~第90章最終話 6年後~思いを寄せていた彼と
約束通り、冬真くんは国家試験に一回で合格した。
必ず約束を守ってくれる彼は、本当にすごいと思った。目標達成の為には、努力を惜しまない。そんな姿はいつも尊敬していた。
そして、私はというと・・・
「ねぇママ、パパどこ?」
リビングでひとり遊んでいた息子は、私が夕飯の支度をしているキッチンまでトタトタと足音をたて勢いよく走ってくると、少し寂しそうな大きな瞳で私を見上げ尋ねた。
「ん?パパはね、フランスっていう国でお仕事してるのよ」
「フランス?」
私は、彼の目線と同じくらいの高さになるようにしゃがむと、パパが何処にいるのかを教えた。だが、国というものが何かまだわかっていない三歳になる息子にはピンとこないようで、不思議そうに私を見つめた。
「そうよ。でも今日帰ってくるから・・・」
私が、そう言いかけた時、タイミングよくインターホンが鳴った。
「あ、パパかな?行ってみよっか」
「うん!」
私は、息子を連れ、玄関ドアを開けた。
「ただいま」
「パパ!」
ただいま、とにっこりと微笑み、愛おしそうに私たちにキスをする彼。そして、久しぶりのパパの姿にキラキラと瞳を輝かせ、大喜びする息子。
「おかえりなさい」
もちろん、私も嬉しさを隠せない。
愛しい彼と、その彼との子ども、三人で過ごす日々は、この上なく、幸せだ。
そして、子どもを寝かしつけ、夫婦ふたりだけの時間がくると、彼は私を恋人のように扱ってくれた。
「夏緒里・・・おいで・・・」
柔らかに微笑み、私を呼ぶ彼。
私は、そんな優しい彼の座るソファへと向かい、彼の隣に腰を下ろす。そこから見える夜景は、いつもキラキラと輝いていた。
「ここから眺める景色は、いつも美しいね・・・」
丁度私も同じことを考えていた、と彼に伝えようとした時、突然、彼は私を強く抱きしめた。
「夏緒里・・・会いたかった・・・」
甘く切ない声で囁く、少し甘えん坊な彼。
子どもの前では決して見せない、彼の脆く繊細な心。そんな彼の背中を、私は優しく撫でた。
「私も、会いたかったよ・・・冬真・・・」
そうして、彼はゆっくりと抱擁を解くと、安堵したように微笑み、そっと私に口付けた。
そう、冬真くんが試験に合格し、晴れてお医者さんになった年の秋、私と冬真くんは結婚した。
そしてその1年後、子どもが生まれ、私は仕事をやめた。結婚してからは、三人で彼の勤務先である学園都市の大学病院近くのマンションに住んでいる。
冬真くんは、たまに海外研修でこうして10日程、家を空ける。帰宅すると、彼は最愛の息子と嬉しそうに遊んだ。そして、必ず私を強く抱きしめた。
結婚した今でも彼は、私が自分の元から居なくなるのではないかと思うことがあるようだ。
しかし、それはこうして私を強く抱きしめることにより、解消される。私もまた、彼を抱きしめることで、この幸せが夢ではないことを、改めて感じることができた。
運命というべきか、私たちが授かった子は男の子。
冬真くんは、自分のようにつらい思いをしてほしくない、と、将来を無理強いすることはしない。愛情を知らずに生きてきた自分を振り返るように、我が子には最大限の愛情を注いでいる。
こうして、普通の恋愛とは言えなかった私だけど、今、私は、とても幸福に満ちた人生を歩んでいる。
彼が約束してくれた通り、世界一幸せだと呼べる人生を。
一気に6年後でいいのかなと、思いつつの最終話でしたが、いかがでしたでしょうか?長々と書いてきたわりに納得いく結末ではなかった方もいらっしゃるかもしれませんね。作者も途中悩みました(笑)ここで書けなかった、もうひとりの美しい彼(笑)、のことも少しお話したいので、番外編をあと1話書く予定です。よろしければ、そちらもお付き合いいただけると嬉しいです。




