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 発砲音の響き渡るガソリンスタンドの裏口付近の草むらで、メリスは散弾銃を握り締めタイミングを図っていた。

 目の前にある裏口のドアを蹴破り突入することは容易いが、何事にもタイミングというものがある。

 例えば今、無鉄砲に裏口から内部へ飛び込んだとして、待ち構えているものはなんだろうか、勿論、発砲者の携えた銃口だ。

 鳴り響いている銃声はバムの拡声器を狙ったものか、それともバムがヘマをして、バム自身が撃たれているのかメリスには知る由もないが、どちらにしても今、突入するのは控えたい。

 聞こえる発砲音は機関銃の騒がしい発砲音のみで、これではガソリンスタンド内にいる人数が把握できない。

 迂闊に突入すれば、まだ何人か控えているかもしれない。

 せめてもう少し、バムが生きているとするならば火点に威嚇射撃を加え、発砲者の注意を引きつけてもらいたかった。

 いつもならその手はずなのだが、しばらくしてもバムの短機関銃特有の発砲音が聞こえないとなると、くたばってしまったのかもしれないと、メリスは冷静に考えた。

 もし、今バムがヘマをして発砲者の銃弾に倒れたとするなら、メリスはこのまま草むらを這って車まで戻り、一目散に逃走を図る。

 


 バムは木陰から火点の動向をしばらく眺めていたが、そろそろ普段の手筈通りに威嚇射撃を加えなければいけないことに気付き、頭の中で考えていた火点に備えられた機関銃の価値を算段するのをやめ、腰から素早く短機関銃を抜き、静かに火点へと向けて狙いを定めた。

 しかし、いくら狙いを定めたとしても、短機関銃というものは大量に弾薬をばらまければそれでいいような代物で、まず火点の射手に命中させることはできないだろう。

 あくまでこちらに注意が向けさえすればいい。

 引き金を引くと短機関銃は銃口から火を吹きながら、気性の荒い馬のようにバムの手の中で暴れだす、放った弾は火点の窓辺に数発命中したらしく、けたたましい音を立て壁から粉塵が舞い、一瞬だが発砲者は窓から頭を引っ込めたらしく火点の攻撃が止んだ。

