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43.いきなりの退去要請

 その沈黙を先に破ったのはクリスピンの方だった。

「……気持ちは分からんでも無い。しかし私だってこの城を守る義務がある。騎士団長と言う立場なら尚更だ。城を始めとした国防の義務を軽んじる訳には行かない。たとえそれが、お前の様な城の中に居る人間相手でもだ」

 どうやら許可は貰えそうに無い。ここまで来てこれか……と思いながらロシェルは溜め息をついた。

「そうですか……残念です。あーあ、もう少しで何かヒントが掴める気がしたんだけど、人生そうそう上手くはいかねーもんだなぁ」

 これでリスクを犯した自分の潜入ミッションも全部がパーになってしまった。


 そしてそれに追い打ちをかけるかの様にクリスピンの口から説明が始まる。

「1つだけ、ここにある書物の事を教えてやる」

「何です?」

「ここにある書物はその地球とやらの事についてのヒントは載っていない」

「へ?」

 何でそんな事が分かるんだ、と言うロシェルの視線にクリスピンはロングソードを鞘に収めながら続ける。

「前に少し話した気がするが、ここにあるものはお前が興味を持っているであろう兵器の事についての書物だからだ。兵器の構造を記した説明書や各部の部品についての仕様書と言った方が良いか。そう言う本しかこの書庫には入れられていないし、そもそもこの書庫を造る様に提案されたのは大公閣下だ。そして私は前の代の騎士団長からこの書庫の話を聞いているからな」

「え、ええー……」

 だったら結局無駄足だったのかよ、とロシェルはがっくりと肩を落とした。


 しかし、そんな肩を落とすロシェルと説明を終えたクリスピンだけが居るこの地下の書庫に、新たな来訪者が階段を下りてやって来た。

「……!」

 咄嗟にロングソードの柄に手をかけ直すクリスピンと身構えるロシェルの元に姿を現わしたのは、今しがたクリスピンが話していたこの書庫を造る様に提案した人物その人だった。

「何処にも居ないから何処に行ったのかと思えば、まさかこんな場所に居たとはな」

「た、大公閣下!」

「あ、お久しぶりです……」

 そう言えばこの人の姿を見るのは久しぶりだなー、とロシェルは思いながら頭を下げる。

 クリスピンはクリスピンで柄から手を離し、自分を探して主君にここまで足を運ばせてしまったのかと若干あたふたする。


 そんな2人の様子を気にかける事無く、熱血漢な大公の口からこの後思いも寄らない発言が飛び出すのであった。

「い、いかがなされたのです?」

 クリスピンがまだあたふたしながらも問い掛けると、大公は周りを1度ぐるりと見渡してから口を再度開く。

「ふむ……丁度ここに居るのは私達3人だけか。ならば手間が省けた。2人には少し込み入った話があるから探していたのだよ」

「俺達にですか?」

 大公直々に話があると言う事はよっぽどの話なのだろうか?

 一体何を話すんだろうかと不安になるロシェルとクリスピンに対して、大公は衝撃の事実を告げにやって来たのだった。


「結論からはっきりと言えば、地球からやって来た君をこの城から追い出して欲しいと言う事だ」

「はいぃ!?」

「なっ……」

 自分でも訳が分からない程の変な声が出てしまったロシェルと、大公のその発言に言葉を失って目を見開くクリスピン。

「えっ、それって一体どう言う事ですか!?」

「そうです大公。私はその様はお話は伺っておりませんよ?」

 ロシェルもクリスピンも、セリフは違ってもビックリしているのは同じである。


 そんな2人のリアクションに対して、大公も苦虫を噛み潰した様な顔をしながら今の様な事実を告げに来た理由を述べ始めた。

「……貴族達からの要請があった。部外者が城の中をうろうろしているのはいかがなものか、とな」

「えっ!? で、でもそれってちゃんと通達が行っている筈じゃあ……」

「勿論だ」

 ロシェルのセリフの最後に若干被せる様にして、大公がYESの答えを返す。

「しかしだ。今回の貴族はそうも行かない。国内でも有数の大貴族な上に、長年我が国に貢献して来てくれた一族でもある。それに加えてその貴族は、君が遭遇した爆発事件のずっと前からの長い旅行をしていた人物で、つい3日前に旅行から帰って来たばかりでな。君が城の中に滞在している事や、地球と言う異世界からの来訪者と言う事を話したら一気にそうした文句が出て来てしまった」


 その大公の話に、今度は何か思い当たる節があるのであろうクリスピンが口を開いた。

「もしかして、その貴族の方以外にも不信感を募らせていた貴族の方がいらっしゃると?」

 クリスピンの問い掛けに大公は首をゆっくりと縦に振る。

「そうだ。君も騎士団長であるが、その前にその貴族と同じ位の国内でも有数の大貴族の人間でもあるから、私の言いたい事は分かるだろう。何せ人脈が広い物で、地球人の君をこの城から追い出せるだけの署名を集めたりする事は造作も無い事なのだ」

 この大公の発言に対して、内心でロシェルは凄く複雑な気持ちになる。

(そ、それってこの城から出て情報収集をする事が出来るって事か? いやでも待て待て、国外へ追放されちまうって事も考えられるな。地球に帰る為のヒントもさっぱり見つけて無いし……って、俺はじゃあどうなっちまうんだ!?)

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