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12.この世界に来た理由

 宿の作業も一通り終了し、この世界での初めての夕食にありつく事が出来た。

 出されたのは肉料理。

 何の肉を使っているのかジェイヴァスには分からなかったがそれとなく宿のマスターに聞いてみた所、普通にこの宿で提供されている料理だと言うので危険性は無いとジェイヴァスも判断。

 この辺りで捕獲出来る鳥の肉を使ったソテーらしい。

(おおっ、良いねえ……やっぱりスタミナつけんなら肉だぜ肉!!)

 味付けはジェイヴァスの好みとマッチした様で、今は細かい事を一時忘れて料理を堪能する。

 こうして人間の三大欲望の1つである食欲を満たしたジェイヴァスはそのままソテーをハイペースで平らげ、休憩がてら椅子にもたれ掛かる。


(あ、そうだ……)

 大事な事を思い出したロシアの軍人は、宿のマスターに頼んで重要なアイテムを貰う事にする。

 それはこの世界の地図。

 それもこの地域の地図だけでは無く、世界全土まで網羅している地図も一緒に貰ったのだ。

 まずはその貰った地図の内、世界地図の方をバサッと開いてみる。

 ジェイヴァスはその瞬間、自分の目を疑うと同時にこの地図に納得してしまう自分に気がついた。

(おいおい、こりゃあ……)

 やっぱり洒落にならねえぜ、とジェイヴァスは改めて思う。


 その世界地図は明らかに違っていた。

 地球とはまるで違う大陸の構成を始めとして、国が全部で9つしか無いのもおかしいし、更に全ての大陸が繋がっているので移動には船を使う必要はよっぽどの事が無い限り無さそうであるとジェイヴァスは読む。

(何処が今の俺が居る国なんだ? ええっと、ここがエスヴァリーク帝国でこっちがカシュラーゼって所で……ん?)

 その瞬間、はたとジェイヴァスは気がつく。

(あれっ? 何で俺は文字が読めるんだ?)


 地図に記載されている国名は、見た感じは明らかにロシア語とも英語とも違う綴りだ。

 その文字とその文字で構成されている文章が、まるで自動翻訳でもされているかの様にスッと頭の中に入って来る。

 地球じゃ無い世界だと言う事が確定した筈なのに、まるで地球での普段の生活と同じ様に文字が読めてしまうのだ。

(んん……でも、これはこれでラッキーだぜ)

 考えてみれば違う世界の人間の筈なのに、あの槍使いの女が喋っていた言葉は自分が何時も聞き慣れているロシア語だった。

 しかもその前のあの紫髪の男の怒鳴り声も、それからここの宿屋のマスターの言葉も全てロシア語にジェイヴァスには聞こえていた。


 その点に関してはラッキーだったなと深く考えない事にして、これからの行動について考える。

(まずは……俺が今何処に居るのかの確認だな。それからこの世界からちゃんと地球に帰る事が出来る方法を探す事。それには金がまず必要だし、それから移動手段も必要だな)

 世界地図で見ているだけでもかなりの広さがある世界らしいので、この足1つで歩き回ったとしたら一体何日、いや何か月……いいや、何年かかるのか見当がまるでジェイヴァスにはつきそうに無かった。

 だからこそ、効率の良い移動手段を見つける事が出来ればそれで良い。

(もしくは、さっさと地球に帰る為の方法を探し出せればそっちでも良いか)


 そして、ジェイヴァスにはまだ気掛かりな事があった。

(何で俺が、この変な世界に来ちまったんだ?)

 こう言う出来事はフィクションの中の話だとばかり思っていたし、そう言う映画を知人に連れられて一緒に見に行った事もある。

 その時の映画はフードを目深に被った謎の人物からペンダントを主人公の若者が託されて、そのペンダントに導かれる形で地球とはまた違うメルヘンチックな世界に主人公が行ってしまい、苦難や葛藤の末にペンダントを元の持ち主に返して地球に戻って来ると言うストーリーだった。

(でも、俺はもう若くないしそれに何も託されちゃいない。だったら、一体俺は何でこの地球じゃ無い世界に来てしまったんだ?)

 普段から右脳ばかりを使う行動派な性格のジェイヴァスは、なかなか論理的に物事を組み立てて考える事が苦手だ。

(幾ら考えても分かんねえな。とりあえず、誰かに聞いてみて情報収集するっきゃねーか)


 その為にはより多くの人間に色々な話を聞いてみる事から全てが始まる。

 この町は山の麓にあるので、余り大きな規模の町では無さそうだ。

(しかもあの山の上でドンパチやらかしたあいつ等がこの宿を寝床にしてるっつーから、ここはさっきのマスターに移動手段を聞いて、そしてその移動手段で何処か別の町とか村とかに行ってみっか)

 あの集団に見つかってしまったらまた面倒な事になるのは明らかに目に見えている。

 さっき自分で決めた通り、この宿から移動出来るだけの体力はまだ残っていないのでこの宿で体力を回復した方が良いだろうと言うのは自分でも良く分かっているのだが、それ以上に必要の無いトラブルに巻き込まれてしまうのはもっと回避すべき事であると言うのも分かっている。

(頼むから、あいつ等と俺が鉢合わせしません様に……)

 戦うのが好きな自分でも、限界と言うのはあるんだぜと思いながらジェイヴァスは割り当てられた部屋に向かった。

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