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5.女相手でも手加減無し

 恐ろしい侵入者対策のトラップを何とか乗り越え、ジェイヴァスは開いたそのドアの中へと大きく息を吐きながら進んで行く。

(……あー、やっと抜けたみたいだぜ。何でこんな訳の分かんねー場所で、俺がこんな目に逢わなきゃなんねーんだよ)

 正直もううんざりと言った表情で、40歳の身体に鞭を打ちながらジェイヴァスは足を進める。

 だが、足を進めて行く中でジェイヴァスの頭にふとした疑問が浮かび上がりそうになるが、疲れた身体と頭が疑問を寸での所で打ち消してしまった。

(あれ……確か俺、今のトラップで……)

 何か大きな違和感を覚えた筈なんだけどなぁ、と首を捻って考えながら歩くジェイヴァスだったが、そんな悩むロシア軍の軍人の前から今度は1つの足音が聞こえて来た。


「……んん?」

 その足音が聞こえて来た瞬間、ジェイヴァスは素早く立ち止まって身構える。

 自分以外の人間が居るとすれば、それはさっきの大勢の集団位しか今の時点で思い付かなかったからだ。

 そうなれば、あの時の紫色の髪をしていた男も居る可能性が高い。

 身構えると言っても、身を隠せそうな場所が無い為にそうするだけだ。

 何故なら、ジェイヴァスが辿り着いたのは正方形の広い石造りの部屋。

 自分が入って来た方向も含めて東西南北の4方向にそれぞれ通路がある。まるで迷路だ。

 そしてこんな訳の分からない場所なら、人間以外の足音の可能性も無きにしもあらずと言う所なので、ジェイヴァスは身構えつつも今更ながら軍服のあらゆるポケットを探ってみた。


 だが、その動きはどうやら間に合わなかった様だ。

 ポケットを探っている最中に、足音の正体が姿を見せたからである。

 しかし、ジェイヴァスの目の前に姿を見せたその足音の主は予想を外していた。

「……え?」

 目の前に現れたのは、自分と同じく金髪でその髪を肩辺りまで伸ばしている女の槍使いだったからだ。

 が、やはりと言うか友好的な人間では無い様で。

「あっ、貴方はさっきの!?」

「は?」

「リーダーから貴方を捕まえてって言われてるのよ! 覚悟しなさい!!」

 そう言いながら槍を突き出して来る若い金髪の女だが、前線に立つのが好きな軍人としてトレーニングを長年重ねて来たジェイヴァスはこの程度の事では動じない。

 だが、40歳と言う自分の年齢を考えると長い時間の勝負は無理そうである。


 そして、壁に背を着く形で槍をかわしたジェイヴァスが疑問を抱く光景が次の瞬間見られる事に。

「くっ!!」

 ビィン……と言う振動音を立てて、槍の先端がドスっと壁を少しえぐって突き刺さった。

(げっ!?)

 突き刺さると言う事は少なくともこの槍が本物か、あるいはこの壁がベニヤ板か何かで出来ているかだ。

 でも、この壁はさっきからずっと固さも冷たさも感じているので本物だろう。

(って事は、この槍は本物かよ!? そもそも、これはドッキリテレビの一種なのか?)

 尚も向かって来る槍を避けながらジェイヴァスは考えるが、ドッキリでここまでの危険な事はしないだろう。

 と言う事は自分はとんでもない状況になっているのだと、年々老化に向かう脳が理解し始める。


 だが、その理解を進めるにはとにかくこの危険な女を倒さなければならない。

 戦場では男も女も関係無い。

 殺すか殺されるかの世界だと言う事を、今まで色々な戦場に出て来たジェイヴァスは身を持って経験して来たのだから。

(こんな状況ではやるかやられるかだ!!)

 その考え方だけを頼りにして、まずは女が突き出して来る槍をどうにかしなければいけないのでジェイヴァスは槍の軌道をバックステップで距離を取りながら見極める。

 リーチでは圧倒的にジェイヴァスの方が不利。間合いに入る為には槍の内側に入り込まなければ意味が無い。

 ジェイヴァスが戦っている今のこの場所は広いので、逃げ回るには十分なスペースがあるのがまだ救いだった。


(一気に決めるぜ!)

 槍を振るのもエネルギーが要るし、横になぎ払うなら大振りな攻撃になりやすいので、自分の身体を回転させながらの突き攻撃がこの女の槍使いの場合は主体になるらしい。

 だったら……とジェイヴァスは左に身体を一旦振る。

(そっちね!)

 しかしそれはジェイヴァスのフェイントであり、女の槍の先端がそちらに向いたのを一瞬で判断したロシアの軍人は逆方向に身体を振り戻し、そのまま斜め前にゴロッと転がって女の両足をガッチリと掴む事に成功。


「ぬおああああっ!!」

 雄叫びを上げつつ女の身体を持ち上げたジェイヴァスは、胸当てや肩当て等の防具、それから槍の重さも含めたその女の身体の重さをものともせずに全身全霊のジャイアントスイングを繰り出す。

 ブンブンと風を切って女の身体と共にジェイヴァスは反時計回りに回転し、勢いが十分についた所で目が回らない内に女を部屋の中央に向かって投げ飛ばした。

「きゃああああっ!?」

 遠心力によって勢いがついたまま地面に叩きつけられた女は、受け身を取る事も出来ずにズザーッと地面を滑ってそのままゴロゴロと4回位後ろ向きに転がり、最終的には仰向けに倒れてしまったのだった。

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