Ep10 聞いてないんですけど
ーあの爺さん.....一体何者だったのだろうか.....___まあいい、外に出てから聞いても遅くはないだろう。ー
エドルは、ドワーフに指示された地点に向かって、暗い洞窟を進んでいた。
灯りは火属性魔法で生成した光源だけだ。
一歩歩くたびに前方は照らされ、それに反して後方は暗闇が深くなって行く。
同じ景色ばかりで、ここでグルグルバットでもしたら確実に方向は分からなくなるだろう。
「・・・」
歩き続ける数分、漸く広間に出た。
例の如く、肩で浮いている光源の出力が足りず、全体がわからない。
「グルルル......」
「!」
洞窟にそんな唸り声が響き渡ると、エドルは剣を抜いた。
そしてどんどん光源の出力を上げていき、照らしていく。
すると、岩の一部が見えた。
ー......この空間に巨大な岩があるのか.....?いやしかし......ー
エドルは魔力を前方にだけ放出し、懐中電灯の様にして上部を照らす。
ー......天井.....んで壁のギリギリまである.....いや、こんなものが?だがここまで奇妙な形の岩.....天井に崩落の跡もない。だとするとこいつは一体どうして出来た?ー
そんな事を考えていると、その岩の上部から幾つもの小石が転がってくる。
なにか表面に付いていたものが剥がれていくように。
「おいおい.....まさか.....?」
やがて『ソレ』は自分を覆い隠すようにしていた巨大な翼を広げ、長い眠りから覚めたかのように、巨大な咆哮をした。
「ぐッ!」
エドルはそのあまりの巨大さに思わず耳を塞ぐ。
「おいおい....竜種だなんて.....聞いてないんですけど.....?」
ー竜種にも幾つかグレードが存在する。各属性毎に名称は違うが、大きく分けて6つだ。昔は5つだったらしいが。____んで、俺の前に今立つ竜は、土竜種の岩石龍だ.....グレードは上から数えて2つ目。一番上は数百万年前からあるギルドですら、十数体程度しか確認していない。ー
ーつまり、実質こいつが最高となる。ー
「ったく.....運悪いな.....」
ー.....今ので鼓膜がやられたな.....ジンジンと痛い。ー
エドルは治癒魔法で鼓膜を再生させ、二本の剣を引き抜いた。
「行くぞ....!」
エドルは剣を構え、走り出す。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
◇ ◇ ◇
足場の悪い地面を踏みしめ、ジョゼフは森の中を歩いていた。
ー船長....大丈夫か.....?____いや、まああの人なら大丈夫だろう。ー
「.....一応、あのアルスって騎士に報告した方がいいかな....?」
いや、大丈夫だろう、と小さく呟き、ジョゼフは冒険者管理協会リドルスティール支部を目指した。
◇ ◇ ◇
カキンッ
その音と共にエドルの渾身の一撃は弾かれる。
その隙を岩石龍は逃さず、その鋭い爪でエドルを切り裂こうとする。
「くッ!」
エドルはその反動を利用してバク転でそれを回避するが、反応が少し遅れてしまい、背中を爪がかする。
それによってロジャーズのコートが少し裂けた。
「!」
着地したエドルは涙が込み上げてくる。
ーキャプテン....ー
彼の死はエドルの心の奥深くに小さく、しかし深々と傷を付けていた。
「クソ.....!」
そんなエドルなど知らず、岩石龍は無慈悲にも攻撃を続ける。
それを飛んで回避し、二撃目を空中で身体を捻ることで回避すると、着地してすぐ、その腕の関節部分に剣を突き刺した。
「あまり......」
エドルは剣を握る手に力を込める。
「人類をナメるな!!」
そのまま腕を飛び越えるようにしてそれを斬ると、腕が切断され、断面から大量の血が噴き出す。
すると岩石龍は断末魔の如き鳴き声を上げた。
「くッ...!」
その叫び声すらも洞窟の反射で数倍に跳ね上げられ、結果エドルはまた耳を抑える。
ー頭が....ガンガンする.....クッソ.....!ー
岩石龍はエドルに向かって口から岩石を放つ。
それを回避すると、その間に竜種は腕を再生させていた。
「再生魔法か.....!!」
ー再生魔法___治癒魔法の完全なる上位互換に当たり、超上級の魔術師でもない限り使えないような代物だ。土竜の王者の名は伊達じゃない、って事らしい。ー
「グルルル......」
ーなんだ......?ー
岩石龍に異変を感じ、エドルは動きを止める。
ーなんだ.....一体何をする気だ.....?ー
エドルは警戒を強める。
頭、腕、脚、尻尾.....その全てに神経を尖らせる。
しかし、それが命取りとなった。
岩石龍は腕を振り上げる。
そして、その腕を『地面に』掠めさせるようにして振り下ろした。
