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31.頭を使うのは苦手なんだよ

 少し眠ってみれば、既に牢屋の明かり取り用の窓から見える空は闇に染まっていた。

(あー、くっそー……何とかここから出たい所だけどなぁー……)

 例えば都合良く脱獄に協力してくれる人間が現れたり、簡単に牢屋から脱出出来たりするシーンがアクション映画やドラマの世界では一種のお約束とも言える。

 だが今までジェイヴァスは成り行き上とは言え、多くの敵を手にかけて来た訳だから因果応報とも言うべきか、そんな都合の良い存在が現われてくれそうには全く無かった。

 その現実にジェイヴァスが直面してしまった時、彼の心の中に1つの決意が生まれた。

(……だったら、自分で道を切り開くしか無い!!)

 エサを待っているだけの鳥が空に向かって口を開けていても、空からエサが降って来る事は無い。

 小鳥ならまだしも、成長した鳥がエサをゲットしたいのならば、そのエサをゲットする為の方法を自分で考えてそれを実践するのが当たり前の話である。


 この小さな牢屋の中に、何か脱獄に使えそうな道具になりそうな物が無いかと探してみる。

 部屋の中にはさっきまで自分が寝ていた木製の吊りベッドに、後は下の用を足す場合に必要なタル位しか無い。

(くっそ……こんなんじゃまるでダメだ。どうにも出来そうにねえよ)

 窓はしっかり鉄格子がはめ込まれているので壊す事も出来なさそうだし、早々にジェイヴァスの顔に諦めの表情が浮かんでしまった。

 あいにく、こう言った頭を使う事はまるでダメなのだ。


 そんなジェイヴァスに、先程彼の訴えを丸無視していたあの騎士団員から声がかけられたのはその時だった。

「おい貴様、移動するからここから出ろ!!」

「え、移動?」

「そうだ。さっさと出るんだ」

 いきなり移動と言われても、一体何処に移動するのかジェイヴァスにはさっぱり予想がつかなかった。

 そもそも事情聴取すらされないままで、更に一緒に揉めていたあの酔っ払い達は簡単な事情聴取の後に罰金を支払って解放されてしまったのをハッキリとジェイヴァスは見ていた。

 何故自分だけが長い時間放置されたままで、しかも別の場所に移動させられなければならないのだろうかと真剣にジェイヴァスは考えてみた。

(もしかして、俺の荷物の軍服が怪しいとか? それともあのバッジが? 金を強奪したのがばれたのか?)

 今の所で思いつく理由と言えばそれ位だし、そうなればこれ位の田舎町の小さな留置場程度では自分の身柄を扱い切れないって言うのは分かる気がするジェイヴァス。


 だが、それはそうとして一体何処に移動する事になるのだろうか?

 ジェイヴァスの頭で考えられる場所としては何処かの研究所に行く事になるのか、それとももっと大きな留置場に移送か、はたまた……。

(この国の王が住んでいる城とか? いや、公国だっけか。だったら大公か)

 そこまで考えてみて、ジェイヴァスはブンブンと首を横に振る。

(いやいや、我ながら話が飛躍し過ぎだぜ。B級映画でもあるまいに、いきなりそんな偉い人に面会なんてあるわけねーだろっつの)


 既に記憶から消えてしまっているこの世界の名前、そしてアイ何とか王国と言うあやふやな国名。

 その王国のトップに、自分みたいな異世界からやって来た人間がいきなり出会う事が出来るのだろうか? とジェイヴァスはちょっとだけ考えてみるが、今はそれ所じゃ無い事にも気が付きながら用意された馬車に手かせを身体の前ではめられて護送される事になった。

 あの見張りの騎士団員いわく、ジェイヴァスの身体には魔力が無い。

 その魔力が無いと言う事はこの世界の人間ではありえないと言う事でもあるので、これはしっかりと検査する事が必要らしい。

 だからもう少し大きな町へと馬車を使って護送し、その町にある研究所にジェイヴァスを送り届ける事にしたのだと言う。

(俺の予想は少しだけ当たってたみてえだな)


 しかし研究所があると言う事は、もしかしたら人体を調べる事以外にも他にも何か研究をしている可能性が大きい。

 となれば、その研究所で地球に変えるためのヒントが得られる可能性もあるかもしれないと言う事だった。

(この際地球じゃなくても良いから、俺みたいに別の世界からこの世界にやって来た他の人間が居る、もしくは居たって事が分かれば大きなヒントになる筈だぜ!)

 自分でも珍しく頭が冴えている考え方だとジェイヴァスは自画自賛しながら、ここは素直に馬車に乗ってその研究所がある町まで運んで貰う事にした。


 ちなみにこの時間までずっと牢屋に入れられていたのは、その研究所に護送のアポイントを取っていたので時間がかかったらしい。

 そして魔力が無い人間が現れたと知られて町の人間が野次馬になったりする様な騒ぎが起きると手間がかかるので、人の往来が無くなりやすい夜間にひっそりと護送するのがスムーズだと言う理由だった。

(俺はいわゆる、知られたくない存在と言う訳か)

 この世界で前例が無いと言う人間の存在が明らかになってしまえば、それだけで大騒ぎになる確率があるのは目に見えている事なのはジェイヴァスにも分かる。

 だが、自分がいざその立場になってしまう時が来てしまう事になろうとは、ジェイヴァスには絶対に予想出来なかった体験でもあった。

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