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35.見えない壁の存在

「はい、これが紙でこっちが羽根ペンだ」

「ありがとうございます」

 翌朝。

 朝食を詰め所で済ませた2人は、ワイバーンに乗って出発する前に町の雑貨屋に寄って羽根ペンとメモ用のわら半紙を買い求めた。

 レナードがアンリに昨日の夜に考えていた事を朝食の時に話した所、それならばとわざわざ町の雑貨屋で買ってくれたのであった。

 別に新品じゃなくても詰め所で余っているものがあればレナードとしてはそれで良かったのだが、アンリ曰く騎士団の備品になるので、例えストックされているものだったとしてもそう簡単に持ち出す事は出来ないのだと教えられた。

 だけどこの小さい町では余り情報が得られないだろうし、何よりアンリはレナードを早く王都まで連れて行かなければならないのだ。

 それもあってここでの情報収集は諦めざるを得なかったレナードは、再び大空の旅へと昨日と同じ様にワイバーンに乗って向かった。


「おい、見えたぞ!」

「あれが王都ですか!?」

「そうだ、あの町が王都のカルヴィスだ」

 空の上からでもハッキリと分かる位に大きなシルエット。

 石造りの高い城壁に囲まれており、その一角にはこの国のトップ……つまり王が住んでいるとアンリが教えてくれた王城がそびえ立っている。

 その王城を取り囲む城壁の隣では、このリーフォセリア王国でも最大級と言われている大きなケスダー山脈がどっしりと重厚感溢れるフォルムで空からの来訪者を迎えてくれた。

「ケスダー山脈は自然の防壁となって王都を守ってくれているんだ。山脈側からは大きく迂回して回り込んで攻め入るか、山脈を越えて来なければならないからそれだけでも進軍スピードはガクンと落ちると言う訳だ」

 アンリの説明を聞いて、この王都カルヴィスは非常に理にかなった防壁を利用しているのだなとレナードは思っていた。


 そう思っているレナードと説明を続けるアンリは、そのまま王都の城壁のそばへとワイバーンで着地する。

「あれっ? このまま王都に着陸する事は出来ないんですか?」

 その方が色々と移動する手間が省けそうなのにと思ったレナードだが、アンリは渋い顔をしてその疑問に答える。

「まぁ、色々とほら町に入る前に検査とかされるんだよ。俺も王都に居た時には手伝いで検査のメンバーに助っ人で頼まれる事も良くあったから」

「ああ、そう言われてみればそうですね」

 飛行機が着陸するのとはワケが違うし、しっかりと怪しい人物を中に入れない様に警備態勢を敷いていると言うのは以前アンリから聞いていた通りらしい。


 その理由にプラスして、アンリからこの世界特有のテクノロジーを使った防壁も張られているのだとか。

「あれが見えるか?」

「え? どれですか?」

 アンリは城壁の上に向かって、右手の人差し指を突き上げて指し示す。

「薄紫に光っているあれだよ。あの王都一帯をドーム状に丸く覆っている魔力の壁があるんだが、あれで空からの侵入者対策がされているのさ」

「……」

 レナードはその説明を聞いて心底不思議そうな、それでいて物凄く腑に落ちない顔つきになっている。

「……どうした、凄すぎて声も出ないか?」

 そんなアンリの自慢気な口調を含んだ質問に対して、レナードはシンプルに自分が思っている事を口に出した。

「いいえ……私には薄紫と言っても、空の青い色と白い雲しか目に入らないのですが、気のせいなのでしょうか?」

「はぁっ!?」


 アンリは思わず叫び声に近い驚きの声を上げてしまった。

 そんな声を上げられたレナードはキョトンとしていた。

「えっ、何かおかしな事を私は申し上げましたでしょうか?」

 自分はそんな薄紫色のドーム状の何かなんて一切見えないんだけど、とレナードはハッキリと言った。

 しかし、どうやらアンリにとってはその自分がハッキリと言った事そのものがかなり変らしいとレナードは察する。

「ほ、本当に見えないのか?」

「はい、薄紫のものは一切私の目には映っておりません」

「あそこにあるだろ!?」

「そうおっしゃられましても……」

 必死の形相でほら、ほらと指を差すアンリだがレナードにとっては見えないものは見えないんだからどうリアクションをこれ以上すれば良いのか、今は困り顔で対応するしか無かった。


「どう言う事だよ……でも、俺に嘘をついている様には見えねえから本当の事を言ってるんだよな……?」

「私がここでアンリさんに嘘をついたとしても、何のメリットも私にはございませんよ」

「そうだよなぁ……でも、こんな事言われたのなんか俺初めてだぞ」

 レナードとアンリでは自分の目で見えている情報がまるで違うらしい。

 しかし、お互いが自分の目でしか確かめられない状況である為に証明出来る様な手立ても無かった。

「んん……どう証明すれば良いですかね……」

 せめて、何か自分の見ている世界をアンリに伝える事が出来ないものかと考えるレナード。

 そのドーム状に丸く覆っていると言う薄紫色をしている魔力の壁が、自分には見えない事を自分が何とかしてアンリに説明出来れば……と思っていたが、ふとある事を思い出した。

(あ、そうだ……!!)

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