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隻眼の肆軍  作者: 猪瀬
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「ああ!…そうだ本部に報告書を提出する為にわざわざこんなところまで来たのに出すのをすっかり忘れていた…チズサ、先に帰っていてくれ。」

今来た道を走って戻る彼の後ろ姿を見てとてつもなく不安になった。

『あの人が大佐で本当に大丈夫だろうか…。』

…‥…もちろんこれは真剣な悩みだ。


大体報告書を提出する為に本部まで来たというのに昼食だけ食べて帰って来てしまいそうになるなんてそんなアホな大佐他にいるだろうか。

しかもこのようなことは今回だけに限ったことではない。大佐は何処か抜けているというか忘れっぽいところがある。いつだったか一年で一番大事な総合会議の日程を忘れないようにと毎日伝えていたのに当日になってすっかり忘れていることがあった。あれは本当に焦ったし、殴ってやろうかとも思った。いや、殴ってやろうかは冗談。

そして、もう一つ…あの酒好きをどうにかしてほしい。酒を飲むなとは言わないが、毎晩毎晩異常なくらい酒を飲むのはやめてもらいたいものだ。もちろん身体も心配だがあの酔った時にする『元カノ話』がめんどくさい。もう何十回と聞いているのにまだ話が尽きていない。一体あの人は何人と付き合ったのか…考えるだけで恐ろしい。


ふぅ、と一息吐きながら暗い森の中を一人で歩いていく。ラルグ軍の本部はこの森の一番奥にある。何故こんな森の奥にあるのかと言うと”街に近いところにこんな人殺し集団の本部があったら国民が怖がってしまうだろう?”という政府のお偉いさんの意見に国民が大賛成し、我々を街に簡単に近づけさせないようにとこんなところに追いやったらしい。

もちろん我々は人殺しなんてしていない。だが、政府に楯突く権力なんて無い我々が国民や政府の者を敵に回したところで勝てるわけがない。なので、大人しく森の奥の廃墟のような建物を本部としている。


本部の建物が見えてきた。帰ったらとりあえず大佐の部屋まで行って昨日からどのくらい書類が終わっているのかを確認して、自分の残りの仕事を片付けて、政府に提出する書類の確認と、ああ、再提出する書類もあったっけ。やることが多すぎてもうどれからやればいいのか分からない。今日は徹夜になるかもしれないな。そんなことを考えながら歩いていた時だった。

ガサッと茂みの中から物音がした。

まさか敵か?政府の役人がとうとう私達を殺しに来たか?それとも国民?いや考えすぎか、動物かもしれない。頭の中で悪いことばかりがぐるぐると渦巻く。

茂みの中にいる物の正体を確認する為に少しずつ近づく。一歩、二歩。そして茂みに手を伸ばそうとした時だった。茂みの中から出た二本の手で口を塞がれ、奥に引き摺り込まれた

「んん”!」

まずい。やられた。殺されるか?こちらは丸腰だ。大佐に手持ちの銃を預けたままだった。__終わりだ…直感的にそう思った。


「おおっと~叫ばないでねぇ~」

と耳元で囁かれる。男の人の声だ。なんだろう何処かで聞いたことのある声だ。私は男の顔を確認する為に睨むようにして後ろを見た。



「……は?」

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