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23.堅物のレナード

 この様にして、地球でもこの世界でも人間の間に格差がある事を思い知ったレナードが次にアンリに案内されて向かった場所。そこは……。

「こ、ここですか?」

「ああそうだ。不満か?」

「不満と言うか……興味が無い訳ではありませんが。しかし……こんな場所で情報が手に入るんですか?」

「ああ。ここの連中の情報網を侮ると痛い目見るぜ」

 裏路地にまた入り、明らかに人目を避ける場所に存在している1件の宿屋らしき場所。

 寂れた看板には「夜の相手します」の案内文字が。

 一目見て、レナードはこの場所がそう言う夜の如何わしい行為を行うショップだと確信した。

 健全な(?)青年であるが故にレナードも興味が無いとは言い切れない。


 しかし、自分にはもう既に婚約寸前の彼女が元の世界に待っているのだ。

 だからここで、そう言う如何わしい行為に溺れる訳にはいかないし無理矢理そう言う事を勧められそうになったら例えその勧めて来た相手がアンリだったとしても全力で逃げ出す覚悟でいるレナード。

 堅物で生真面目な性格で、結婚を誓い合った彼女が居る身であるが故にそう言う事をするのは絶対に自分の中でNGだった。

「それじゃあ行くぞ」

 レナードの確固たる決意なんて知ったこっちゃ無いとばかりに、アンリはズンズンとショップの入り口へと足を進ませる。

 仕方が無いのでレナードもアンリの後に続いてショップのドアに向かったのだが、この後ショップの中でレナードにとって非常にショッキングな光景が待ち受けているとは思いもしなかったのだった。


「はぁ~い、団長さんいらっしゃ~い」

「ああ、今日はそう言う用件じゃないんだ」

「え? 違うのぉ~?」

「…………!?」

 この世界にやって来てからまだ2日目だが、1番ショッキングな出来事は異世界にやって来たと言う事。

 そして2番目にショッキングな出来事なのは、今目の前で繰り広げられている光景を見てしまっている事だろう。

 このショップ、てっきりそう言った類のショップであるとばかり思っていたレナード。

 その予想は半分だけ正解と言えるだろう。

 何故ならば、甘えた声を出しながらアンリにすり寄っているこのショップの店員達はどう見ても全員……。


(男……だよな……?)

 皆まで言わなくてもレナードには分かる。つまりはそう言う事なのだろう。

 レナードには勿論そう言う趣味は全く無い。

 そしてこのショップの店員達はアンリと馴染み深い関係らしい。

(……好みは人それぞれだから、別に私に害が無ければそれで良いが)

 それでも、レナードは自分がこの世界で1番頼りにしたい筈のアンリに対して物凄く複雑な感情を抱いてしまったのは言うまでも無かった。

 レナードが苦笑いとも嫌悪感とも取れる表情を浮かべている事には気が付かず、アンリは非常に楽しそうに店員達と話し込んでいる。


 その内容を聞き取ろうと必死にレナードは耳を傾けてみるものの、楽しく明るい会話でしかも結構な早口の為になかなか聞き取り難い。

(うーん、分からないな)

 結局かろうじて聞き取れる様な単語すら無いまま、アンリとショップ店員達との会話が終了し、レナードに対してアンリはショップを出ようと促した。

「え、ええと……アンリさんはあの様なお店が好みなんですか?」

 恐る恐ると言った口調でレナードが訪ねてみる。

 会話の内容もそうなのだが、それ以上にレナードが気になるのはその事だった。


 だが、そんな疑問を投げかけられた方のアンリはキョトンとした顔をした後、豪快に笑い出した。

「はっはっは、ははっは!! 何だあんた、俺があんな店で色々な事をしていると思ってたのか?」

「えっ? 違うんですか?」

「違う違う……くくくっ、何だ、俺ってそんな風に誤解されてたのかよ。純情って言うか真面目って言うか。結構な堅物なんだなー、あんたって」

「それはもう良いですから、結局アンリさんはそう言う趣向の人とは違うんですか?」

 若干イライラしながらレナードが再び問いかけると、アンリも笑いを何とか収めて……収まりきっていないが、それでもレナードの方へと向き直る。

「俺は違うよ。ここの店の人間は確かに俺の顔馴染みではあるんだけど、別件での顔馴染みだ」

「別件……?」

 果たして別件とは一体どう言う事なのだろうか?


 それは陽も高くなって来たので、そろそろランチタイムにしようとアンリおすすめの出店でファーストフードをご馳走になる中でレナードは聞く事にする。

 パンに肉と野菜を挟み、その上から紫色のソースをかけた、地球で言う所のハンバーガーに限り無く近い何かだった。

 最初は訝しげな顔をして食べるのを戸惑っていたレナードだったが、せっかく奢って貰った立場なんだし……と一口かぶりついてみると……。

「あっ、結構おいしいですね」

「そうだろそうだろ。この出店のは美味いんだよ」

 上流階級出身だけあってこうしたファーストフードの類にはまるっきりと言って良い程縁が無かったレナード。

 軍の食堂で同僚達と一緒に食べる食事は、良くも悪くも余りおいしいとはお世辞にも言えない物だっただけあって、少しだけだが嬉しい気持ちになっていたのだった。

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