第2色 戦闘+意地
白い空間から徐々に視界が切り替わる...。
「危なっ!!」
視界にいきなり振り下ろされる石の塊を、反射的にトーカ(木刀)で受け流す。
木刀の棟で反らし、体を回転して威力を消し、石を持っている手に、柄の頭を避けた勢いのまま打ち付ける。
返し型旋...だったっけ...。
受け流した石の塊は、地面に土煙を上げながらえぐるようにぶつかる。
手から抜け落ちた、石の塊は、地面に突き刺さった。
その大小の石礫にぶつからないように、素早く戦域を離脱する。
反射的に動いて...本当に助かった...。
姉に子供の時に扱かれたトラウマが蘇る...。
今となっては、本当にいい思い出だ...。
体の痺れはまったくない、いつもより調子が良いくらいだ。
視界もさっきより良好で広い、いつもより動体視力が良く、周りも見える。
右手に持つトーカも、杖の代わりに使っていた時より軽い、ただの木刀のようだ...。
『...ユキ後で、シバくから...』
「しゃべれるんですかっ!?」
全然余裕はないのだが、バケモノは石をまだ抜けていない。
返し技で指を折った感覚はあった。
戦闘力は少し減るだろう...。
バックステップをしながら、間合いを更に開ける。
『しゃべれるわよ!木刀って言うな!!
でも人化は、出来ないけどね...。
心に話掛けてるから、私に対して考えるだけで大丈夫よ。
...あんた余裕ねっ!?早く逃げなさいよ!!』
『あいつの敵意が薄れていない。
後ろに周り込んで行く隙は、まだない...。
進んだら殺られる、そんな気がする。』
『ユキ、口調変わってるわよ。
まぁその方が良いけど...それは、感なの?』
『...ごめん!思考だと素が出るわ...。
そうだね、昔から感は、鋭い方かな?』
『...ユキの元々持っている恩恵なのかしら...。
とりあえず、早く逃げれる様に、努力しなさい!!』
『善処致します...』
とは、言ったものの、取り敢えず致命的な一撃を加えないと、逃げ切れない。
体には、筋肉の壁がある、素直にダメージは、難しいだろう...。
目、関節、急所にのみ...。
あれだけ怯えていた感情が嘘のようだ...。
右手には死体が3、4人...敵を取りたいのは、山々だが申し訳ない。
...中には女性の姿もある...。
クソが...。
近付いてみると、一撃でやられたのか、首や足や手が折れ曲がっている。
食われて居たのは、男性だろうか、酷い...。
全部で4人か...。
西洋の鎧や、レイピア、大剣なども、目に入る。
こんな状態でなかったら、喜んでしまいそうな、ファンタジー物だ。
特にその中に2つほど今使えそうな武器があった。
『トーカこの武器は、全部使っていいのか』
『...そうね...この中に神器は、ないわね...。
もしあっても死んでしまったら契約は、なくなるんだけど...使っても良いわよ』
『了解』
ベルトにトーカを挿して、その中でも槍と、弓を素早く手に取り、落ちた矢筒から数本取ろうとする。
微かだが呼吸音が聞こえた...。
「っ!!トーカ1人息があるぞ!!」
鎧の腹部が大破しているが、手が折れているだけで、致命的外傷は、見当たらない。
顔色は悪く弱々しいが、まだ息がある。
『ユキ!!駄目よ!!見捨てなさい!!
貴方が死んでしまっては、意味がないのよ!!
絶対に勝てないわ!!
逃げなさい!!ユキ!!』
...。
化物は、ゆっくりコチラに歩いてきている。
もうそんなに時間もない...。
見捨てる...。
...。
『...駄目だ!!』
『っ!!何が駄目なのよ!!体の麻痺が治ったって人1人を担いで逃げるのなんて無理よ!』
『...見捨てる事は出来ない。
出来ないんだ...。
女性を見捨てるぐらいなら、俺は死を選ぶ。
守らなければ、男が廃る...本当にごめん...約束なんだ...』
『何カッコイイ事言ってんのよ、絶対に勝てないって言ってるでしょっ!!』
『わかってる、わかってるけど...。
逃げるのはなしだ、トーカ協力してくれ...頼む』
力一杯トーカに、心の中で願う。
葛藤する思いを全てを...。
『っ!!あーあー!!!もう、わかったわよ!!私の主様は、頭がイってるプラス硬いです事!!恩恵とは、別に私との契約で一つだけ『固有神技』が使えるわ。
打っ付け本番だけど、だいたい1分ぐらいだけあんたの神格化が一つだけ上昇するわ。
それで必ず決めなさい!!』
『本当にありがとう、必ず乗り越えるよ!!』
もう10mも離れていない。
でも動きがトロイ奴で助かった......弓を限界まで張り...。
「トーカっ!!」
『右手の私との繋がりを意識して、心に伝わる言葉を言いなさい。
それがあんたと私の『固有神技』よ』
心に伝わる...?
右手の神紋に熱が篭る...。
意識を深く潜らせ無心になる。
...頭に浮かぶ言葉を紡ぐ。
「神技『限界突破』」
突然全身から、光が溢れ力が漲る。
衣のように纏う光を感じながら弓を射る
光を纏った矢は、光の軌道を描きながら、バケモノの右目に深く刺さった...。
「ガァーーーーーーっ!!」
当たる前に駆け出す...右側に、体制を引く回り込む様に...。
腹の底から出ているような、野性の咆哮を思わせる。
片方だけになった左目は、敵意と、殺意に溢れていた。
潰した右目側の死角に入り込むようにして、素早く動き、間を詰めていく。
バケモノは、見失ったようで、動きが止まっている。
隙だらけの右足に槍を刺す。
神伐流槍技夜凪
右側の足首、膝、足の付け根に三連撃、関節の隙間に入れ込む様に...。
刺されてから俺の存在に気付く化物。
楽に刺さる...なかなかの業物だっ!!
