表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/625

15.鉱山跡の登山

 その坂を必死で駆け上がって行くと、やがて断崖絶壁の上にある山道の入り口に出る。

 山道はいわゆる獣道を切り開かれて造られた道らしく、人間2人が横向きに歩いてやっとすれ違える位の幅しか無く、さっきの魔獣はギリギリ通れるか通れないかという感じだった。

(だけど、ここからあの魔獣の姿は見えないな……林の木々が邪魔だ)

 振り向いて崖下の林を見つめ、馬車が襲われた方角を大体見当付けて魔獣の姿を高台から探すリオスだったが、丁度心の中で思う通り林の木々が視界を遮っていた。

 ……リオスが魔獣以外に気になる存在があるとしたら、木々の中にチラチラと見え隠れしている数人の人影だったが。

(ここからでも分かる位に慌ただしく走っている。あれは人間だろう。流石に正確な数までは分からないが)

 どういう状況であの人間達が走っているのかは分からないが、走っている方角は街道の方らしい。

 もしかしたら騎士団の人間……? とリオスは思ったが、今自分が立っている場所からは人間達が走っているその様子しか見えない。

 それにまだ山道は上に続いているので、あの人間達がさっきの馬車の御者を助けてくれる事を願ってリオスは更に上へと歩き出す。


 そのまま歩く事およそ5分。緩やかなカーブを何個も描きながら登って来た道がまっすぐになった。

 このまま行けば頂上に出るのか? とリオスは考える。

 実際、獣道として切り開いて来たであろうこの道からだんだん左右の木々の本数が少なくなって来ているからだ。

(さっきの様な魔獣に出合わなかったのは良かった。襲われていたら絶対俺は逃げ切れない)

 思わず身体が震える。

 これが日本の文化に興味を持っている自分の副官が言っていた「武者震い」と言う現象なのだろうか、と思っているリオスの足下の獣道が終わった。

 そしてその先にはこれまた明らかに人の手によって造り出されたのが分かる位に、山の中に続くしっかりとした入り口がある。

 木の枠で壁や天井が固定され、中に続く道の先は壁の至る所に掛けられたランプによって多少薄暗いものの、新たに明かりを用意しなくても十分歩いて行けそうだった。

 足下を見てみれば、まだ新しい足跡が幾つか存在しているので人の出入りがあるのもリオスには分かる。


 だが、そこでリオスは2つの事に気が付いた。

(そう言えば、この辺りってまださっきの町からさほど離れていない場所だ。と言うことはここがもしかしたら……?)

 あの女の死体のそばに落ちていた奇妙な欠片を騎士団員に見てもらった時に、町の近くにある鉱山跡で採取出来る鉱物の欠片であると聞かされていた。

 そしてもう1つ。「鉱山跡」と言うのであれば、当然今は本来の目的には使用されなくなった場所と言う事になる。

 にも関わらず、この入り口には見るからに新しい足跡が幾つも存在しているのは人の出入りがまだまだある証拠だった。

(この獣道では足跡が分かりづらいのか……少なくとも俺の目には足跡は見当たらなかった。けど、この足跡からするともしかしたら人が居るかもしれないな!!)

 だったら助けを呼べる可能性もあるだろうとの結論に達したリオスは、足下の状況に気を付けながら鉱山跡の入り口へ足を進めた。


 風が吹き抜け、リオスの背中の真ん中辺りまで伸びている銀髪をかき乱す。

 風の岩の壁に反響し、まるで悲鳴の様な甲高い音を奏でるのも相まって薄暗いこの道は不気味だった。

 人の気配は今の所感じられ無いが、奇襲をかけるにはうってつけであろう分かれ道が幾つも途中にある。リオスはその1つ1つの奥に向かって神経を研ぎ澄まし、人間や人間以外の生物の気配が無いかどうかを探る。

(大丈夫だ……な。だが油断はしない)

 気配を殺すのが抜群に上手い相手が潜んでいたら?

 気配にもし自分が気がつかなかったら?

 何か隠し通路みたいな物があって気配が急にそこから出て来たら?

 こんなファンタジーな世界に来てしまった以上、何が起こったって可笑しくない。

 そんな考えをリオスは念頭に置きながら、更に鉱山跡の道を奥へ奥へと進んで行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