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40.苦しめられる記憶

 まさか、と言う思いがジェイヴァスの中に広がる。

 もし、この奇襲が事前に敵にリークされていたのだとしたら?

 そんなバカなと思っているジェイヴァスの目の前で、1人の仲間が撃たれてしまう。

「シモン……っ!!」

 入隊当時から長年の付き合いだった男だけあって、ジェイヴァスは悔しさから歯ぎしりをして叫ぶ。

「ざっけんなあああああああああああ!!」

 怒声交じりに、ジェイヴァスはシモンを撃った敵を撃つ事に成功した。


「シモン、おい!! しっかりしろっ!」

 何とかシモンを救助して敵の攻撃が届かない物陰に隠れたは良いのだが、撃たれた場所が悪かったシモンはジェイヴァスに口を開いて遺言を残し始めた。

「ジェ……ジェイ、ヴァス……」

「喋んな!! もうすぐで救助が……」

「いいや、来る訳がねえよ……俺達は大隊長に嵌められたんだ」

「何っ!?」

 この息も絶え絶えの中でいきなり何を言い出すかと思うジェイヴァスだが、シモンはそんなジェイヴァスの表情に動じる事無く口を動かす。

「大隊長はな……反政府軍の偉い奴と繋がってたんだ。俺、そのやり取りを数日前に見てしまったんだよ。でもすぐ出発して、大隊長も同行してたから言い出すタイミングが無くて……くそ、すまねえ」

「何だって!?」


 シモンの言う大隊長とは、ジェイヴァスが入隊当初から色々と可愛がって貰ったいわば軍の中における父親的存在の人物である。

 そんな人物が果たしてそんな事をするのだろうか?

 しかしこの状況下でシモンがこんなジョークを言える様な性格では無いし、むしろジョークにも出来ない様な事なので明らかに言ってはいけないだろう。

 それでも何故、自分にこんな事を話すのだろうか。

「隊長……お、俺のロッカーの中に撮影した映像が収められてるUSBメモリがあるから、それ……を然るべき所に出してく……れ、良いな……ぐっ!!」

「お、おいシモン! シモンっ!?」

 銃弾が飛び交う戦場の片隅で、1つの命が終わりを迎えた瞬間だった。


「くそっ……のやろおおおおおお!!」

 大切な仲間を失ったショックで、ジェイヴァスは敵に立ち向かう。

 他の生き残っている仲間達が戦っている中で、何時までも悲しんでいられる状況では無かったからだ。

 だが、現実とは非情なもの。

 勢いづいている反政府軍は次々にジェイヴァスの部隊を倒して行き、ジェイヴァスも最後まで抵抗をしてみたものの結局は反政府軍の捕虜として捕らえられてしまったのだ。

 その後は1週間、反政府軍のアジトで集団暴行を受けたり生爪を剥がされたり、政府軍の情報を吐くまでナイフで急所を外して刺されまくったりと散々拷問に次ぐ拷問の毎日だった。

 それでも決してジェイヴァスは口を割らず、1週間後にやっとの事で救援に来てくれた政府軍に助け出されて即入院となったのである。


 その後、映像の中には驚くべき情報が収められていた。

 大隊長は反政府軍の上層部と繋がっており、自軍の戦術情報やその他もろもろの情報をリークする事によって見返りとして多額の謝礼金を隠し口座に送金して貰っていたと言うのだ。

 普通の手紙に見せかけた、その手紙の中に含まれている暗号として記された情報を解読して反政府軍が情報を分析出来る様にしており、実に巧妙な手口の為頭を使う事が苦手なジェイヴァスには情報部が手紙や映像を解析するまで分からなかったのだ。

(もし俺がシモンから何も言われてなかったら、そしてシモンが映像を証拠として残していなかったら、大隊長はのうのうとこの先もやって行けたんだろうな……くそがっ!!)

 その大隊長は内部調査の結果処罰されたものの、ジェイヴァスにとっては今も記憶の中に大きく残るトラウマものの出来事だ。


 そして自分が1番信頼していた筈の大隊長に裏切られたと言う事になり、人を安易に信頼してはいけないとの思考をジェイヴァスの中に形成する事になる。

(北の遺跡に行くなら、それこそもっと情報収集しなきゃな。それも、信頼のおける奴等から情報を集めないと何が待ち受けているか分からねえ)

 信頼出来る情報筋と言えば、実際にその遺跡に向かった事がある冒険者が丁度良いだろうと色々と思考を巡らせる。

(となれば、やっぱりそう言う類の人間が集まる場所に行くのが手っ取り早いな)

 その後もこれからどうするべきだと考えながら歩き続ける事、およそ3時間。

 もう足が痛くてしょうがないジェイヴァスの目の前に、次の町の入り口が見えて来ていた。


(はぁ……ようやく着いたぜ)

 鍛えている軍人と言っても人間である以上無限に活動出来ない。

 もしそんな人間が居るとすれば、それはもう軍人では無くてロボットかサイボーグか何かの人外の存在じゃねーかと思いつつ、ジェイヴァスは一刻も早く休みたいのでさっさと町の中に入る事にする。

 時刻は昼になろうとしていた。

 それと同時にジェイヴァスの腹からぐうう~と音がする。

(荷物は取り返したし、それからさっきの女から金も奪ったし、時間も時間だからまずは昼飯にすっか)

 少しは落ち着く事が出来るかな、とジェイヴァスは新たな町の中へと入って行くのだった。

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