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草原地帯を走っていると、しばらくして数百m先に二台のトレーラーハウスが見えてきた。
車体の横には、例の山羊面が大きく描かれている。
そして、その手前に停まっているトレーラーハウスの屋根に鉄板を張った箱型の見張り台があり、その中から狙撃手のスコープが光の反射で、強く光っていた。
それを見ると、メリスがバムに車をその場に停めるように促し、自分は一端車を降りて、トレーラーハウスへ向かって散弾銃を掲げて手を振った。
しかし、見張り台から例の光が引っ込むことはない。
大分警戒しているらしい。
定められた方法で接近しないと、見張り台から容赦なく銃弾が飛んでくる。
スコープならしっかりメリスの姿が確認できると思うのだが、決められた事にはとても厳しい。
仕方ないとメリスはまた助手席に戻って、バムに話しかけた。
「バム、クラクション一回鳴らせ」
「2回じゃなかったっけ?」
「それは敵襲だ。3回で一人戦死だ」
「じゃぁ4回は?」
「馬鹿。二人ともやられちまったら鳴らせる奴がいないだろうが」
冗談を交えてバムは笑いながら、大きくクラクションを鳴らした。
するとトレーラーハウスの屋根の上で銃を構えていた者が、下へ引っ込んでいくのが見えた。
「用心のしすぎだよな?」
「あれはノイローゼだよ。前にアイツ騙し討ちで殺されかけたからな。それ以来ずっとあんな感じなんだと」
「腕はいいがあれじゃなぁ。山羊面が連れてきたんだっけ?」
「あぁ、恩師の息子だそうだぜ」
二匹は新人狙撃手のことをとやかく言いながら、片方のトレーラーハウスへ近づいて、車を駐車して車を降りて、車体の横へ備え付けられたカウンターへ近づいた。
日差し避けに備えられた車体から出っ張った屋根の陰のせいで、カウンターに誰か立っているのかよくわからない。
そんなカウンター越しに二匹が顔をひょこっと出すと、カウンターの奥に丸い大きいパンダ獣人が、暢気にパイプ椅子に腰掛けて古びた雑誌を読んでいた。
そんな獣人の横からは、古びた音楽が流しているラジカセが置かれていた。
先ほどの屋根の狙撃手と打って変わってこちらは不用心すぎた。
腰には大型拳銃のストックとホルスターの役割を持つ木製の物が備えられているが、肝心の銃は、カウンターテーブルにいい加減に置かれている。
「おい、キング。帰ったぜ」
そうメリスが声をかけるても、椅子に腰掛けていたパンダは全くこちらに気づかない。
そして、面白半分にメリスが大声を出すと、キングと呼ばれたパンダは驚いて椅子から大きい尻餅をついて転び落ちてしまった。
二匹がそんな間抜けな彼の姿をクスクスと笑うと、やっとパンダは二匹の帰還に気づいて、ゆっくりと起き上がりカウンターへ戻ってきた。
「おかえり。いきなり大声なんか出すんじゃないね」
「仕方ないだろ。キングが気づかねぇのが悪いよな。なぁバム?」
「あぁ、さっきのクラクションで気づかなかったのかい?」
「...雑誌に夢中でね。ごめんね」
そうキングは暢気に二匹に詫びた。
キングなんて大層な呼ばれ方をするが、実際に彼の本名は王ということだった。
ワンと読むそうだが、面倒くさいので皆キングと呼んでいる。
実際に偉いわけではないが、言い愛称だと本人も気に入っているらしい。
「まぁいいよ。それより、土産が沢山あるよ」
「軽機関銃一丁に、人類戦線の軍服と食料が手に入った。おまけに弾薬もそこそこあるぜ」
「どうせ錆弾ね。他にはなんかあるか?」
「森の奥に動物園があった。そこでぬいぐるみがあったんで持ってきた」
「ぬいぐるみ?そんなもん要らないね」
「ナンシーの奴が喜ぶんじゃねぇかと思ったんだよ」
