Ep11 洞窟でニートしてたおっさんが凄かった時、俺はどう反応すればいいのだろうか?
ーあ、ありのまま今起こった出来事を話すぜ、俺は洞窟で会った爺さんに言われた通り龍を撃退し、外へ出たんだ。ー
ーそしたらこの爺さんがかなりすげえ奴だったらしい。
な、何を言っているか(ryー
ーいやほんと何もんだこのおっさんー
「ん?お、船長!戻ってたか。」
そう言いながらエドルに駆け寄ったのはジョゼフだった。
「あと5分経っても取らなかったらあの騎士さんの元へ行こうと思ってたんだがな?」
「やめて差し上げろ。仮にもアルスは騎士長だぞ?」
「ハハハ!まあ結果的に戻ったからいいじゃねえか!」
そう言いながらジョゼフはエドルの背中を叩く。
「グハッ!」
するとエドルは急に吐血し、片膝をついた。
「船長ッ!?」
ーくッ......い......いまので......肋が......息が.....出来ない......ー
「む?おお、其奴はさっき単騎で岩石龍を破りおった。」
「なにッ!?船長、それは本当かッ!?」
ジョゼフの問いにエドルは返せないでいる。
彼は肋骨が肺に突き刺さり、呼吸も困難な状態にまで陥っていた。
ーくッ.....まずい.....これ.....死ねる.....まさか.....あの一撃で.....ー
「その結果魔力が枯渇して治癒魔法が使えん状況にある。お主、治癒魔法は使えるな?」
「そ、そうだったのか......って言ってる場合じゃねえ。おい!皆手伝ってくれ!此奴に治癒魔法を!」
ジョゼフがそう言うと、酒を置いて冒険者が次々と集まってくる。
そして治癒魔法を一斉にかけた。
「ぶはッ!ハァ、ハァ、ハァ......し.....死ぬかと思った.....」
「皆、ありがとう。」
「どうってことねえさ。」
「困った時はお互い様、ってね。」
皆口々にそう言っている。
反黒髪派は今でも根強く残っているが、300万年も前の事を根に持つ者はあまりいない。
特に冒険者管理協会は黒髪差別の廃止を目指している為、黒髪だからといって助けてもらえない、などと言うことはない。
「すまないな......皆。」
エドルの言葉に皆暖かく返す。
「すまん船長、ああとは知らずに。」
「いや、いいさ。魔力を無駄遣いしすぎたのは俺の方だ。」
「しかし.....」
「もういい。で?爺さん、なんでそんなに楽しいそうなんだ?」
「うむうむ。一昔前は黒髪だからという理由で街にすら入れなかったが......今ではここまで改善されとるとはのぉ。」
「.....そういうものか.....?」
「お、お待たせいたしました。此方へ。」
奥から出てきた受付嬢は、レオ・ヴィナスと呼ばれたドワーフに向かいそう言う。
「ふむ.....お主も来い。」
「え?俺?」
困惑した様子でエドルは自分を指す。
「お主以外に誰がおる?いいから来るんじゃ。あ、あと主も来い。」
「ん?俺か?」
言われるがままエドルとジョゼフはレオ・ヴィナスの後についていった。
◇ ◇ ◇
「うーむ、それにしても懐かしいのぉ。何年ぶりじゃ!」
「じ、じいさん。」
「じいさッ!?」
受付嬢が驚いた様子でエドルを見る。
「ん?なんじゃ?」
エドルは受付嬢の視線を無視し、続けた。
「あんたは一体なにもんなんだ?」
「ふむ、昔ちょっとな。まあすぐに分かる。来なさい。」
「・・・」
「(おい、船長。)」
ジョゼフは小声でエドルに話しかける。
「(この爺さん、なにもんだ?)」
「(知らん、レオ・ヴィナスと言うらしいが....お前も知らないのか?)」
「(ああ、聞いたこともない。)」