 だが、すぐに火点の射手はバムが発砲した方向へ目掛けて射撃を加えてきた。

 バムの正確な位置は掴めていないようだが、バムのすぐ近くで土煙が舞い、耳元を弾丸が掠める音がする。

 鋭く耳元を掠める音は自分に弾丸が向かっていない証拠だ。

 バムは素早くその場に身を伏せ、ゆっくりと遮蔽を取れる場所まで匍匐のまま後退する。

 後はメリスの仕事だった。


 裏口で身を隠しているメリスに、バムの短機関銃特有の発砲音が耳に入った。

 あの音が聞こえるということは生きているのだろうが、聞こえてからすぐに火点の機関銃の音にかき消された、もしかしたら死んだかもしれないが、一応手筈通りだ。

 火点からの射撃はバムへと完全に集中している。

 メリスは草むらの中からゆっくりと体を起こし、一度小さく深呼吸をして、力強く体を前に突き出し、裏口のドアへ一歩ずつ慎重に近づいた。

 ドアのすぐ横まで来ると、ドアノブに手をかけ内部の発砲者に気付かれないようにそっとドアノブを捻る。

 ドアノブは軽く捻ることができるので、鍵は掛かっていないらしいが、開けたとたんにメリスを銃口が待ち構えているかもしれない。

 贅沢を言えば手榴弾の一つでも中へ投げ込んでから突入したいが、生憎その様な高価な代物は持ち合わせていない。

 頼れるのは今、手に携えた銃身にところどころ傷と錆が見える、メリスとそっくりな黒く荒んでいる散弾銃一丁のみだ。


 メリスは裏口のドアを強く蹴って中へ飛び込んだ。

 室内は暗いが、目の前に見える窓から差し込む光と、その窓に張り付くように設置された機関銃の銃口から放たれる発火炎が一瞬辺りを照らし、その光に射手が照らされる。

 メリスは躊躇なく射手に散弾銃を向けて、引き金を引いた。

 轟音が室内に響き渡り、射手がその場に崩れ落ちる。

 メリスはすかさず、散弾銃の先台を前後させる。

 それによって排莢と装填が行われた散弾銃を構え、部屋の奥へ入り込む。

 メリスは一瞬だけ崩れ落ちた射手を見た。

 射手は前時代の栄光である人の男であった。

 年老いているらしく、顔には苦痛のせいだけではない皺が多く刻まれ、髪には白髪を蓄えている。

 一体いつから着ているのかは知らないが、薄汚れた迷彩服を着込み、その迷彩服は射撃をモロに受けて、赤い穴だらけとなった。

 その射手が倒れた横にまだ部屋がある。

突入したからには全ての部屋を回って確認しなければならない。


 まだ発砲者の仲間がきっといるだろう、雨風凌げる施設に一人だけとは贅沢すぎる。

きっと銃声を聞きつけ警戒しているだろう、次は今のように不意を打って射撃を加えることは難しい。

だが、メリスは怖気付くわけでもなく、体を戦闘の際にアドレナリンが引き起こす異常な興奮に身を任せ、歯を剥き出し、顔には狂気にも似た笑顔を貼り付け、隣の部屋へメリスは飛び込んだ。


 隣の部屋は窓から陽が差し込み明るく、床にゴミが散乱している点は変わらなかったが、機関銃が設置されている部屋と比べればまだ生活感がある部屋で、小汚いテーブルと簡素な椅子などの家具が置いてある。

 テーブルの上にはつい先ほどまで何かを食べていたのだろう、食器と錆び付いた缶詰が置かれている。

 部屋の隅にはメリスの身長の2倍程はあろうロッカーがあり、きっとメリスが撃った老人が使っていたのだろう。

 メリスは視界の中央に、常に散弾銃の先端がくるように構えて、部屋中を素早く見回した。

 てっきり発砲者の仲間でも待ち構えているものかと思ったが、どうやら一人だけだったらしい。

 相手は少ないほうがいいのだが、どこか肩透かしを食らった気分になった。

 だが、ここで気を抜いてはいけない。

 今まで何度も気を抜いて、背後から撃たれた同業者が多いことをメリスはよく知っている。

 室内に敵はいないと仮定して安心し、物陰から撃たれるものや、予想外の場所から不意

打ちを受ける者など、メリスの経験上、肩透かしを食らった直後が最も危うい。

必ず部屋の確認を行う際は、隅から隅まで相手が潜んでいないか確かめなければならない。

 だが、かといって確認のために部屋へ侵入するのは不味い。

さっきは不意を突けたので良かったが、銃声が鳴ったあとでは警戒しているはずであるし、今は背後を制圧した部屋で固めることができるが、部屋の様子がよくわからないまま侵入するのは待ち構えている相手に隙を見せることになってしまう。

その為、確認をする際は戸口に立ち、その場で状況を確認しなければならない。


 試しに一発、牽制と確認の意味を込めて、部屋の隅にあるロッカーへ一発撃ち込んだ。

 部屋中に轟音が鳴り響き、ロッカーは穴だらけとなったが、手応えはない。

 素早くメリスは先台を前後させ構える、他にどこか隠れられるような場所はないかと部屋中をもう一度見回す。

 

部屋に不気味なまでの静寂が訪れ、その中でメリスは不安げに部屋を何度も見回した。

額からは脂汗が滴り、興奮によって激しく鳴る心臓の音さえも五月蝿く感じる。

相手は本当に一人なのだろうか、メリスの背後で倒れている老人だけだとすれば、それで済む話なのだが、メリスは納得できなかった。

 メリスには発砲者の仲間が少なくとももう一人いると確信していた。

 何故なら、テーブルの上に置かれた食器は二人分だったからだ。


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