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57.伴うリスク

 やはり、目の前に居る男は只者では無いらしい、とレナードは今の話を聞いて思っていた。

 しかしレナードが聞きたい事はそんな内容の話では無い。

 何故自分の元にわざわざ戻って来たのか、それが問題である。

「私の元に来る事が出来たと言う理由は分かった。しかし、それ以上に私が聞きたいのは貴様が何故、私の元に戻って来たのか。あの料理屋でもし私とアンリさんに問い詰められていたとしても、証拠不十分でシラを切り通しておけば済むだろう。先程、貴様はこう言ったな。私に会いに来たと。1度侵入して捕まるリスクが物凄く高いにもかかわらず、それだけのリスクを犯してまで城に戻って来て私に会おうとするのはそれだけの理由が無ければ納得出来ない」

 男の行動がさっぱり読めない以上、レナードは次の理由も付け加えて問い掛ける。


「そして今だってそうだ。振り切ろうと思えばそのまま振り切れた筈なのに、一旦姿を消したと思ったらまた戻って来た。何が目的だ? 私が貴様と一緒に行動するのが目的か? それとも私を何かに利用したいのか? もしくは私と勝負がしたいのか?」

 幾つもの可能性を男に向かってぶつけてみるが、そのレナードの次々出てくるクエスチョンを手で制して男は口を開く。

「色々考えてくれて助かるよ。しかし、俺の話も聞いてくれなきゃ困る。俺にだって喋らせてくれなきゃ答えられるものも答えられないからな」

 レナードは頭の回転が速いのだが、それは時としてプラスでありマイナスにもなってしまう。

 将校としては体力のみならず、作戦立案での頭脳も重要だしイレギュラーな事態にも即座に対応出来る機転の利く早さも必要だ。

 それ故に何でもかんでも自分で結論を出してしまう。

 答えが合っていればそれで良い。だが、それがもし早とちりだったら取り返しのつかない事態に発展する可能性だって十分にある。


「なら聞くだけ聞いてやる」

 最初に自分を襲った上に、こうしてまた自分の目の前に姿を現わした族の言う事なんて最初から信用出来ないが、そんなに言うのであれば少し聞いてやろうと傲慢に答える。

 そんなレナードを見て、はあっと男は溜め息を吐いてから話し始めた。

「まぁ、今までの事考えるとその態度もしょうがないか。戻って来たのはさっきも言った通り君に会いに来たからだ。で……君はこの世界に対して少しも未練なんか無い、早く地球に帰りたいって思ってるんじゃないのか?」

「……」

 考えている事をズバッと当てられてしまい、レナードは黙って頷くしか無かった。

「やっぱりね。そして隣のソルイール帝国の話は聞いているか?」


 その質問にレナードは以前、アンリから聞いた話を思い返していた。

「ああ。私と同じ様な人間が現れたと」

「そうだ。ギルドに所属していた若手ナンバー1の人間と帝国騎士団の団長の2人を殺して、現在も逃亡しているらしいって言うそいつの話を俺も聞いている。そいつには君と同じ様に魔力が感じられないって言う事も聞いている。そして、魔力が無い人間だからこそ地球に繋がるヒントをこの前見つけたんだ」

「ヒント?」

「ああ。見てみたいと思わないか? このカルヴィスを出て20分位の所にそれらしき物を見つけたんだ」


 罠かも知れない。

 しかし、もしこの男の言っている事が本当だったとしたら?

 本当に地球に帰る事が出来るヒントだったとするなら?

 レナードはここで、あえて男の誘いに乗ってみる事にする。

「分かった。だがもし罠だった場合、貴様をどうするかは分かるだろう?」

「あー分かってる分かってる。見せてやるって言ってるんだから騙しはしないさ。それじゃあ俺について来てくれ」

「1時間以内で戻って来られるか?」

「余裕だよ。さぁ、行くぞ」


 やっぱり罠かも知れない。

 しかしこの男が自分にわざわざ会いに来てまで見せたい物があると言うのであれば、その見せたい物とやらを見てみようとも思っているレナード。

 正直に言って、自分を襲った元凶である以上は油断出来ないのが当たり前なのだがこの時のレナードには焦りが生じていた。

 何故なら、今まで地球に帰る為の情報を全くと言って良い程ゲットしていないからである。

 確かに隣国であるソルイール帝国での、自分と同じ様に魔力が無い人間が現れたと言う話から始まってアンリの過去の話等はゲットした。

 だが、それ以上の地球に関する情報が掴めていない。

 その魔力を持たない、騎士団長とギルドナンバー1の人間を殺して現在も逃亡中である人間に会える事が出来るのなら、今すぐにでも会いに行きたい程である。


 リスクを犯しているのはレナードだって同じ。

 そしてリスクを犯してこうして行動する以上は、それに見合っただけの情報を手に入れなければ城に戻る事は出来ない。

(もしこの男が私を騙しているのだとしたら、私だってただでこの男を帰すつもりは無い)

 自分でも馬鹿な事をしているとつくづくレナードは思う。

 それでも今は自分に襲い掛かって来た賊の男について行く。

 時にはこうして馬鹿をやらなければ、自分の求めている情報を手に入れる事が出来ないかも知れないのだから。

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