出しながらじっくり考える。

(まさか俺に気があるって奴か? ……いやいやそれは考え過ぎか。俺を何かに利用する為にここから逃がす……? でもあの女と俺は初対面だよなぁ……)

 考えれば考える程分からなくなって来る。


 それに、じっくり考えられる心の余裕が今の自分にも無い事に気がついたグレリスはこうも考える。

(考えても分かんねーなら、またじっくりと考えりゃいっか)

 今はとにかく自分の身の安全が最優先だぜと思っていたその矢先、ようやくこの建物の裏口に着いた様で視界が開けた。

「ふう、やっと出られたな」

 緊張から一時的に解き放たれたグレリスは、はーっと安堵の息を吐いて後ろを振り返る。

 今までずっと自分が居た、灰色の外壁で統一されている暗い雰囲気の漂う建物。

 えもいわれぬ威圧感と不穏な空気を醸し出しているその建物に向かってグレリスは左手の中指を1度だけ恨みを込めて突き上げた。

(こんな所、2度と来ねえからな!!)

 心の中で声高に宣言し、自分の目指す方向に再び目を向けて走り出した。

 陽が射し込んで、この建物と同じく暗めのコントラストで彩られている林の方向に。


 所々陽が射し込んで来ているがそれでも薄暗い林の中は、まるで今のグレリスの心境をそのまま反映させたかの様な錯覚を彼に覚えさせる。

(うー、腹減って来た……)

 目覚めてから余り時間は経っていないが、グレリスは1セントにもならなかったあの依頼の後に夕食を摂ろうと思っていた為に空腹の状態でハーレーを走らせていたのだった。

 そしてあの牢屋で目覚めてからは食事を摂れていないので、さっさとこの薄暗い林を抜けて町に出たかった。

 その空腹感に耐えきれないと言う思いからか、無意識の内に自然とグレリスの歩くスピードがアップしてちょっとしたランニング並みのペースで林を駆け抜ける。

 人間の3大欲求の内の2つである、食欲と睡眠欲は生きる上でセーブ出来ないものだ。

 だからこそ今のグレリスも、その1つである食欲を満たす為の食事を求めて林を駆けるしか無いのだ。


 それにしても、自分が悪いとは言え林の中で用を足した位でこれ程までの罰を受ける必要が自分にあるのだろうか? とグレリスは走りながら段々イライラし始めていた。

(確かに原因作ったのは俺だけどよぉ~、これは流石にやり過ぎなんじゃねえのかーっ!?)

 このイライラする気持ちをぶつけられる相手が分からないのも、そのグレリスのイライラに拍車をかけていく。

 はぁはぁと息を切らせながら、もしこの罰ゲームを考えた奴に出会った時にはやっぱり1発ぶん殴ってやらねーと気がすまねぇ!! と言う思いで走るグレリスの前に、次の瞬間目を疑う光景が現れる!!

「はっ!? 何だよあれっ!?」

 思わずグレリスは驚きの声をあげてしまう。しかし小声だ。

 何故なら今の彼は林の中を駆け抜けていたその足を止めて、道の両脇に生えている木の1本の陰に身を隠して道の先を見ていたからだ。


 グレリスの視線の先。

 そこには、地球には存在しない筈の異様な形態の生物がウロウロと歩き回っていたのだった。

 全長はおよそ2メートル位。

 トカゲ……なのだが黄色い身体に生えている、妙に大きな背中の羽毛。

 ヨーロッパにおいては空想上の生き物として扱われているとされる生物が何故ここに?

 グレリスはバウンティハンター仲間のヨーロッパのハーフである女から聞かされていた、色々なファンタジーの世界の生物の話を必死に思い出してみる。

(ええと、ありゃー確かバシリスクだったかバジリスクだったか……ああもうバジリスクで良いか。腹の部分は真っ白だし、顔つきは凶暴そうだし……って、そうじゃねえよ!! 何で今、あんなのが俺の視線の先に居るのだと言う事を考えなければならないんだろ!)


 壮大なセルフ突っ込みをしてみたは良いものの、状況が進まないのは当然である。

 しかも1匹だけでは無く2匹。あんまりだ。

(どうする……別に危害を加えなきゃ良いんだよな?)

 そうだ別にビビる事は無い。

 向こうはただ単に歩き回っているだけだし、こっちとしても腹が減っている分、無駄なエネルギーを使いたく無いので普通にそばを通り過ぎれば良いだけだろ、と自分を説得して納得させてグレリスは歩き出す。

 そして歩き出したグレリスだが、もっと良い方法がある事に気が付いたのはそのバジリスクが襲い掛かって来た後だった。

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