ー........ジョゼフが聞いた事ないとは......そんなに凄い奴なのかこの爺さんは?ー
暫く歩いて行くと、受付嬢が「こちらのお部屋です」と言い、扉を開けた。
エドルが部屋に入る時、受付嬢に睨まれたがエドルは気付かないふりをしつつその扉をくぐった。
部屋は若干広めで、まるで社長室を連想させるような内装だ。
ーそういえば、この部屋に『接客室』ってプレートが掛かってたな....なるほど。ー
「やあ、待っておったそレオ。」
そう言ったのはソファに座る一人の老人だった。
レオに負けずとも劣らない長さの顎髭を蓄え、杖を持っている。
「エツラ!生きておったか!」
「ハハハ!ワシはお前より長く生きると誓っとるんじゃよ!」
ーなんだ?この二人は知り合いなのか?ー
「あぁ....そn__」
言いかけたところでジョゼフがエドルの頭を押さえ強制的にお辞儀をさせる。
「な、なにする!」
「(なにするじゃねえ!あんたの目の前にいる方は、この支部のギルドマスター
だ!)」
小声で怒鳴られ、エドルは「あぁ.....」と小さく呟いた。
「で?其方の方々は?」
「うむ、ワシをあの洞窟から救出した勇者じゃよ。あぁ、助けたのは金髪の方じゃなくてあの黒髪の方だ。」
「たしかあの洞窟に住み着いていたのは......」
「岩石龍じゃの。」
「ほぅ.....」
そう言い、ギルドマスターエツラは席を立ち上がる。
そして眼鏡をあげ、エドルの体の隅々を見た。
ージジイに体を舐め回す様に見られるとか.....どんな拷問だよおい。
「お主が.....岩石龍をたった一人で.....レオ、彼は討伐したのか?撃退か?」
「まあ撃退じゃな。彼奴を討伐など、ロレインでも難しいかもしれんの!ハハハ!」
「そうじゃな、まああり得ん話じゃ。それにしても.....岩石龍を撃退とは言え単騎で討つとは......お主、名は?」
「エ、エドル。エドル・アハト。」
ーちょ、爺さん近い近い。顔近い。ー
「ふむ.....で、其方は?」
「む?」
ギルドマスターが指差す方向を見ると、そこにはジョゼフがいた。
「え?俺?」と、自分を指差している。
「ああ、其奴は此奴の連れじゃ。」
そう言いながらレオはエドルの肩をポンと叩く。
「ふむ.....お主ら....海賊か?」
「!」
その一言でエドル達は剣に手をかけ、ジョゼフは素早く入り口に移動した。
「まあまあそう怖い顔せんでもよい。別にギルドの規則に海賊が冒険者になってはならない、など明記されておらんじゃろ?」
「・・・」
そう言うと、二人とも剣から手を離した。
「その.....彼は一体何者なんです?マスターエツラ。」
「ハハハ、そんなかしこまらんくてもよい。お主はお主。岩石龍を単騎で撃退したんじゃ。もっとロレインの様に胸をはりなさい。」
「・・・」
ーつかさっきから言ってるロレインって誰ぞ。ー
「で、レオの事じゃな?まあ、此奴は自分で自分を語りたがらない性じゃからのぉ。」
マスターエツラはコホン、と咳払いをして続けた。
「レオ・ヴィナス。T.U.1844に人類史上初めて非魔法機構を確立させた男じゃ。」
ーT.U.___これは、この世界の年号だ。T.U.というのはウズリネル・タグラスという意味だ。この世界の年号は全て全種族中最長寿であるエルフ種の王の名で取られる。彼等の年齢が、この世界の年号となる。因みに今はT.U.1972。つまり現エルフ国王は1972歳ってことになる。まあエルフの平均寿命が2500年前後だから、まだまだ長生きするだろう。ー
ーで、この爺さんはさらりと半端ない事をしでかしている。非魔法機構。これつまり科学だ。この世界で科学を確立させようなんて馬鹿はまずいない。つまりこいつは......ー