急なダメージで、右に振り向く化け物、もう機動力も削いだ...。
でもお前は、必ず殺す...。
一瞬で正面に回り込む、隙だからけのヘソに思いっ切り槍を、捻り込みながら刺し、捻る。
「ウガーーー!!?」
腹を刺され、前のめりに折れ曲がる体、お辞儀をするように、目線の高さを合わしてくれた...。
「トーーカっ!!」
『ふふふ...はいよっ!!切りなさい!!』
地面に大太刀を(トーカ)を刺し、居合の様に引き出し、地面から抜く反動を利用して、一閃を薙ぐ。
「神伐流大太刀技瞬」
首を一撃で切り、飛ばす...。
女に手を上げるクズは、死ね!!
首を飛ばされ、血が降る中で、胴体を蹴り槍を抜く...。
抜いた瞬間に、粉の様に崩れて砂に変わる、その中に握り拳程の大きさの赤い石があった。
『...あんた...一瞬で殺ったわね...。
ふふ、なんなのあんた...。
神格化寸前のバケモノを、瞬殺なんて...。』
『あのートーカさん!?』
『何よ!!?』
『この状態...ヤバくないすか??』
まだ光は、溢れ体を照らしている...。
なんとなく...だが...これが続く方がヤバそう...。
『あっゴメン、ゴメン、解除、解除』
光が収まり、収縮していく...。
すると...。
重っ!!!...痛ってぇーー!!
今日何度目かの痛みと、ダルさに苦虫を潰すような顔になる、恩恵を得る前に後戻りである。
『そらそうよ、とって置きなんだから、当たり前じゃないっ!』
顔は見えないが、素晴らしい笑顔でハンズアップしていた...そんな気がする。
『早くここから出ましょ!!このフロアには、アイツだけだったみたい、気配は今の所ないわね。
右の洞窟の先に出口の気配があるわ。
そこまで行くわよ!!』
息がある、女性に近付く...。
そこで、一瞬息が詰まる。
こんな美人を、見たことない...。
金色に輝く綺麗なセミロングの髪、透き通る様に白い肌...兜、鎧に隠れているが、スタイルも完璧であろう...。
女神の像...神聖な、拝んでしまう程、神々しい美しさだ。
いやいや、そんな事を考えてる暇はない...。
折れてない方の手を掴み、心の中で謝りながら背負おとする。
「ゲホッ!ゲホッ!!」
咳をすると同時に吐血していた。
『ユキ!待ちなさい!内蔵が破裂しているかもしれないわ。
この人はダンジョン攻略者だと思うから、荷物に回復アイテムがあるはずよ。
緑の小瓶を見付けなさい』
なるほど、ちょっと...失礼致します。
心の中で、謝罪をしながら、荷物を漁る。
手のひらサイズの、小さめの緑色の小瓶を見付ける。
このカバン見た目より、入ってるよな...。
『トーカこれか!?』
『エクスポーショね...少々高価だけど、丁度いいわ。
使いましょ、飲ませてあげて』
飲ませる?
...血を吐いてるのに、普通では、飲めないだろう?
抱きかかえているので、片手が使えず、口で小瓶の蓋を外し、口に含み...。
口移しで飲ませる。
『...なっ!!!?』
にっがーーーいっ!!マズ!!
良薬は口に苦しって言うけど不味すぎだろ、大丈夫かこれ!!?
だが少しだけ、顔色が良くなって来たような気がする。
さすが木刀が話したり、バケモノが出るファンタジー。
もう普通じゃないな...。
『ユキ!!あんた乙女の唇を何だと思ってるのよ』
「えーーっ!?」『飲ませろって??』
『口の中に数滴入れるだけでも効果はあるし、直接かけても良いのよ!!』
『えっ!!?マジで!!?
...後で謝るとして、役得と言う事で...。
ってお前が言うなっ!!』
『ふふふ...私は、いいのよ!私はっ!!
早く荷造りしていくわよ!!
夜になると3倍に化物が膨れあがるし、数も大体はリセットされるわ!
いきましょう!!』
荷造りをして、使えそうな物や遺品を回収していく。
中でも色違いなカードが3枚?何だこれ?
『ダンジョン攻略は、神を目指す人格者の試練なの、人として至るには、それが道の一つなのよ。
ダンジョンに入るには、ギルド契約しないといけないの、それが契約の印よ!
それも一緒に持っていきましょう。
あとさっきの魔石も、そこに落ちているカバンに入れなさい。
あと武器も回収よ!』
カードを拾い、石と武器を回収する。
なんと武器は全て、見た目より良く入る、4次元的なバックに入れた。
リュックは中に入らなかったので、リュックを前に背中に女性を担ぎ、トーカでお尻を支えて小走りですすむ。
上半身を揺らさず、上下運動をしないように小走りする。
おばーちゃんと姉貴にしごかれた日々が、本当に今日は役に立った...。
熊に遭遇した時並にピンチだったな...。
などと考えていると、疲労感と痛みが限界を向かえ出した...。
『早く走りなさい!!
後少しよ!!意識をた、も、てーーっ!!』
走り切り、出口に辿りつく。
疲労は限界だ。
意識ま朦朧としてきた。
この女性だけは、助けないと...。
目に入る光景は、見た事もない。
知らない世界だった。
「おい!アンタ大丈夫か!?」
知らない誰かの声が聞こえる...。
この人をお願いします...。
そして意識が、薄れていった。
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