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46.兵士が覚えた違和感

「……失礼ですが、その遺跡にどの様なご用件ですか?」

「ああ俺? 俺は旅人だよ。色々な場所を見て回ってるんだ」

「その格好でですか?」

「まぁな。この中に汚れた服が入っててよ。これはよそ行きの服なんだ。それでここで洗濯しようと思ったんだが……村があるならそこで洗濯用の道具を借りるとしよう。遺跡を見てみたいのはただ単に興味本意って奴なんだが、それじゃダメか?」


 ジェイヴァスの質問に兵士は即座に首を横に振る。

「ダメです。さっきも申し上げた通りその遺跡は立ち入り禁止ですし騎士団の人間が常駐してますからね。村に行くのは別に構いませんが、遺跡に入ってはいけませんよ」

「わーった、わーったよ。近付かなきゃ良いんだろうが。それで、馬車はこの町の何処から出発してるんだ? で、金はかかるのか?」

「北にある出口の方です。町の外から大きく迂回して行くのが楽だと思いますし、乗り場もすぐ見つけられる筈です。料金は片道で200クランですよ」

「分かった、サンキューな」


 金髪の男はそう言って立ち去って行ったが、そのやり取りを見ていたもう1人の兵士も今の男の身なりや言動には違和感を覚えた様であった。

「……何かあいつ、怪しく無いか?」

「俺もそう思う。みんなに知らせておくか?」

「ああ、それが良さそうだな」

 周知を提案した兵士が今の金髪の男の情報を知らせに町の中へと駆けて行くのを見て、男に話しかけられた兵士はその男が立ち去った方向を見つめながら何かを考え込む。

(そういやここ最近、王国で活動している盗掘団の連中がこっちにも来たって言う噂が流れて来てた気がするな……)


 そこまで考えて、兵士はハッと気が付いた。

(まさか、あの男がこの頃噂になっている盗掘団の連中……!?)

 話の流れとしてのつじつまは一応合っている気がしたが、何処かしどろもどろな雰囲気が漂っていたし服装にしても明らかにこれから遺跡に行く様な感じでは無かった。

 そして最初は男の格好ばかりに気が行っていたのだが、そう言えば男と対峙した時に妙な違和感を覚えていた事も思い出した。

(あれ、そう言えばあの男の魔力って……?)

 普通なら魔力の流れを感じる事が出来る筈なのに、あの男からは何も感じる事が出来なかった。

 余りにもボーッとし過ぎていて、暇疲れを起こしていたので錯覚かもしれないが……?

(思い過ごしなら良いけど、これも報告しておいた方が良いな)

 もし何か悪い出来事の前兆だったらそれはそれで非常にまずいので、もう1人の見張り番の兵士が戻って来次第自分が報告に向かおうとその兵士は決心した。


 さっきの兵士がそう決意をしている頃、ジェイヴァスはその兵士の視界から見えなくなった地点から歩く……いや、走って移動のペースアップをする。

(怪しいだろうな、俺……)

 ジェイヴァスは自分自身でもさっきの兵士と話していた時の自分が怪しいだろうなと感じていたし、もし自分が兵士の立場なら同じ気持ちになるだろうと思っていた。

 だが、これだって自分が遺跡までの距離やかかる時間を事前に調べておかなかったからこうなってしまったのであって、自分自身のせいに間違いは無い。

 とにかく、今はさっさと馬車のある場所に向かって遺跡に行ってしまう方が良いだろう。


 金は幾らあるのかは分からないが、それでもまだずっしりとした感触が金の入っている袋から伝わって来るのでジェイヴァスは更にペースを上げた。

(怪しまれているのは俺にも分かった。だったらもう遺跡まで行っちまえ!!)

 幸いと言うか、その遺跡の近くには村があるらしいのでそこまで腹を持たせる事が出来ればそれで良かった。

 食べ物を買っている時間は無い。

 今は遺跡に向かう事だけを最優先に考えつつ、目の前まで迫って来たバスストップならぬ馬車ストップに向かって文字通りの全力疾走でジェイヴァスは走り抜けて行った。


 そして。

(意外とすんなり行けたな……)

 てっきり町の兵士達に止められてしまうかと思いきや、金を払ってしまえばあっさりと馬車に乗って遺跡へと出発する事が出来たジェイヴァス。

 ここまでは順調な滑り出しだが、この先で何があるかと言う事までは分からない。

 徒歩で3日かかるとあの兵士は言っていたのだが馬車ならどれ位かかるのかと聞いてみた所、御者曰く1日半あれば着くそうだ。

(大体半分って所のスピードか。ならまぁ、腹ごしらえは村に行ってからで十分だな)

 人間が餓死するまでには、食事どころか水分も全く摂らない状態で1週間はかかるのだと言う。


 ならば全然問題は無い、と少し安堵しながらジェイヴァスは今までのバタバタしていた色々な騒動で疲れた身体を休めるべく、自分しか乗っていない馬車の中で横になって眠りにつくのだった。

 だが、まだジェイヴァスは知らなかった。

 眠りについてしまった事により、次に目を覚ました時にこの行動を後悔しても遅すぎたと言うべき展開が自分自身に待ち受けている事を。

 何故ならば眠りから覚めたその視界に、馬車の天井では無くて木製の薄暗い天井が飛び込んで来たからである……。

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