54.頭が痛くなる
今度は金髪の男と茶髪の男が回復して立ち上がって来たが、ロシェルはまず金髪の男の攻撃を避けて腹にボディブロー2発。
更にくるりと身体を回転させて反対側から向かって来た茶髪の男にも首目掛けてパンチを入れ、更に両腕を広げて2人の腹に同時に右と左の裏拳をそれぞれ同時にヒットさせる。
「あがあ!」
「うぐっ!」
そしてロシェルはジャンプし、バック宙を繰り出しつつ両足を開脚させて2人のアゴに左と右の足をダイレクトヒットさせる。
「がっ!」
「ごっ……」
急所にダメージを食らって倒れ込んだ2人だったが、ロシェルの身体はそのまま地面……に倒れていた茶髪の男のみぞおちと股間にそれぞれ片方ずつの膝をヒットさせて着地。
「おごああああっ……ぐっ!!」
急所2つにモロに膝が入った茶髪の男はそのまま気絶し、ロシェルがふと気がつくと黒髪の女が立ち上がって来ようとしていたので先手必勝で跳び上がって、そのままきりもみ回転のキックを空中から全力で叩き落とす。
「がはっ!?」
黒髪の女も気絶し残るは金髪の男だけだが、金髪の男は素早く起き上がってロシェルに向かって来る。
「らああああ!!」
ロシェルに向かって来た金髪の男はロングスピアを振り被るがそれを避け、彼の足を持ち上げて金髪の男にロシェルは抱きつく。
すると金髪の男は思いっ切り足を振り上げる事になるので股関節が無理に曲がってしまい、かなり痛い上に金髪の男はそのままバランスを崩して倒れ込む。
「ぐああ!」
それでも痛みを堪えて金髪の男は再び立ち上がるが、ロシェルは金髪の男が完全に立ち上がる前に走り出して、そのまま彼の立ち上がる為に踏ん張っている膝を使ってジャンプし、全力で空中から肘を金髪の男の頭目掛けて落とした。
「ぐあっ……」
そんな声と共に金髪の男も気絶し、ロシェルは3人相手に何と勝利してしまったのであった。
「か、勝った……」
良い事の後には悪い事があり、悪い事の後には良い事があると言う。いわゆる運の流れと言うものが今回の手合わせでロシェルにやって来た様である。
「何だ、やれば出来るじゃないか」
感心した声で、3人を倒したロシェルを見た審判のクリスピンはそう口に出す。
何とかではあるが、この世界に来て初めて「勝ち」のリザルトで記念すべき勝負をロシェルは終える事が出来た。
3人相手にこれだけの立ち回りをして、そこから勝てたのは正直な話ロシェルにとっては奇跡である。
それでも勝ちは勝ち。
偶然でも何でも、勝ってしまえばリザルトで勝ちだと言う判定はよっぽどの事が無い限り覆る事は無い。
3人の騎士団員は気絶しているから、この時点でクリスピンからロシェルに正式に宣言が下された。
「勝者、ロシェル・バルトダイン!」
運が向く切っ掛けになったであろう手合わせも終了し、2人はその町の酒場で再び情報収集をするもののここでは特に何も情報は得られなかった。
まだ完全にロシェルの流れは良い方向に向いていない様だが、まぁこんな事もあるだろうと思って気にせずに、その夜はその町の騎士団の詰め所のベッドに潜り込んだ。
だが、その夜のロシェルはなかなか寝付けなかった。
この世界にやって来てから1度も勝つ事が出来ていなかった自分が、ここに来てようやく勝てたと言うリザルトが出来たと言う事。
3人をいっぺんに相手にして勝てたと言う大きな達成感。
そして、未だに心の何処かでそれを信じられない自分の心への不安がぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまい、ベッドに潜り込んだは良いものの結局朝方まで寝付ける事が出来ずに、何時までもロシェルの頭は冴えていた。
「ふぁ~あ……」
「何だ、寝不足か?」
「ええ、随分興奮しちゃってなかなか寝付けませんでしたよ」
目の下に若干のクマを作った状態だが、それでもまだ大丈夫だと言ってロシェルは朝食を済ませた後に身支度を整えて3つ目の町へと向かう為に馬車に乗り込んだ。
そして、その馬車の中で1つ気になっていた事をロシェルはクリスピンに聞いてみる。
「そう言えば……レフォールって言う町の西側で見つかった遺跡の話なんですけどね」
「ああ」
「団長、確か人員を整えてから行くって前に言ってましたけど……それって大体何人位で考えてるんですか? 余り大勢で行くと動きにくく無いですかね?」
ロシェルの質問にクリスピンは腕を組む。
「んー……遺跡の広さが分からない事には何とも言えないが。レフォールの町はペルドロッグよりも広いとは言え、連れて行ける騎士団員の数だって限りがあるだろうからな。今の段階では多くても10人位と言った所か」
「10人か……」
「それがどうかしたのか?」
何故そんな事を聞くのだろう、とクリスピンはロシェルに問い掛けてみるが、ロシェルはシンプルに返答する。
「こう言う調査部隊は大体どれ位で行くのか気になるんですよ。俺は前線で戦う方が性に合っている人間だから、どうしてもこう言う調査とかの仕事には疎くて。兵法とかを考えるのも余り得意じゃないんで、そう言う勉強には頭が痛くなるんですよねー」
あっけらかんと言い放つロシェルに、クリスピンは心の中で一言呟いた。
(お前のその考え方の方が、私は頭が痛くなるがな……)