誕生日だぞ祝え
プロローグ【多分八月九日】
さてここはマモンさんのお家。
「なぁリヴァイアサン、あんたケーキの材料知らない? ルナちゃんの誕生日に作る予定だったんだけど」
「帰ってくるの遅そうだったから代わりに作って送っといたけど」
「へぇ、気が利くじゃん。あっ、その塩辛美味そう」
「でしょー。食べる?」
「うん……しょっぱ」
【大お誕生日会~覚醒編~】
祝ってもらえないと流石にボクだって寂しいのだ――
「おねえちゃん! 今日何の日か知ってる!?」
と勢い良くリビングの扉を開けて飛び出したボク。ソファーにどっぷり腰掛けて本を読んでいたスフィアお姉ちゃん。あんまり唐突だったのかびっくりしてビクンッて跳ねたのがちょっぴり可愛らしくてますますお姉ちゃんが好きになる今日このごろ。そんな今日はボクの誕生日なのだ――
「え、今日? うーん、ルーヴル美術館開館の日?」
ルーヴル美術館はフランスの代表する最大級の美術館。基本的にオールマイティな年代を集めてるけど十九世紀の印象派とかはオルセー美術館のほうで見てね!
「違うよ! そうじゃなくて! ほらスフィアお姉ちゃんだったらクリスマスみたいな感じで!」
スフィアお姉ちゃんの誕生日は十二月二十五日。お姉ちゃんはメタトロンだからクリスマスが誕生日らしいよ。ミトラ教の冬至の生誕祭をキリスト教が吸収したからクリスマスができたって言われてるんだ。
「えー、宗教関係かしら。ムハンマドがジブリールに初めて啓示された日?」
「んもう! お姉ちゃんは最愛の日本人の妹の大事な日を忘れたの?」
こうもスルーされると結構腹が立ってくるのだ! ボクはお姉ちゃんの誕生日は毎年祝ってるつもりだし、ファウスト姉やラファエルの誕生日だって一応は祝ってる。それなのにボクの誕生日だけ祝ってくれないなんて人種差別だ! イエロージャップはどうでもいいってのか!
「日本……日本……あっ、ポツダム宣言受諾決定の日ね!」
「む、むむむ、むきー!」
その時ボクの頭の中で何かが爆発する! 放たれた一筋の矢のようにスフィアお姉ちゃんに飛び掛かると、そのままバカバカバカとぽかぽか殴りつける! フラッシュハンド! ビームスライサー! シャイニングブレイク! ルニウムバースト! ルナイトレボリューション!
「ちょ、ちょっとやめなさい必殺技出てるわよ!」
お姉ちゃんがそう叫びながらボクの顔面に一撃、ブリッツファウスト(ホントはファウスト姉の技だけど一応お姉ちゃんもできるみたい)が直撃するのであった。そこからの意識はない。薄れ行く世界の中で、喧嘩の音を聞いて駆け付けたファウスト姉とラフがため息混じりに部屋の掃除を始めて、その横でスフィアお姉ちゃんがひたすらごめんなさいと謝り続けていたような気もするが定かではない。
「誕生日なら私がいつでも祝ってあげるってのに、起きろルナ」
ラファエルがそう言ってぺちんっ、とほっぺを叩いてきた。痛みで目を覚ます。気が付くと椅子に座らされていたのだった。何故って? それは多分目の前の美味しそうなケーキのせいだと思う。
「誕生日じゃない日に誕生日祝ってどうするの……あっ、起きた」
ファウスト姉がそう言うとスフィアお姉ちゃんが後ろから急にぎゅ~っ! と抱きしめてくるのだ! おっぱいが背中にもぎゅうと押し付けられてなんだかこそばゆいぞ! うへへ。
「うぅ、ごめんなさい。お誕生日すっかり忘れていたわ。お姉ちゃんったらダメなお姉ちゃんね」
「うぅん、お姉ちゃんは悪くないよ! ボクが素直になれなかったのが悪いんだ!」
「ルナちゃん……」
「お姉ちゃん……!」
ちゅーっ! ってしようと思ったんだけどラファエルに抑えつけられちゃった。スフィアお姉ちゃんもファウスト姉に必死に止められてる。焼いてるんだな!
「そう言うのは私の見てないところでやってくれ! 不愉快だ!」
「僕達は姉妹になっていいとは言ったけど二人で夫婦になってくれなんて言ってないよ!」
「ただの姉妹のキスじゃないの」ってスフィア姉とボクが同調すると、
「だめ―ッ!!!」って二人も一緒に叫んじゃう。やれやれボクってやっぱり愛され系ボクっ娘妹ちゃんなんだな。
「まぁ仕方ないわね。ナハルさんから届いたケーキ食べましょうか」
「えっ、それナハルのなの、僕達遠慮しておくね」
どれ一口……しょっぱい。
「まずいわねこれ、ピザ頼みましょうか」
シーフードケーキは窓からぽいっ、と投げて僕の最高の誕生日会は始まるのでした。
『また私達省かれた!』完




