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 日は徐々に傾いてはいるが、まだまだ明るい。

 だが、辺りの木々や草むらの影は午前より暗く、少々不気味さを増していた。

 二匹は狭い車内の中で、カーステレオから聞こえるニュースに耳を傾けていた。

 先ほどのガソリンスタンド付近は電波が悪かったが、しばらく走り続けているとラジオの調子もよくなり、スピーカーからは鳥獣人特有の甲高くやかましい声が鳴り響いた。

 ニュースの内容はまず世界的な事件から始まり、次に地元の些細な物になる。

 前時代と対して変わらないだろうが、前時代のニュースキャスターは途中で用を足すためにマイクを離れたり、何か物を食べながら放送はしないだろう。

 この鳥獣人はあまり職務に忠実とは言えないようだ。

 しかし、このニュースキャスターの述べる情報はどれも確かな筋から仕入れたもので、信用性が高いのは確かだ。

 一体どこからその様な情報が入ってくるかというと、やはり全国に有能な記者を送り込んでいるのと、戦線関係者にパイプを何本も持っているお陰だろう。


 「北部同盟で暗殺・・・物騒だな」


 メリスは鳥獣人がわめきたてるニュースの一つに興味がいったらしい。

 内容は北部で活動している獣人と人類の共同戦線内で発生した内紛についてだった。

 『獣人と人類の平和共存』をスローガンとし、獣人と人類で構成された獣人戦線は聞こえの良いスローガンがある割には、内紛が絶えない組織であった。

 勢力としては獣人のみで構成される戦線と、人類のみで構成される戦線の二つの間に割って入れるほどの勢力はあるが、実情としてはいつ崩壊してもおかしくないような問題ばかりを抱えている。

 獣人間での種族的問題から、宗教的問題に数えれば暇がない。

 獣人のみで構成される戦線や、人類のみの戦線でもそれなりの内紛はあるが、獣人戦線ほど深刻なものではない。

 現在は外部に敵を作ることによって均衡を保ってはいるが、勢力が崩れれば獣人戦線が自壊するのは目に見えていた。


 「あそこはろくでなしの集まりだからね、無理もないさ」


 バムはハンドルを握り、正面を見据えたまま返した。

 だが、悲しいことにバム達が取引する相手はその問題が多々ある獣人戦線なのであった。

 連中は武器や物資を取引してくれるのなら、相手が獣人であろうと人間であろうと関係無しに取引してくれるし、その物資の出処を聞くほど野暮な事もしない。

 だが、人類戦線となると連中は獣人を見れば撃ってくるし、獣人のみの組織と取引するのは中々手間が掛かり、もしも、獣人戦線と取引していたことがわかれば即座に発砲してくるのだ。

 

 「おい、またこいつ席を立ちやがったぞ」


 メリスが不機嫌そうにカーステレオを少し小突いた。

 どうやらまたニュースキャスターが席を立ったらしい、スピーカーからは何も聞こえてこない。


 「トイレかな?」

 「何度目だよ」

 「きっと下痢なのさ」

 「せめてCMでも流せよ、CMをよぉ」


 メリスはとても不満そうにしている。

 CMって言っても一体何を流せばいいのだろうか、以前別の番組でどっかのトレーダーが宣伝していたことがあったが、その宣伝は客ではなく野盗を呼び寄せてしまい、皆殺しにあったのをバムはふと思い出した。

 前に山羊面が自分らもやってみるかなどと呟いていたが、彼の場合は客の懐ではなく、野盗共の装備や懐の方に興味がいったのだろう。

 だが、バム達は戦闘狂というわけではないので、さすがに嫌だと断ったのを覚えている。

 何故、自ら血まみれの戦闘を呼び込まなければいけないのか、皮肉だときっと山羊面や同業者達は笑うだろうが、バムとしては静かに暮らしたいのが本望だった。

 どこか小さな田舎で、小さな畑を営み、小さな嫁さんを持って小さく暮らしたい。

 嫁さんまで小さくする必要があるのかとメリスに以前話したときは笑ったが、大きい獣人ではきっと自分のような小心者は尻にひかれてしまうだろう。

 だが、亭主関白を気取りたいわけでもない。

 とにかくバムは落ち着いて静かに暮らしたいのだ。


 しばらくするとやっとニュースキャスターが少し慌てた調子で戻ってきた。

 だが、マイクに向かって何かを喋ろうとした途端、番組の尺が終わり、別の番組に変わってしまった。

 次の番組は天気予報だった。

 先ほどの鳥獣人よりは真面目な方で、席を立つことはなかったが、マイクの調節が悪いのか何かはよくわからないが鼻息うるさかった。


 「頭が痛くなる。消すぞ」


 苛立たせるニュースの次は五月蝿い天気予報にメリスは辟易して、カーステレオの電源を切った。

 バムとしてはせめて何か別の放送を聞きたかったが、この地域で他局の放送が聞けるとは思えなかった。


 それから陽は傾く速度を上げた。

 なぜだか知らないが、午前と打って変わって午後はどこか憂鬱な感じがする。

 小さい時からそう思っていたが、今でもそうだ。

 そんな憂鬱な気分になりかけていたせいかもしれない。

 妙に変なものが目に付いたのは。


 「なぁメリス」


 バムは横でふて寝を始めていた相棒に話しかけた。

 相棒は不機嫌そうに身を起こすと、バムを見た。

 バムはメリスに声をかけたというのに、目はこちらを見ずに正面をただぼんやりと見つめている。

 運転している際なら別段珍しくないことなのだが、今は車が止まっているのだ。


 「どうしたんだよ?」

 「いや、あれ」


 バムはただぼんやりと窓を指差した。

 その指差した方向へ目をやると、草むらの向こうに森が広がっていた。

ここら辺では見飽きたと言ってもいい風景だ。


 「森がどうかしたのか?それとも急に野生が恋しくなったか?いいぜ、その代わりズボンは置いていけよ。野生の猿にズボンはいらねぇよな。」

 「よせよ。よく見ろって、ほらあの木陰の奥だよ」


 メリスの質の悪い冗談をかわしながら、バムは指差した場所を説明した。

 バムはいまいちその場所がわからなかったが、しばらく眺めていると、確かにバムの言うとおり木陰の奥に車が走っていたらきっと見逃したであろう、何か門のようなものが見えた。


 「あれ、なんだろうな」

 

 ここからではよく見えないが、門の上に何か看板のような物が付いているのが見えた。

 普段ならきっと面倒臭い探索などはしなかっただろう。

 だが、先ほどの苛立ちと不快な事を忘れるためには、その森の奥にある施設への探索する必要があるとメリスは思ったのだ。


 「前時代の遺物だな」


 メリスはドアを開け、散弾銃を背中に背負った。

 バムもそれに倣いエンジンを切り、ドアを開けた。

 今回はリュックを背負わずに、短機関銃を携え、拳銃をズボンのポケットに押し込んだ。

 物資はきっとワゴンにはもう詰め込めないだろう。

 これは探索であり、暇つぶしだ。

 だが、それで命を落とすことも多々あるのだが、そんなこと退屈を持て余しかけていた二匹には全く関係なかった。


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