「...あの女はそんなもんより、銃の方を喜ぶよ。それにあいつはボスのお気に入りね。下手に貢ぐと鉛玉が返ってくるね」
そんなやりとりを交えつつ、二匹はトレーラーの中へ先ほどの戦利品を詰め込んだ。
車内にはいると、先ほどのキングのラジカセがやかましく鳴っている。
これではクラクションの音にも気づかないだろう。
しかも、キングの隣は運転席があり、カーテンで締め切ってはいるが、中から山羊面とその愛人兼用心棒であるナンシーの喘ぎ声と、運転席のシートが軋む音が聞こえてくる。
もう夕方ではあったが、まだ日も暮れないのにお盛んな事だと、メリスは鼻で笑った。
「いつからあんな感じだ?」
「バムとメリスが出てってからすぐね」
「誰か来客は?」
「誰も。ここ来てからまだ日浅い。宣伝しないと客こないね」
黙々と戦利品を運ぶバムの横で、キングとお喋りしながら、メリスは戦利品の報酬交渉を行い始めた。
山羊面が運転席へしけ込んでいる今ならちょうど良い。
キングの方は山羊面と違って、話の分かる男だ。
「弾薬三百発と軽機関銃...手入れすれば売れそうね。それに、防御用にも使えそうね。よくやったね」
「苦労したんだぜ?ガソリンスタンドにいたサイコ野郎の所持品だ。」
「サイコ野郎?」
「あぁそうさ。近くの村から雌餓鬼さらって楽しくやってたようだぜ」
そうメリスが愉快そうに言うと、キングの方は少し黙り込んで、ちょっと待ってろと彼に告げて、カウンター奥の椅子の横に置かれているパソコンへ向かった。
電力は発電機で賄えるし、回線は衛生通信が未だに生きているから、使えるそうだが、メリス達はポルノサイトを見るぐらいにしか使ったことがない。
「何やってんだ?」
「人類戦線の屑野郎には賞金が掛かってるね。もしかしたら、登録されてる屑かもしれないのよ。メリス。そいつの軍隊手帳貸すね」
「賞金ってのは現物支給か?金か?」
「両方ね。しかも上手くすれば、解放戦線と獣人戦線から貰えるね」
それを聞いてメリスは、いても立ってもいられなくなり、戦利品を運び込んでいたバムにもそのことを話し、バムと一緒にキングの操作するパソコンの画面をのぞき込んだ。
あんな屑野郎でも役に立つものだと、少し感謝したい気分だった。
しばらく、よくわからない文字の羅列を眺めていると、キングは画面を操作する手を止めて、文字の一部を指さした。
「あった。元人類戦線の高官ね。報酬は戦線支部で貰えるそうね」
「やったぜ!報酬は俺たちのモンだよな?!」
「別に構わないね。私調べただけね。殺したのお前等ね。」
商売人の癖に妙に欲がないキングは、本当に頼もしい存在だとバムとメリスは感謝しながら、彼から先に戦利品の報酬を貰うことにした。
「軽機関銃と弾薬と、衣服で...そうね。使用弾薬とカートン2個ね。あとオマケに危険手当ね...。保証書はいるか?」
「いらねぇよ。今日はついてるぜ」
そうキングが倉庫から、弾薬と例の山羊面煙草を取り出して、二匹に手渡した。
それとこれはオマケの危険手当だと、カウンターの金庫から解放戦線で流通している紙幣を数枚ほど渡した。
二匹はすぐにズボンのポケットに受け取った報酬を突っ込んで、宿舎代わりのもう片方のトレーラーに帰ろうと、カウンターを後にしようとした。
だが、トレーラーハウスを出た瞬間、二匹の背中に何か堅い物が不意に押し当てられた。
「おい。今ズボンに突っ込んだ物を出せ」
そう冷たい声が後ろから聞こえ、慌てて二匹はポケットに手を突っ込んだ。
恐る恐る振り返ると、二匹の後ろにはバムの二倍ほどの身の丈がある二本足で立って突撃銃を構えた山羊獣人と、バムよりも小さい兎の獣人が拳銃を構えていた。
「なんだよ、ボス。これは正当な報酬だぜ?」
「黙れ。猿共。俺が渡さない報酬は正当じゃねぇんだよ」
メリスが不平を吐くが、山羊面は平然として銃を構えている。