「凄まじい天才、と。」
「そういうことじゃ。此奴の本を読んだことがあるか?」
「ん?____いや、恐らく無い....」
「まあそうじゃろうな。じゃが、知らぬ間に読んでおるじゃろう。此奴は著名に実名を使わんからのぉ。因みに此奴のペンネームはリゼル・イェーガーじゃ。」
「リゼル・イェーガー!?」
「ん?知ってるのか?船長。」
「お前、リゼルをしらんのか.....?」
ーリゼル・イェーガー。現世で言うアイザック・ニュートンだ。彼は一言で言うとリアルチートだ。何せこの世界で物理学を提唱、たった一人で全てを確立させた人物だ。まあこの世界では魔法以外の事は全く関心を寄せられない為、あまり読んでいる人間はいない。俺だって最初は驚いた。本の名前が『物理学』なのだから。ー
「まさか.....あの本を書いたのがあんただったとは.....」
「うむ、それから此奴は洞窟に篭り魔法を使わない遠距離武器の開発を行った。30年以上も前の事じゃ。___で?洞窟から出たという事は出来たという事じゃろう?」
「うむ。」
そう言い、レオは銃を取り出す。
「ほぅ......これが......名前はなんというんじゃ?」
「銃、じゃ。命名者は此奴じゃ。」
「ほぅ、主が決めたのか.....で?どうやって扱う?」
「あの壺に向けてみろ。」
そう言われ、マスターエツラは銃中心部分を持って弓の様に構える。
「違う違う、そうじゃない。」
そう言いながら正常な持ち方に直す。
「思いっきり力を入れるんじゃぞ?そうじゃな.....大剣を持っとる定でゆけ。」
ドンッ
爆音と共に弾丸が発射され、その弾は壺に見事命中、バラバラに砕いた。
「ほぉ......こりゃあすごいのぅ。」
「(おい船長。)」
ジョゼフが小声でエドルに語りかける。
「(なんだ?)」
「(ありゃなんだ?凄え音だな。しかも壺が割れたぞ)」
「(大砲を超ちっさくした物と思え。)」
「(あぁ、なるほど。)」
ー余談だが大砲を設計したのも彼だ。つまりあの銃は、彼一人で基礎機構から仕上げた事になる。半端ないな。ー
「おぉ、そうそう約束なったな。」
そう言いながらレオはエドルに近寄る。
「これが約束の物じゃ。」
そう言い、ピストル2挺渡す。
「2挺も?」
「まあ此奴等はまだ試作型での、弾が一発しか入っとらんのじゃ。まあ二つほど機構は頭の中にあるんじゃがな。じゃが、まだない。しかし一発じゃ不便じゃろう?音が出る分ナイフの方が有利じゃ。そういう事じゃよ。」
「.......感謝する。」
「それはそうとエツラ、此奴に褒美を。」
「む?そうじゃな......実力に見合った階級と報酬金20万zやろう。」
「「20万ッ!?」」
ジョゼフとエドルの声が重なる。
「まあまあ、後で面倒な事は済ませておく。じゃが、今は古き友との会話を楽しみたい。また明日、ギルドを訪れなさい。そのときには手続きも済んでる頃じゃろう。」
「あ、ありがとう......」
「なあに、礼には及ばん。逆に礼を言うのはこっちの方じゃ。ワシの友人を救ってくれて、ありがとう。」
「・・・」
ーなんで感謝されてんだ?俺。ただ洞窟から抜け出せればいいって思ってただけなんだがな......まあいい。思わぬ収穫だったがあるに越した事はない。ー
「では。」
「ああ、そうそう。ワシはずっとギルドに居るから、弾が欲しいときは何時でも訪れなさい。」
レオの言葉にエドルは頷き、そのまま接客室を後にした。
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