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6.ドラゴン!?

 まさかこんな事が!?

 いや、これは現実であるとレナードの五感の全てが残酷に突き付けて来る。

 目の前に横たわっているこの生き物のシルエット。

 それはまさしく、ファンタジーでお馴染みの大空を自由に飛び回る事の出来る翼の生えたトカゲ……ドラゴンに間違い無かった。

 レナードは勿論、この現実の世界で見るのは初めてである。

(馬鹿な、こんな生き物がこの世界に居るなんて……)

 見た所ではイメージしていたものよりも余り大きく無いので内心では少しホッとしていたのだが、もしこの存在が世の中に知られる状況になったとしたら100パーセント大騒ぎになるだろうとレナードでも予測出来る。


 何故ならば、人間の脳が生み出した空想上の生き物にしか過ぎないドラゴンと言う存在が実際に居るなんて事は、それこそ雪男やネッシー等と言う色々な伝説を肯定する事になるかもしれないのだから。

(この世界の研究者達には悪いが、今回ばかりは私は何も見なかった事にさせて貰おう……)

 今はドラゴンよりも自分の事を最優先に考えて行動しなければならない時だから、このドラゴンに構っている暇は無いと立ち去ろうとするレナードだったが、そこでふと足を止めた。

(この……世界?)

 考えたくない事。

 でも、もしかするとそうでは無いかと思うのが1番自然な考え方だと言う事。

 こんな生き物が居る世界だと言う事はつまり……。


 いやいや、それこそ非現実だろう。

 でも、目の前にはその現実として死骸になってはいるものの「その」存在がある。

 この重厚感、死骸でも分かる威圧感、そして白い手袋越しにではあるがしっかりとレナードに伝わって来る、どう考えても下手な作り物では無い触感。

 これ等を全てひっくるめて、レナードは今の段階で自分が最も納得出来る最良の答えを頭の中の選択肢から選び出した。

(地球では、無い……?)

 出来の悪いファンタジー映画でもあるまいし、そんな地球の現実では考えられない……と言うよりも考えたくない考えがやっぱりしっくり来てしまう。


 初年度の苦い演習の経験以来、元々自分の目や耳で感じた事しか信じない性格に更に磨きがかかっているレナードだったが、こうした現実を突きつけられてしまった以上は認めるしか無さそうだ。

 でも、まだレナードにはここが地球なのでは無いかと考えられる節が1つだけある。

(もしかすると、それこそファンタジー映画の撮影で大規模なセットを造って車やバイクも排除したのでは……?)

 そうだ、そうに決まっている。

 そうであって欲しい。

 天にも祈る気持ちで、得体の知れない恐怖感から逃げる様にレナードは丘を駆け足で下り出した。


 そのレナードの気持ちは、どうやら天には届かなかった様である。

 丘を一気に駆け下りて辿り着いたなかなかの規模の町では、明らかに演技には見られない人々の生活の様相がレナードの目に飛び込んで来たからだった。

 カメラを始めとした撮影機材の類いは何処にも見当たらないし、何よりも子供から大人までが当たり前の様に普段の生活を普段の態度や仕草でしているのが演技なんてした事が無いレナードにさえ分かる。

 大勢のエキストラがここまで自然な動きを出来るのかは分からないが、少なくともレナードには演技では無い「素」の表情や身ぶり手振りにしか見えない。

(認めたくは無い……)

 率直に言えばその気持ちでレナードは一杯だったが、ここまで現実をまざまざと見せつけられては嫌でも認めざるを得ない。

 恐らく……いや、確実にこの世界は地球では無いだろうと言う事を。


 しかしそれが分かった所で自分はどうすれば良いのだろうか?

 規模がそれなりに大きいとは言え、入り口に見張りも居ないこの町に来た所からこの世界での生活がスタートする事になる。

(地球では無いとすれば、勿論私は地球に戻らねばならないだろう)

 その為には当然、地球に帰る為の情報収集をしなければならない。

 かと言って、いきなり「違う世界から来たみたいなんですけど、帰る為の方法を知りませんか?」等とシンプルに聞いてしまって良いのだろうかとレナードの頭に不安が過ぎる。

 あの初めての合同演習の時の様に、予想しない事態が起こってしまったら?

 その思いがレナードの足を止めかけてしまうが、それでも自分の足を踏み出して聞いてみない限りは何時まで経っても地球に帰る事等出来やしないだろう。

 正直、レナードの頭の中ではこの場所がまだ地球であると言う可能性を完全に捨て切れた訳では無い。

 今までの周りを見て来た上で、自分の推測の域を出ない状況なのだ。


 その真偽を確かめると言う意味でも、まずはとにかくこの場所の情報を手に入れなければならなかった。

 一先ずレナードは、近くを歩いている自分よりもやや大柄な男に話しかけてみる。

 身長からすると183cmの自分より大柄である事から、190cm位はあるだろうか?

「あの、お聞きしたい事があるのですが少々お時間宜しいですか?」

「……何だい?」

 赤茶色の髪の毛を無造作に跳ねさせたその男は、白い軍服姿のレナードの姿を見ると一瞬呆気に取られた様な顔をした。

 だが素早く人当たりの良さそうな表情に切り替え、男はレナードの言葉を待った。

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