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45.国外追放

「申し訳無いが、これ以上ここに居るのはちょっと……」

 気まずそうな口調と顔色で、執務室までやって来たロシェルとクリスピンに大公がそう告げる。

「そ、それってつまり……国外追放であると?」

 ロシェルの嫌な予感が的中したと悟った様な疑問に、大公は小さく首を縦に振った。

「1つ訂正させて貰うと国外では無い。このペルドロッグから出て行って欲しいとの事だ。爆発事件の事や君の町の中でのあの不審者達からの逃走劇の出来事、それとこの前の書庫への潜入。これ等を考えて、君をもうペルドロッグに置いてはおけないと言う事になったのだ」


 その宣言に対して今度はクリスピンが口を開く。

「し、しかし大公。まだこの男の爆発事件の容疑は晴れておりませんし、このペルドロッグにはこの前のやからの様に彼の命を狙っているかも分からない人間がまだ居るかもしれません。この城で今まで通りの見張りをつけた上で監視させながら雑用をさせた方が宜しいのでは無いですか?」

「うむ……確かに団長の言う事も一理ある。それは私も考えたしその貴族にそう進言もした」

 そこで一旦言葉を切って、大公は手を組んで両肘を執務机の上に付き、あごをその手の上に乗せてセリフを続ける。

「だが、その貴族はもうすでにこれだけの署名を集めてしまった様でな」

 そう言いながら、大公は机の端に乗っている紙の束をアゴでクイッと指し示した。

「え、これって全部俺の処遇に関する署名って事ですか!?」

「そうだ」

「少し拝見致します」


 クリスピンもにわかに信じがたいと言う表情で、その署名が載っていると言う書類の束を手に取ってペラペラとめくって行く。

「本当だ、これは……」

「うっそだろ……おいマジで!?」

 1枚に書いてある署名の数はおよそ50人分。その紙の束を数えてみた所、およそ2000人分にもなるのだと言う。

 呆然とするクリスピンと頭を抱えるロシェルだが、ここまで多くの署名が集まってしまってはこの城にこれ以上居られなくなるだろうと言う心の声は一致する。

「これはもう、頭下げてどうこうって問題じゃ無い……ですよね?」

「そう言う事になる。やはり大貴族ともなればこれだけの人脈があると言う事になるから、ここまで声が大きくなっているとなれば……すまない。勿論君が城下町で色々な人間の手伝いをしていたと言う事は私も団長から聞いているしその記録も残っている。だが、幾ら私でも出来る事と出来ない事があるのだ。それを分かってくれ」


 絶対に事態が良い方向に転がると言う保証は無い、と以前大公が言っていたその言葉が現実になった。

 ロシェルにはもはや、この城に留まり続けられるだけのバックボーンが無くなってしまったのだ。

「俺はもう、この城からは1日でも1秒でも早く出て行った方が良いって事ですね」

「そうだな。まずは南のレフォールの町に行ってみると良いだろう。君が行きたがっていたと言うのをあの傭兵のコラードから聞いているからな。これが南の町の通行証だ。色々と城の作業や騎士団への依頼の手伝いをしてくれたから、旅の資金も少しだけ用意した。私から君に出来るのはここまでだ。後は自分の力だけでどうにかして、君が行きたがっていたエスヴァリーク帝国まで行くのだな」

「お金まで……どうもありがとうございます。そして今までお世話になりました」

「こちらこそ。異世界人と出会う事が出来て貴重な体験をさせて貰って感謝する」


 ロシェルは頭を下げるが、今度は大公がクリスピンの方に向き直って新たな任務の内容を告げる。

「それとクリスピン団長」

「はっ、何でございましょう?」

「この異世界からの来訪者を、国を出るまで監視をして貰いたい」

「国を出るまでですか? ペルドロッグから出るまででは無くて?」

 この都から出て行くまで監視をするなら言うのなら分かるけど、国を出るまでと言うのは非常に長い時間城を留守にする事になるのでは? とクリスピンが大公に問うと、大公はまたもやばつの悪そうな顔をする。

「今まで団長がこの者のそばにいた時間が長いのは、今や城中の者が知っている事だからな。その貴族の耳にも当然入っている。そしてその貴族が言うには、この異世界からの来訪者の世話を団長が監視と言う名目でしていたと言う事で、国を出るまでしっかりと見張るのが責任では無いのかと言う事だ」


「し、しかし私も城での仕事がありますし……」

 クリスピンはすぐにOKの返事を出来なかったが、大公はこっちの任務を優先させて欲しいと頼んで来た。

「その点に関しては問題無い。新兵器の開発はこちらで進めて行けるし、当分戦も無いからな。視察がてら国を見て回るのも悪く無いとは思うが」

 大公の穏やかな、しかし断る事が出来ない雰囲気にクリスピンはうっ……と言葉を詰まらせる。

「は……はっ、かしこまりました。責任を持って私がこの男をルリスウェン公国外まで送り届けます」

 こうして、このヴァニール城からロシェルは荷物を纏めて出て行く事が決定したのであった。

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