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17.ますますファンタジー

 そうして涙が自然と溢れつつ、考え込みながら何時の間にか眠ってしまったらしいレナードが目を覚ましたのは、部屋のドアをコンコンとノックする音が原因だった。

(……あ、あれっ!? もう朝か!)

 肉体的な負担や精神的なストレスと言った、昨日の手合わせの時のアンリの身体以外に色々とのしかかって来ていたらしい色々なものが、レナードにここまでの睡眠時間を与えてしまった様である。

 窓の外を見てみると完全に空が明るくなっており、この世界での2日目を迎えた。

 とにかくノックされている以上はすぐに出なければ失礼に当たるので、レナードは手早く寝癖がついていないか、着たまま眠ってしまった軍服が乱れていないかをチェックしてからドアの外に向かって声をかける。

「あ、はい、どうぞお入り下さい!」


 その声に反応してノックがストップし、ガチャリとノブが回されて部屋に入って来たのはアンリだった。

「ようやく起きたみたいだな。相当疲れていたのか?」

「どうやらそうみたいですね……」

 事実なのでレナードは否定する訳にもいかず、素直にそう答えるしか無かった。

「昨日は色々と慌ただしかったからな。手合わせにも半ば強引に付き合って貰った訳だし、今日はこの町を案内しようと思う」

 その提案に、思わずレナードの口からはこんな疑問がこぼれた。

「えっ? 私の処遇についてはどうなるんですか?」


 アンリはレナードの質問に、若干言葉を濁しながら困った様な顔をして答えた。

「あ、いや……それがだな、俺だけじゃあ決められないんだよ。隣のソルイール帝国に魔力を持たない人間が現れたと言う事実が残っていたとしても、このリーフォセリア王国では初めての事だからな。正直、王都からの連絡を待つしか無い状況だ」

「そうなんですか……」

 例えばの話ではあるが、実際に地球にも異世界人が現れたとなればヴィサドール帝国も皇帝は同じ事をするのかも知れないとレナードは考える。


(まぁ、あくまでイメージにしか過ぎないのだがな)

 そのイメージは実際に異世界人が地球に現れた時が来たら考えるとして、今は自分の待遇についてもう少し聞くべきだと思い再び質問。

「それでは、王都から私の処遇が出されるまでは私の身柄は一体どうなるのでしょうか?」

「仕方無いと思うが、この町から出られない様にさせて貰う。この町の中であれば幾ら動き回っても良いが、町の外に出るのは許さない。それに、この詰め所から出て町を散策する時には今の俺みたいに詰め所から誰か見張りを付けるのが条件だからな」


 となれば、そこそこの自由は保障されていると言う事か……とレナードは納得した。

「王都からの連絡についてはどれ位かかるか分からないと?」

「そうだな。王国としてもあんたの身柄は扱いに困るだろうし、俺も全く分からないとしか今は言えない」

 アンリにもレナードはどうする事も出来ないので、今はこの世界の事をレナードにもっと知って貰う為に町を見て回る事にしたのだと言う。

 と、ここでレナードはある事を思い出した。

「……あれ、そう言えば……」

「何だ?」

「私が最初出てきたあの丘からこの町に向かって下りて来る途中、ドラゴン? みたいな動物の死骸があったんですよ」


 それを聞いてアンリはああ、と1つ頷く。

「この辺りの村や町を荒らし回っていたドラゴンの死体だな。最近この町の騎士団が仕留めそこなった奴だろう。昨日あんたが出て来たって言うその丘に向かって調査部隊を派遣し、発見して貰った奴だ」

「仕留め損なった?」

 騎士団にドラゴン。ますますファンタジーである。

「まぁな。ドラゴンはあの図体の割には動きが素早いからなかなか弓も魔法も当たらない。仕留め損なう事も良くあるんだ。しかしその反面、攻撃を受けたドラゴンが空中で絶命してそのまま墜落する事もまた良くある事だ。死体はすでに回収したから心配するな」

「分かりました」


 これがこの世界での、常識。

 地球で考えられる非常識な出来事が、この世界では常識として当たり前に受け入れられているこの現実。

 騎士団の師団長であるこのアンリもこの世界の人間である以上、自分よりも確実に物事を知っている筈なのでレナードは素直に町中を案内して貰う事を決めた。

 しかし、そこで1つの不安がレナードの頭を過ぎる。

「そうだ、昨日の路地裏みたいな事は良くあるんですか?」

「ああ、昨日の話か? あれはたまにあるな」


 昨日の今日でまだまだ記憶に新しい、レナードがフランケンシュタイナーでリーダー格を倒したあの事件。

 あれは会話の内容から察するに、アンリに対しての恨みを持った人間達の仕業だろうとレナードは予想する。

 その予想をストレートにレナードはアンリにぶつけてみると、アンリは再び苦々しい顔つきになった。

「ん、ああ……あんたも聞いていたと思うけど、この辺りを荒らしていた盗賊連中を俺が部下を引き連れて捕まえたんだよ。その仲間達が俺に一泡吹かせる為にやって来たって所だろうよ」

 結局は失敗したらしいけど、と何処か遠い目で語るアンリにレナードはこの男の実力の高さを再び感じるのだった。

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