21.魔力を持たない人間
魔力が無い事は公言しないでくれ、とは頼んだもののその魔力が無い事と関係のある事をギルドに出入りしている人間に聞き込み調査に来たので、アンリはその話を冒険者達に切り出してみる。
すると、アンリですら予想していなかった情報が1人の冒険者の口から出て来た。
その冒険者はエスヴァリーク帝国と言う、世界地図で見てみると左上に存在しているリーフォセリア王国の丁度反対側……世界地図の右下に存在している国家からはるばるやって来た男の冒険者なのだが、そのエスヴァリーク帝国で同じ様な話を聞いた事があると言い出したのだ。
その冒険者がもたらした情報によれば、以前エスヴァリーク帝国の騎士団長がその異世界からやって来た人間と接触した事がある、と言う情報を仕入れたらしいのだ。
騎士団長はその異世界人との話を自分からはしていないらしいのだが、以前シルヴェン王国と呼ばれる、南のアイクアル王国の領土内に存在していた国の内乱において、魔力を持たない男女2人が内乱を止めるのに協力し、そして姿を消してしまったのだと言う。
「ふむ……確か今のエスヴァリーク帝国の騎士団長は、色々と功績を立てて騎士団長になった傭兵上がりの若い奴だったな。確か年齢で言えば20代の半ばだったと言う情報があった筈だ」
顎に手を当ててアンリが考え込み、更に自分の考えを続ける。
「しかし、若いとは言えども騎士団長の肩書きを持つ程の腕前であるのは確かだし、エスヴァリーク帝国は実力主義の国だから傭兵上がりと言う事を考えてみると、しっかりと実力に裏打ちされている騎士団長だろう。それに傭兵上がりとなれば各地の情報にも詳しい筈だから、そう言う所と武芸の腕前を見込まれて騎士団長に抜擢されたと聞いている」
「しかし、そんな騎士団長と接触したとされる魔力が無い人間……確かに気になるな」
レナードがアンリの推測に続き、2人は隣国のソルイール帝国の魔力を持たない人間についての情報と照らし合わせてみる。
「ソルイール帝国の騎士団長とギルドトップの実力者の傭兵も、同じく魔力を持たない人間に殺されたと言われているのだったな」
「だったら、その2つの騎士団長絡みでの魔力を持たない人間は、今の話を聞いていると同一人物である可能性が高いですね」
「俺も同感だ」
もしかすると元の世界に戻ったのかもしれないし、まだこの世界にその魔力を持たない人間が居るかも知れない。
それはともかく、自分達が王都に行った後どうするのか?
そこで元の地球に帰る事が出来るのであれば、レナードにとってはそれが1番都合が良い事に間違い無い。
だけどもし帰る事が出来なかったら、その時はどうすれば良いのだろうか?
今の話を聞いて、アンリと共にギルドを出たレナードは自分の中で決意を固めた。
「アンリさん」
「……何だ?」
「もし私が王都に行っても、まだこの世界から自分の世界に帰る事が出来ないのであれば、その時は……」
「エスヴァリーク帝国に行く、か?」
最後の締めはアンリに持って行かれてしまったが、全くその通りであると言うリアクションでレナードは頷いた。
「言葉の言い方で何と無く分かったさ。だけど俺も、王国の師団長の1人としては無条件でこのままあんたを王国外に出す訳には行かないからな。まずは王都からの連絡待ち。話はそれからだ」
そう。
アンリに何回も言われている通り、王都からの連絡が無い以上はここで待つしか無いのである。
それがレナードをじれったくてもどかしい気持ちにさせてしまう事に繋がっているのは間違い無かった。
(私らしくも無いな……)
思えばこの世界に来てしまってからまだ2日目。
帰りたい帰りたいと嘆き、そして焦る気持ちも自分自身で分かっているのだが今焦ってもそれこそ王都から連絡が来なければ身動きが取れない。
冷静沈着で落ち着いて行動するタイプのレナードは、1度深呼吸をしてから考えを変えてみる。
(やっぱり、ここは大人しく町を案内して貰うとしよう)
せっかく町を案内してくれるとアンリから申し出てくれたのに、その好意を無駄にする事こそ失礼に当たるのだと考えてレナードは再びアンリを促して町の中を歩き始めた。
辺境の町とは言えども、町の中には畑も存在しておりそこで農作物を栽培している区画がある。
それからさっきの情報を手に入れた酒場の様に飲食店も存在しているし、武器や防具を扱うショップも営業中だ。
だからこそ自給自足も可能なのだが、どうしてもこの辺りでは調達出来ない食物や武具の材料もあるらしく、そう言う物はリーフォセリア王国全土から配達して貰ったり他国から輸入したりしているらしい。
しかし、どうしても辺境にある町と言う事が災いして値段は相場の1.5倍から2倍はしてしまうそうなのだ。
それは地球でもありえない事では無いので、レナードも普通に納得する事が出来たのだが、やはりこの異世界と言う場所であるが故にどうしても納得出来ないものが、今の彼の目の前に存在していた。