地面から刈り取られた小石がエドルの目に直撃する。
「グッ!」
エドルが目を押さえた隙に、岩石龍はエドルにテイルをかました。
鋼鉄の如き硬さを誇る岩石龍の尾は、エドルの脇腹に直撃する。
「ぐはッ!」
エドルはそのまま壁に叩きつけられる。
ーくッ.....肋骨が.....折れてる.....息が.....苦しい.....ー
目をこすりながら、治癒魔法をフルに肋骨へと集中させる。
そして目が見えたその刹那、岩石龍が腕を振り上げているのが見えた。
エドルは再び目を瞑り、転がってそれをかわすと、受身をとって立ち上がった。
ーまだ脇腹が痛いが.....行ける.....!ー
「ギャオォォォォォォォォォ!!!!!」
岩石龍が咆哮をするが、エドルの鼓膜は既に破れているため、衝撃のようなものしか伝わらない。
エドルはそれを利用し、咆哮中で動けないでいる岩石龍の股関節に剣を斬り込んだ。
「ギャオォォォォォォォォォ!!!!!」
咆哮は断末魔に変わり、落ちた脚から血が大量に噴き出す。
そのままバランスを崩した岩石龍は倒れた。
「こいつで最後だッ!!」
エドルはトドメの一撃を繰り出すが、それは硬い翼に阻まれた。
「チッ!」
岩石龍は天井に向かってブレスを放つ。
「グッ!」
その天井は崩落し、太陽の光が差し込んだ。
そのまま岩石龍は脚を再生させ、飛び立ってしまった。
「逃げたか......」
それを確認すると、エドルはその場に倒れこむ。
穴から差し込む太陽の光が眩しい。
ー全く......なんて奴相手にさせるんだあの爺さんは.....取り敢えず....はやくもどらないとな....ー
エドルは全身の痛みを堪えながら立ち上がり、剣を杖代わりにしながらドワーフのいる場所へと目指した。
◇ ◇ ◇
暗い洞窟を枯渇しかけている魔力で作った光源を頼りに歩いていると、前の方から灯りが見えてきた。
やがてそれは、あのドワーフの松明だとわかる。
「ふむ.....どうやら討伐....いや、撃退したようじゃな。」
「何故わかった?」
「あの音は崩落じゃ。」
「・・・」
「それにしてもお主.....只者ではあるまいな.....」
「そんなことはどうでもいいから、俺の身体を治してくれ。そろそろ魔力がヤバい。」
「そうしたいのは山々なんじゃが.....残念ながらワシの魔力がは微弱でのぉ。治癒魔法を含めた全魔法が扱えんのじゃ。」
「だったら、手当てしてくれ。どうせあるんだろ?」
「うむ。それなら出来るのぉ。それじゃ、付いてきなさい。」
「ああ、やっぱり俺が歩くのね。」
「当たり前じゃ。歩きなさい、若いんだから。」
「ハァ.....全く、なんて爺さんだ。」
エドルはドワーフの後について行った。
◇ ◇ ◇
ー随分と手馴れてるな.....やはりこう言った治療法しか出来ないからか.....?ー
自分の胴に包帯を巻きつけるドワーフを見ながら、エドルはそんなことを思う。
「そういえば若いの。お主名前は?」
「じゃあまずあんたから名乗れよ......まあいい。____エドル・アハトだ。」
「ふむ.....なるほど.....ジョンは死んだのか。」
「!?」
その言葉に、エドルは全身の鳥肌が立つ。
「知ってるのか.....キャプテンを?」
「知っているも何も、彼奴はワシの友人じゃ。」
「・・・」
「あのコート。あれはジョンのじゃろう?あんなにボロボロにして.....全く、どれだけ無茶をしたのじゃ?」
「_____爺さん、あんたの名は?」
「まあまあそんなことは良いではないか。」
「良くはない。あんたは一体誰なのかを知りたいんだ。」
「よしっ」
「グッ!」
ドワーフが治療を終えたエドルの背中を叩く。
「いってえ......」
「外に出るぞ。若いの。」
「・・・」
エドル達は洞窟の入り口に向かった。
◇ ◇ ◇
「むぅ〜太陽の光が眩しいのぉ!何年ぶりじゃ。」
外に出ると、ドワーフは背筋を伸ばしながらそういった。
エドルも手で光を遮る。
ー.....たしかに眩しいな。ー
「よぉし、行くぞ、若いの!」
「ったく.....なんでそんな無駄に元気なんだ......」
◇ ◇ ◇
「皆の者!戻ったゾォ!!」
勢いよく冒険者ギルド支部の扉を蹴開けたドワーフはそう叫ぶ。
先程まで賑やかだった酒場は一瞬で静まり帰り、皆口々に誰だあいつと言っている。
「!!!レオ・ヴィナス様!?」
突然、受付嬢がそう叫んだ。
「レオ・ヴィナス?」
ー誰だ?こいつのことか?ー
「戻られたんですか!?し、少々お待ち下さい!」
そう言い、受付嬢がは中に入っていった。
「おいじいさん.....あんたなにもんだよ.....?」
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