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隻眼の肆軍  作者: 猪瀬
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「これはこれはカジ・アーキン大佐様じゃないですかぁ。軍の役立たずがこんな所で堂々と飯なんて食ってるからびっくりしてしまいましたよ。可笑しいですよねぇ、あんたらは俺らと対等な立場になれるほど働いてないのに国民の税金で飯食ってるなんて。」

大佐に大声でそう言い放ったのは王政府直属の軍、王政府軍の中佐であるエドワード・ジョーンズだった。彼はラルグ軍の存在に納得しておらず昨年の会議でラルグ軍を今すぐ無くすべきだと発言したらしい。

ラルグ軍はアルシエルの抹殺を専門としているため、他の軍と比べ仕事量が非常に少ない。しかし、この国では軍の間に争いが起こらないようにと軍の給付金を平等にしているのだ。そのためラルグ軍も王政府軍も同じ額の給付金が与えられているのである。

それが中佐には気に食わなかったらしいが政府が決めたことに反対するわけにもいかず結局これで可決されてしまったのだという。


「ガシャーーン!!」

という大きな音で我に返った。

音のした方を振り返るとそこにはテーブルに寄りかかったまま動かない大佐の姿があった。

「カジ大佐!!」

大声で呼びかけながら急いで駆け寄った。

「あいたたた。さすが王政府軍の中佐だな。蹴りが強い。こりゃあ俺の敵うような相手じゃないようだ。」

大佐はむくりと起き上がると中佐目の前までスタスタと歩いて行った。

「私のことは一生許さんでも構わないがここで食事をするのは許していただきたい。腹が減っては戦はできぬというしな。」

大佐は中佐に一礼をして食堂を後にした。チズサも大量の書類を抱えながら大佐の後を小走りでついていった。

「おのれ化け物め。いつかお前をアルシエルの餌にしてやらねばならぬようだな。」

中佐は不気味な笑みを浮かべると床に落ちたままのパンを踏み潰した。



「大佐。どうしてあの時反抗しなかったんですか?どうみても中佐より大佐の方がお強いはずなのに。」

「…あそこでもし反撃していたら後後俺が先に手を出したと捏造することだってできる。王政府軍はラルグ軍より国民からも政府からもそして兵士からも信頼されているからな。俺らが後でどれだけ抗議したところで耳を傾けてくれるわけないだろう。そんなことになったらラルグ軍の奴らにまで迷惑がかかってしまう。今だって辛い思いをしてる奴らばっかりなのにこれ以上の仕打ちはないだろう?」

そう言って大佐は笑った。でもその笑顔は何かを誤魔化すための作り笑顔のようで、(しお)れた花のような哀しい笑顔だった。


「さてと、早く帰って資料を片付けなければならんな。」

「!?…大佐!!まだあの資料片付けてなかったんですか!?昨日あれだけ言ったのに…!今日こそ終わらせていただきますからね!もうどれだけ期限を伸ばしてると思ってるんですか!!」

「ああ、ああ、分かっているよ。仕方ないだろう。最近忙しくて手を付けられなかったのだから。」

「忙しくて!?嘘言わないでください!昨日、シグさんと夜通し飲んでたの私見ましたよ。お酒飲むのは仕事が片付いてからにしてくださいといつも言ってるじゃないですか全くもう。」

チズサが頬を膨らませながらそっぽを向き、そして少しだけ笑った。こんな毎日がいつまでも続けばいい。アルシエルの抹殺を計画しながらではなく、普通の一人の人間として生きたいとそう強く思った。

「うぅ…。分かったよ。酒は大概にするとしよう。」

「当たり前ですよ。もう。」


ああ、いっそこの幸せなまま死ねたらいいのに。


そんなことまで思うようになってしまった私はきっと軍人失格なのだろう。心の中でそう思った。


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