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9.崖っぷちのバトル

「はぁ、はぁ、はぁ……くっ!!」

 息を切らせながら斜面を駆け抜け、時折り岩に付着しているコケや生えている草や木の枝に足を取られて転びつつも、すぐに立ち上がってジェイヴァスは走り続ける。

 麓まで辿り着いてしまえば、町の人間に助けを求める事が出来るかもしれない。

 そんな思いで、キズと汚れだらけの身体になってもジェイヴァスは炎や体当たりをギリギリで回避しつつ山を下りて行くが、その追い掛けっこは唐突に終わりを告げる事になってしまう。


「……!!」

 頭上に見えて来た大きな岩のアーチを潜り抜けたその先には、何と開けた広場になっている場所があった。

 見渡す限り、今しがた潜って来たアーチを背中に見て正反対の方に更に下りへと続く道がある。

 だったらそこまで一直線に走り抜けるだけだと思ったジェイヴァスだったが、その前に後ろのケルベロスはしなやかな身体を生かして思いっきりジャンプ。

 それなりの音を立てて、反対側に向かおうとしたジェイヴァスの目の前にストっと着地したのだ。

「ちいっ……!!」

 自分を飛び越えて上手く回り込まれてしまったのを見て、ジェイヴァスはどうするかを考える前に足を踏ん張ってブレーキ。そこからクイックターンで真横にジャンプし、さっきと同じ様に受け身を取る。

 瞬間、またもや自分の居た場所を炎のブレスが焼き尽くして行く。

 当たり前ではあるが炎が通った部分は焼け焦げた上に、そこから山の風に乗った物凄い熱風がジェイヴァスに襲い掛かる。


「ぐう!」

 熱さから逃れる様に、再度ジェイヴァスは横に飛んで受け身を取ってケルベロスの横に回り込もうとしたが、ケルベロスもなかなかの動きでジェイヴァスの動きについて来る。

(いや……俺が外側に居てこいつが内側に居るから、その分動く範囲がこいつの方が小さくて済むか。俺が動いてもこいつは余裕でついて来られるって訳かよ!!)

 図体が大きい分、余り動かなくてもジェイヴァスの動きに対応出来るだけの良いポジションを獲得する事に成功したケルベロスは、更に自分のペースに持ち込んで異世界の軍人を窮地に立たせようとする。

 先程からずっと吐いて来ている炎のブレスは勿論の事、野生の動物らしい特徴と言える鋭い爪が生えた前足での引っ掻き攻撃、更にはさっきのジャンプを生かしてジェイヴァスを上空から潰そうとまでして来るし、とどめには後ろに生えている短めの尻尾をブンっと上手くコントロールして振り回して来る。

 かなり戦い慣れている様子だ。


 野生の競争を勝ち抜いて来た経験が惜しみ無く生かされているその戦い方に、ジェイヴァスの限界はすぐに訪れそうだった。

(俺、ここで終わるのか……っ!?)

 この状況ではどうにも出来そうに無い。

 例えばこれが映画とかドラマの世界であれば誰かが助けてくれたり上手い具合に土砂崩れがケルベロスに直撃したりするのだろうが、これは紛れも無い現実なだけあってジェイヴァスを助けてくれる救世主の出現も天変地異も起こってくれそうに無かった。


 つまり自分でこの状況を乗り越えなければ、ジェイヴァスに待っているのは死あるのみだ。

「っ、ああっ!?」

 引っ掻き攻撃が自分の身体の横を掠める。考えるよりも身体を先に動かさなければ殺されてしまう。

 かと言って、自分でも自覚出来ている通りジェイヴァスには反撃出来る手段が無かった。

 パンチやキックなんて効きそうに無いし、関節技や投げ技も掛けられる相手では無い。

 武器だって持っていないし、あの最初に出て来た場所まで戻れるだけの体力も残っていない。

「だああっ、くそ……っ!」

 半ばヤケクソ状態でジェイヴァスはケルベロスの踏みつけから逃れ、左に見える崖に向かってダッシュ。

 飛び下りる事の出来る場所があれば飛び下りて、そのまま下に向かって一気にショートカット出来るかもしれないと踏んだ。

 そして、その行動がジェイヴァスに思わぬ展開をもたらす事になる。


 後ろからケルベロスが追い掛けて来るのを気配で察知しつつ、崖のふちギリギリまでやって来たジェイヴァスは下を覗いてみる。

 だが、下に広がるのは遠目のこの距離から見ても明らかに固そうな岩場だった。

「うあ……」

 これじゃあダメだ……ともう打つ手が無くなったジェイヴァスが後ろを振り向けば、物凄いスピードで走りつつ自分をロックオンしたケルベロスが大きな音を立てて向かって来る。

「くぅ……っ!」

 疲労と怪我でなかなか身体が動いてくれないが、最後の力を振り絞ってジェイヴァスはその突進を避けるべく再び横っ飛びからの受け身で何とかギリギリ回避した。


 そしてその横っ飛びによって突進を回避されたケルベロスの方は、ロックオンしたジェイヴァスに気を集中させすぎていたのかその巨体にブレーキをかけても止まりきれず、目の前に広がる崖下の岩場目掛けてなすすべ無く真っ逆さまに転落して行ってしまった。

「はぁ、はぁっ……はぁ……!?」

 その落っこちて行ったケルベロスと言う目の前の状況を飲み込みきれないまま、ジェイヴァスは少しだけ休憩するべく岩場に座り込むのだった。、

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