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16.記憶なんて当てになんない

 謎の足音が近付いて来る前に路地裏から退散したジェイヴァスだったが、すぐにあの死体が見つかってしまうと踏んでさっさとこの町から出て行く事にする。

(色々と面倒な事になっちまったぜ。騒ぎが大きくなる前に他の町に行くか)

 だが、ここで問題発生。あの宿屋に地図を置いて来てしまった事に気がつく。

(あーくそっ! ここからなら近いから一旦戻ろう!)

 今までの道のりと路地の出口の場所を考え、なるべく目立たない様にダッシュで宿へとジェイヴァスは戻る。

 幸い、宿の周辺にはあの集団の仲間達は居ない様だ。

「おお、お帰り」

「あっ、マスター! すまねえけど俺は急いで他の町に行きたいんだ。地図を今自分の部屋から持って来るから、何か良さそうな移動手段が無いか考えてくれ!」

「えっ……え?」


 呆然とする宿のマスターを尻目に、ジェイヴァスは自分の宛がわれている部屋に飛び込んで地図を回収。

 それからすぐにマスターの元へと戻った。

「そんなに急いで如何したんだ?」

「あの因縁つけて来た集団がまた俺を狙ってるんだよ! だから俺はさっさと別の町に行きたいんだ。如何行けば良い!?」

 物凄くあたふたするジェイヴァスの剣幕に押されたのか、マスターは差し出された2枚の地図の内でこの国の地形を表わしている地図を開く。

「ええっと、この町は北東のここだ。そしてここから1番近い町って言えば、馬に乗って西に3日程行った所にある町だ。そこならまた色々と服を買ったり出来るだろう」

「ああ分かった、どうもありがとう」

 何処から何処までが本当なのか分からないが、今はこのマスターの言う事を信じるしか無い。


 あの連中が路地裏の死体を見つける前に、ジェイヴァスはその西の町に向かう。

 マスターの話によれば、この町のそれこそ西の出口付近に西の町に向かう乗り合い馬車を無料で出している場所があるらしい。

 だったらそこで乗り合いさせて貰えば良いか、と考えつつ西の出口へと駆け出す。

(くそ、飯とか買い込んで行ければ良いんだが今はそんな時間すら惜しいぜ。とにかくこの町から出て行くのが最優先事項だ!)


 素早く行動して町から出て行けば、それだけあの連中に見つかる可能性も低くなるし無用な戦いに巻き込まれないで済むからだ。

(幾ら戦うのが好きだからって、物事には時間と場所と場合があるんだ。俺だってそこはわきまえてるつもりさ)

 それにあの人数を一気に相手にする様な修羅場を自分だけの力で切り抜けるのは、それこそフィクションの中だけの話だとジェイヴァスは思いつつ辺りの様子を探りながら町中を早足で駆け抜ける。

 さっきの路地裏から逃げ出す時の様にダッシュで駆け抜けてしまうとかえって目立ってしまうので、こう言う時には急ぎたい気持ちと目立ちたくない気持ちを上手い具合に両立する事が出来る早足が最も適しているだろう、とジェイヴァスは考えた。


 途中で何人かのそれらしき男女とすれ違ったが、顔を伏せ気味にしつつ通り過ぎた事もあってか特に気がつかれる事も無しに乗り合い馬車を出している場所にたどり着く事が出来た。

(考えてみりゃー、あの女伝いに俺の容姿や服装の情報は伝わっていても俺の顔を実際に見ているのはその女と、あの時斧を持って向かって来た奴……恐らくはリーダーか。そのリーダーかもしれない奴とそして……さっき俺が路地裏で殺したあの男だけなんだよな)

 3人目の路地裏の男に関してはすでに口が封じられてしまっている為に情報漏洩の心配は無いし、最初の斧を持って向かって来たあの男だってスイッチを押して降りて来た壁で自分との接触を遮られてしまったせいで、顔を見られたのはせいぜい4~5秒と言う所だろう。

 しかも少しだけしかまだこの町を歩き回っていないにもかかわらず、様々な髪の色の人間をジェイヴァスは見かけた。

 勿論、金髪の男も。


(人間の記憶なんて、よっぽどの事が無い限り当てになんねーもんだ)

 何時か何処かで、人間の脳は生まれてから死ぬまでに見た事や聞いた事を全て記憶していると言う情報をテレビだか雑誌のコラムだかで脳に入れた記憶がジェイヴァスにはある。

 だが、それだってもしかしたらあやふやかもしれない。

 それこそ超人的な記憶力の持ち主でも無い限り、100パーセント正確な情報を脳から引き出して来る事なんてそうそう出来る様な事じゃない。

 そんな当てにもならない様な記憶だが、今はその情報を信用しておく。


 更にジェイヴァスにとっては嬉しい誤算があった。

「おい、路地裏で人が死んでるってよ!」

「しかも服とか全部取られちまってるらしい!」

「うわー、こえーなそれ。変態の仕業かぁ?」

 この馬車の乗り合い場所までやって来る途中で、ジェイヴァスが殺したあの男の事が騒ぎになっているらしく警備の目が結果的にそちらの方へと向く事になったのだ。

(はっ、こりゃーラッキーだぜ。だがそうなるとあいつ等に仲間が死んだ事が露呈するのもすぐだからな。とっとと退散退散っと)

 まさかのチャンスを利用しない訳は無いので、今は大人しく馬車に乗り込んで西の町へと出発して貰うのだった。

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