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33.野宿で見た光景

 乗り心地の悪い馬車に揺られながら、時折り休憩と野宿を挟み込んでジェイヴァスはようやくその研究所がある町へと辿り着こうとしていた。

 あの酒場での乱闘の日から4回目の朝。

 つまり出発した夜から数えて4日後、その町が遠目に見える所までようやくやって来たのだ。

 休憩途中で自分が魔力の無い人間だと言う事が知られているからか、ジェイヴァスは見張りを付けられたまま馬車の中で食事も睡眠も摂らされるスタイルでこの移動時間を過ごしていたのである。

 それに表立っては無いにしろ、雰囲気で何となくだが自分は避けられているのがジェイヴァス自身にも分かった。

(魔力が無いって言うのは、やっぱりこの世界じゃ異常らしいんだな)


 地球人であるジェイヴァスからしてみると全く逆の価値観だ。

 魔力とか魔法とかはそれこそ空想上の世界の話。

 格闘技をやっており、尚且つ軍に入ってからは銃火器類の扱いも訓練で習得している自分からすると、そんなオカルトチックな物事なんて到底信じられる物では無かったからだ。

 だが野宿をする中で馬車の窓から見えた光景は、ジェイヴァスに自分の目を疑わせるには十分過ぎるものだった。

 野生動物が近寄って来ない様にたき火を始める騎士団員達だったのだが、その騎士団員の中の1人がたき火用の枯れ草や木々の寄せ集めで作った火種に手をかざすと、いきなりそのかざした手の先から炎がボワッと出てその火種に火が着いたのである。


(何だありゃあ!?)

 若干遠目だが、それでも見た感じでは騎士団員の手には何も握られていなかった様に見えたしそもそも手を完全に開いてかざしていたのが見えた為に握れる筈が無い。

 となれば、非現実的な出来事が目の前で起こったと言う事に他ならない。

 流石に自分の目の前でそんな光景を見せつけられたとなれば、非現実的な物事でもジェイヴァスは受け入れるしか無かったのだ。


 そして、たき火を囲んで談笑する騎士団員達を目の当たりにして思わずジェイヴァスはぼやく。

「部下のあいつ等……元気にしてるかな?」

 まだこの世界に来て全然日数は少ないものの、今まで色々と目まぐるしい中身の濃い日々を送って来たジェイヴァスがすっかり忘れていた事。

(そう言えば、俺はこの世界に来る前はまだ演習に参加している立場だったんだよな)

 4か国合同訓練の中で、いきなり俺だけがこの異世界にトリップしてしまったとなれば今頃向こうの世界では大騒ぎになっている筈だぜ、とジェイヴァスは思う。

(俺だけか……)


 そこまで考えてみて、あれ……? とジェイヴァスの頭の中にクエスチョンが浮かんだ。

(俺だけ? 本当にそうなのか?)

 4か国合同訓練の中で、ロシア軍に在籍しているのは確かに自分だ。

 だけど、自分以外にももしかしたらこの異世界に同じ合同訓練を受けていた軍人の誰かがやって来た可能性があるかもしれない。

(となればこの国の何処かに……いや、何処か別の国にいきなり出てしまった軍の奴だって居るかも!!)

 あくまでこの可能性が推測にしか過ぎないのはジェイヴァス自身が1番良く分かっている。


 でも、その可能性が事実だったら何がなんでもこの世界に来てしまった他の地球人に会いに行った方が良いだろうとジェイヴァスは考えた。

(事実であって欲しいもんだぜ)

 それならば尚更こんな所でつまずいている場合じゃねえと決意したジェイヴァスだったが、そんな彼が研究所があると言うその次の町に辿り着く筈の朝に事件は起こった。

 物事の終わり間近は気が緩みやすいと言われており、そして魔物が活発化すると騎士団員が言っていた夜の時間帯が終わったと言う安心感でジェイヴァスを含めた全員が気を緩ませていたのが命取りになった。

 やっと着くのか、と馬車の中で良い加減この長旅に疲れていたジェイヴァスはその瞬間、いきなり馬車が揺れた衝撃に耐え切れずに荷台の中をゴロゴロと転がった。

「うお、ぐわっ!?」


 明らかに路面の凹凸による揺れでは無い。

 だったら地震か? と思ったがそれもどうやら違う様で、何とか身を起こしてその目で見た光景に唖然とする結果になった。

(嘘だろ……)

 天井の位置に窓がある事から、馬車が横倒しになった事が分かった。

 となれば地面の部分にあるドアは開かないと言う事なので、何としてもすぐに脱出しなければならない。

 周りに居る護送中の騎士団員にも手伝って貰う。

 彼等が腰に取り付けているロングソードの鞘で思いっきり突き上げて貰い、窓を割って貰って4人で脱出。

 しかし緊急事態となっても手かせを外して貰えない為、ジェイヴァスの行動は制限されてしまう。


 そのままで行動するしか無くなってしまったジェイヴァスだったが、目の前に現れた馬車の横転の原因にもう1度唖然とする事になったのはすぐだった。

「な、あいつ等……」

 呟いたジェイヴァスのその視線の先。

 それはまさに、あの紫のバッジの守護者と戦った遺跡に現れて慌ただしく駆け回っていた筈の、因縁のあるあの連中だったのだ。

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