どうやら行為を切り上げて、運転席から飛び出してきたらしい。
ボスと呼ばれた山羊面は裸だった。
その隣にいる兎はかろうじて、下着だけは身につけていたが、そこまで山羊面の格好と変わらなかった。
「あと賞金掛かった奴を殺したらしいな」
「何で知ってるんですか?ボス」
「馬鹿野郎。筒抜けだったぞ」
確かにそれはそうだろうが、自分らの行為に対しては羞恥心というものは湧かないのかと、バムは内心思った。
「別に全部返せとは言わないが、半分ずつ返せ」
「...畜生」
上手く山羊面にばれず、報酬を頂けると思っていたが、ついてないと二匹は泣く泣く報酬を半分ずつ返した。
全部持っていきたいが、その行為に対して鉛弾のボーナスまでついてはどうしようもない。
「よし。まぁご苦労。次の回収までゆっくり休みな」
そう報酬を返すと、山羊面は満足げに隣の兎を抱っこして、再び運転席の方へ戻っていった。
どうやら第二ラウンドを始めるらしい。
運転席へ向かって散弾銃をぶっ放したくなったが、あの二匹に返り討ちにあうことは目に見えていた。
山羊面の方は、元々大規模なトレーダー集団のリーダーの息子で、戦闘経験などシビアなやり取りの経験が二匹を簡単に上回るし、その愛人兼用心棒は解放戦線の元特殊部隊員だ。
一体何があってこんな事をしているかは不明だが、バムとメリスより腕が立つことは確かだった。
「あちゃー...ついてないね。お前等」
「うるせぇ」
「まぁ気ぃ落とすな」
そうキングの奴が同情の目をこちらに向けている。
何故、報酬を割り増しした彼に山羊面が何も言わないかといえば、彼と山羊面は相当古い付き合いらしい。
そのせいか、今回のように山羊面にばれなければ割り増しされた報酬を受け取れるのだが、今回はついてなかった。
肩を落とした二匹が宿舎代わりにしているトレーラーハウスに入ると、車内の左右に取り付けられた簡易ベッドの一つから、バム程の身の丈の豚獣人が丸い顔を出してこちらを見ていた。
「先輩。おかえりなさい」
「よぉ。...お前、後方の警戒はどうしたんだよ?」
「ジャックさんが代わってくれました」
「あっそう。...お前さ。俺が銃持って手を振ってんだから、銃を下げろよな」
「仕方ないじゃないですか。規則通りやらないで近づく奴は撃てって決まりですもの」
そう豚獣人は少し申し訳ないようにいうと、傍らに置いてあった狙撃銃に目をやった。
この豚獣人こそ、先ほどの見張り台に立っていた狙撃手であり、新人である。
「でもよ。スコープで見りゃ俺だってすぐにわかるだろ」
「偽物かもしれないじゃないですか」
「どこに散弾銃持って、車に乗ったチンパンジーがいるんだよ」
「ここにいるじゃないですか」
そんなやり取りをバムは横目で愉快そうに見ながら、自分のベッドで寝転がった。
やはり車のシートより数倍良い。
報酬は山羊面に半分持ってかれてしまったが、全部持っていかれなかっただけ、まだ良心的と言えた。
そんなことをぼんやり考えていると、睡魔がすぐにやってきた。
日はまだ暮れてはいないが、このまま夕食まで寝てしまおうとバムは思いながら、相棒の声を無視して瞳を閉じた。
夢を見た。
なんとも表し難い夢であった。
ボヤけた視界の中には、あまりにも多すぎる人が行き来し、それが何かの節に一瞬にして皆、バムと同じような獣の姿になった。
バムはそんな異様な光景に対し、何も言葉が出ず、ただ呆然とその惨状を見つめているだけだったが、ふと思い出したように
「所詮、皆獣なんだ」
そう一言だけ、呟いてみせた。
長編を意識して書いていましたが、途中でさまざな事情が重なり短編連載になりました『獣走銃騒』もこれで一応完結でございます。
本当に短い間でございますが、お読みいただきありがとうございました。




